2021/02/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」に影時さんが現れました。
影時 > 旅の行き先を考えるのは楽しいものだ。
決まり切った旅でもいい。一度見たものが良きものであれば、それが在ることに安堵できる。
しち面倒な務めが旅は億劫だが、土産がなくとも生還できたことを美酒と共に喜べるなら、まだいい。

だが、こうして掲示板という形で張り出される依頼とは、往々として浪漫とは程遠いものばかりだ。

「……やぁれやれ、だ。仕事の分配間違えちゃいねェかな。ったく」

平民地区に点在する冒険者ギルドのひとつ。
併設された酒場の片隅で、そうぼやきながらちびちびと酒杯を傾ける姿がある。
窓ガラスの向こうに見える空の色は暗い。既に夕餉時を過ぎ、暫くすれば夜も深くなろう。

だが、それでもこの酒場は人が絶えることなく、喧騒にあふれている。
成功を祝って盛大に打ち上げの音頭を響かす席があれば、片や鎮魂か。沈鬱げに盃を運ぶさまがある。
酒場の隅の席だからか、視線を動かせばよくよく見えてしまう。

ある種、最早見慣れた光景だ。
強い蒸留酒と共に塩と香草で味付けした鶏の串焼き肉を摘まみに食しつつ、盃を動かして。

影時 > さて、と。内心でそう零しつつ、料理と酒と共に卓の上に広げられたものを見る。
地図である。精巧な地図ではない。絵図面と呼べるほどの精緻なものは、こんな場所では広げづらい。
どうやら原本は別にあるらしい、のか?
薄い紙に描き移されたと思しい線と記号とも文字とも見える書き込みとは、読み解こうとする気も失せさせる。

「仕事の報酬ついでにと貰ったは良いンだが、最近の地図と突き合わせるには面倒だな」

ここ数日はある貴族の資産の古文書の整理、古物の売却に係る依頼を受けていた。
異邦の地からの流入、輸入品と思しい物品も混じっていれば目利きの出来る者をということで、ギルドから頼まれたからだ。
荒事ではないだけに実入りとしては程々だったが、興味深くはあった。
この地図は古書と古書の間に、それこそ押し花よろしく挟まっていたものだ。

「学院で参照できねぇなら、……――調べものに王城に這入るか?」

そも、此れが地図であるかどうかが怪しい。地図のように見える何か、かもしれない。
そんな信憑性の危うさに依頼主も持て余して、己にくれたのだろう。
煙管代わりに肉が刺さっていた串を咥え、先端をぴこぴこと動かしながら嘯く。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」にフォンティーンさんが現れました。
フォンティーン > 正直な所を言えば路銀が心許無い――
大分情けない理由がこの様な夜分に冒険者ギルドへ訪れた理由。
とはいえ、掲示板を眺めみてもこの時刻に情報の更新等ある筈も無い。

そうっと、然し肩の線が明確に下がる様な吐息を零すと
行きがけの駄賃代わりに通り掛かる店員へとホットワインを一つ頼んで空いた席を見渡した。
一仕事を終えた同輩達がある卓は朗らかに、ある卓は反省会にでもなっているのか沈鬱に
様々な色に塗り替えているのは見えるが、込み合う時間帯だけに漸く空きを見付けるのは対角線上。
中途、席に着く前に届いて仕舞ったカップを受け取りつつ、甘くスパイス混じりの湯気を燻らせて歩き――

「――……随分珍しい紙だな。」

道すがら、卓の上に広げられた紙に思わず視線を注いで一言。
独り言なのだろう気の抜けた声音と言葉尻に漂う興味。
言った後で其の儘他人の物を盗み見た絵図に気づいて片手で口を押えるも、時遅し。
勿論視認できたのはぱっと見、素材程度の話なのだが。

影時 > 手がかりになりそうと云えば、この文字とも記号ともつかない書き込みだ。
この地に踏み込んでから公用語と言える類の言語は習熟したつもりだが、この書き込みは未知である。
知らぬものは知らぬ。分からないものは分からない。
その点をよくよく弁えた上で、次善策を思う。気になる事柄は満足ゆくまで知らねば、気持ちが悪い。

「……いンや、早計か」

それに、市井にない何もかもがこの国の王城にある訳ではない。
そう思い直せば肩を竦め、盃を傾ける。空になれば卓上の瓶から手酌で注ぐ。
――温い酒だ。だが、少しは普段より多く金を出した分だけ値段相応に旨い酒である。
毎日こればかり呑むと財布には響くが、稼ぎが出た時位は良いだろう。

「だが、宛てもなくってのも芸がないものは確かだ……と?」

地図の写しでも作って、読み解けるものを募る依頼を出した方が早いか?
ふと、そんな事まで考えもする。だが、其れには差し障りがある。
余分な大金を手元に置きたくない主義が裏目に出たか。
どうしたものか、考えていれば、ふと鼻腔を擽る香辛料入りの葡萄酒の香気を感じる。
その認識と共に鼓膜を震わせたのは、独り言めいた姿だ。顔を巡らせ、見える姿に目を瞬かせ。

「おや、こいつが気になるか?」

その気がなかったのか否か。口を押さえる姿にク、と喉を震わせながら見つけ、ちょいちょいと手招こう。
その上で己が対面の席に座りやすいよう己が皿と杯、瓶を引き寄せ、壁に立てかけた太刀の位置も直して。