2020/11/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にタピオカさんが現れました。
■タピオカ > 降りしきる雨。
雨粒跳ねる音が、平民地区にある冒険者ギルド兼ねる酒場に静かに響く。
昼下がりのギルドは人が少なく、まだ寝ぼけているようだった。
依頼を受けた冒険者は既に旅立ち、懐にまだ余裕がある者はテーブルでちびちびと酒精をあおる。剣を磨く。リュートやビオラを奏でる。
外の空気と同じようにしっとりとした演奏を耳にしながら、依頼が張り出される大きなコルクボードを眺めていた褐色肌の小さな人影は、唇に指をあてながらそのボードから離れた。
「うん。……今は僕が引き受けられるような依頼は無いかな。
外は雨だし、今日は――お休み!」
雨が降ったらお休み。そんな気安い勤労意欲だった。
カウンター席に腰をかけると、温かい山羊乳のミルクを注文し。間もなく運ばれた、湯気たつ乳白色のコップを両手で持って口につけ。ほっと美味しそうな息を吐く。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に弾正さんが現れました。
■弾正 >
しとどに降る甘雨模様。
寒気合わさり、氷雨は鉄も土も冷やしていく。
但し、人模様は相も変わらず、たかが氷雨如きに奪われる熱も無し。
其の様な酒場の扉がぎぃ、と軋みを立てて開いた。
此の地には物珍しき、黒装束。雅な秋季模様を身に纏わせ
草鞋は木板を滑るような静かで、そして優雅な足取りで進んでいく。
此の世においては、実に浮ついた雰囲気を醸し出す男だ。
かといって、斯様な事を歯牙に掛ける事も無い。
実に勝手知ったる、といった具合でカウンター迄馳せ参じん。
「酒を一つ、頂こうか。
……嗚呼、涅槃に行く程度ではなく、程々の物が良い。
夢心地に成るのは、まだ早くてね……。」
カウンターの向こう側の店主へと注文を頼めば
細い翡翠の双眸がゆらりと、少女へと向いた。
「もし、宜しければ隣に座っても宜しいかな?
少しばかり、話し相手も欲しくてね。構わないだろう?」
低い男の声が、タピオカへと問いかける。
■タピオカ > 雨は街道の土をぬかるみに変えるが、軒下の人間の耳を澄まさせる。家々の小さなベランダに生けられた花から落ちる雫、街の地下を行く流れ、誰かのブーツが水たまりを鳴らす響き。
温められた飲み物を手に軽く瞳を伏せ、自然の音色に身を任せていると新たな気配。
気配だけは進んでいるのに、その足取りは酒場の床を滑るようだ。
これは使い手だ――。剣術が達人の域になれば、一間ほどの距離は距離としては数えられず、移動は一瞬。行動としても時間としても数えられないらしい。
剣を帯びる者として、牧歌的ながら気の荒い遊牧民の出自の己としては反射的に内心のうちで口笛を吹く。
かけられた声に薄く閉じていた瞳の頬杖姿が振り返り。
「どうぞ、隣人さん!
僕も、今日は自分に合う依頼がなくて。
雨音を聞いてくつろいでたところなんだ。
ぜひぜひ、お話相手になるよ」
笑顔弾ませ、自分の隣の席をてのひらを上にして差し向け。
「お兄さんは……このあたりのひとじゃないみたいだね。
旅人さん?
とっても腕っぷしが強そう」
相手が着席に至る間、失礼の無い程度に彼の装いに目をやって。思い当たるままの雑談を重ねる。
衣服や、佇まい。そしてその腰にある、静かな威容を放つ宝刀に興味しんしんと。
■弾正 >
「忝い。では……。」
一礼。会釈だ。
長い黒髪が流れるように揺れる。
外から聞こえる雨音も淡く、酒場の喧騒も一つの風情だ。
薄らと緩んだ口元のまま、男は静かに腰を下ろす。
「然るに、隣人と来たか。くくっ……いや、何。
そう呼ばれるのも久しいものだ……私の隣に見合う人物がいたかは、はてさて……。」
無論、少女の意図とは違うであろう。
然れど、如何にも男には可笑しく聞こえたらしい。
思い返せば、"立ち並ぶ"者と謂うのも甘露な響きだ。
くつくつ。実に愉快と喉を鳴らした。小鳥の囀りには劣る低い波紋だ。
「依頼、か。ともすれば、君は傭兵か、或いは冒険者か……。
漂う草葉の香……君は、草原の出身かな?」
鼻腔を擽る朗らかな香り。
此処とは違う、己の故郷で覚えの在る匂いだ。
今でもよくよく覚えているとも。風に靡く草木の音色。
実に、良き風情が在った。そう言う意味では、此の香は落ち着く。
カウンターに差し出された木樽の器を取り、中の液体を僅かに揺らす。
僅かな酒の匂いが、器から漂ってくる。爽やかな香りだ。
「弾正(だんじょう)。私の産まれた世界ではそう呼ばれていた。
旅人、と言うのも間違いでは無いが……恐らく、是は黄泉路だな。」
何処か含むような言い回しをすれば、己の首を軽く撫でた。
器に口をつけ、中の液体を流し込み、嚥下する。
「……いやはや、故郷の酒とはやはり違うな。
嫌いでは無いが、さて……、……おやおや。
生憎、剣一つ振るうので精一杯だ。細腕とは言わないが、争い事等とてもとても……。」
出来たものでは無い。
僅かに袖から出した腕は、筋肉が乗っているようには見えない。
その腕を自らの腰まで下げれば、添えられた漆塗りの宝刀を軽く小突く。
「……是に、興味があるのかな?」
■タピオカ > 「あは!
……それじゃ、ずっと隣に誰も居ないまま旅をしてきたのかな。
でもお兄さんの肩には風が見えるよ。気ままな風。
揺れる枝葉とか、落ちてきた鳥の羽。
そういうのをずっと隣に置いて歩いてきたんじゃないかな?」
出会ったばかりだ。友と言うには図々しい。
遊牧生活では連れ立って行く家族以外の人間の姿は珍しかったから、まず隣人さんと挨拶をする。
一族と故郷を離れて王都へ上り、生計を立ててしばらく経ってもそんな挨拶の風習を覚えたままでの呼びかけだった。
然り、彼の話題の意図とは違う。
そうであっても、相手の台詞の譜面通りとはなんだか思えず。隣に見合う者が居ないという言葉にゆるく首を振って。
戯れともとれる、そんな印象知らせ。
「うん、正解!僕は冒険者。
草原、野原の国から来たよ。北の、シェンヤンの脇。
小脇って言うには広い広い、穏やかで自然以外は何もない世界が僕の出身なの。
そこで大きなテントと家族と、家畜を連れて。あちこち歩いて暮らしてたんだ」
職や出自を言い当てられたら、直感が的を得た事を祝うように笑顔綻ばせ。
まるでテーブルの上に件の草原が見えるように瞳を細めながら身振り手振り。
丁寧に注がれる酒精は、粗暴な冒険者が好む強い酒の匂いではない。
その清かさに、すん、と胸に吸って心地よく。
「弾正……。悟りの本みたいな名前だね。
僕はタピオカ。よろしくね!
……黄泉路?あはは!それなら、僕もその道連れだよ。
そこを目指さない生き物なんて、居ないもの」
相手を呼ぶ存在や、その名を身に着けた彼の意図は存ぜず。印象だけで口にする、名前の形容。
黄泉路という響きに弾む声音は失礼かもしれないが、
それはきっと茶錆びた干からびた場所へ続く道ではなく、誰もが通る広い道だとばかり。
自分も同じ道行く旅人だと。
「強いひとほど、強さを誇るのを忘れるって言うけれど。
――うん!興味あるよ。
たとえば、それをどうやって手に入れたか。とか。
僕も剣持ちだからね!」
確かに豪腕ではなく細腕に近く見えた。
しかし、それではこの宝刀がその身を腰に帯びさせる事を許す説明が付かない。
これほどの刀であれば、持ち主を選ぶはずだ。
理屈ではないが、そんな剣士としての感性。
同時にその感性は、音楽家が他の音楽を知りたがるように、剣士も剣を知りたがる。
じっと、小突かれた漆塗りを見つめ。
■弾正 >
雨模様には雨模様の風情がある。
しとど、世界を濡らす雨と付き合う酒も美味いもの。
酒場の喧騒とは違い、そんな雨音と同調するかのように
静かに、音を立てずに酒を嗜んでいく。
「一時の道連れはいたかもしれないなぁ。
誰かの下に付く事も無く、悉くは皆立ちふさがるのだ。
旅路、と言うよりはさながら壁だな。私も大層、悪人だったが故にな。」
討たれるには相応の大義が、壁が立つには相応の理由が聳え立つ。
山在り谷在り、苦難を隣人と称えるには風情が無い。
いやいや、と言わんばかりに自称悪人はざんばらに髪を揺らし、首を振った。
「然るに、君の言う事も強ち間違いではない。
風のままに歩み、揺れる枝葉に問いかけ、囀る小鳥を耳朶に染みる……。
……嗚呼、実に悪くない生を歩んできたよ。自由の意味を、私程知る人間はいなかっただろうに。」
それこそ、何事にも縛られる事も無く、風のように吹き抜ける。
何物にも止まる事もせず、唯在るがままに、流れるままに、此処に来た。
全ては、必定。酒の水面に映る表情は、何かを懐かしむような、遠目の翡翠。
「シェンヤン……嗚呼、北の大国、だったかな?
此の辺りには疎くてね。唯、此処よりは大層立派な国だとは知っているよ。」
マグ・メールよりは地盤を固め、大国の威厳を放つ大帝国。
不肖、流された旅人にとっては実に他愛なき事成れば
文字通り、風に聞く程度でしか知りえはしない。
ふぅ、と呆れたように吐息を一つ吐けば、酒で一つ、憂いと共に飲み干した。
「良き場所のようだな。君の国も、是非とも一度行ってみたいものだが……。
……嗚呼、此の名の意味は、悟りよりも"律"だな。私は、本来律する者として、産まれたらしいが……。」
己の首元を軽くさすれば、呆れたような低い笑い声が漏れた。
「私程、欲に弱い人間も居なくてね。
体は名を表す、とは世迷言だと思ったよ。」
「其の証拠に、私は確かに浄土に堕ちた、はずなのだがね……。
タピオカ。君は道半ばだろうが、私の黄泉路は文字通りなのだよ。
最後に立ちふさがった壁に、私は敗れた。結果、首を跳ばされたのだが……御覧の通りだ。」
此処にいる。
多くの客人、其の一客として迷い出る。
此れもまた、一つの運命なのかもしれない。
此処が浄土と言うのであれば、此れほどの極楽は無いと思っている程に、この世界は実に、興味深い。
「強さを誇る、か。誇示した所で、何とするか、だな。
私は其れに意味を見出せぬ、詰まらない男でね。きっと、此処にいる者とは馬が合わない。」
それこそ、其の辺りの力自慢など鼻で笑ってしまう程にだ。
そんなものを掲げた所で、何の自慢にもなりはしない。
腰に携えた其れを、抜いた。鞘から出さず、カウンターの上に置かれた、漆塗り。
宝石のような装飾が施された訳では無い。唯、武器と言うには余りにも美しい"造詣"がそこにある。
光さえ吸い込むような、怪しく光る黄金比の一刀也。
「是が私の手元にある理由か。そうだな、"貰い受けた"と言った方が、君には聞こえがいいかな?」
からかうように、言ってのけた。其れこそ幼子をあしらうが如くだ。