2020/08/13 のログ
イディオ > (正直疲れていた、そして、体力回復には食事は必須だった。だからこそ、男は一生懸命に、必死に食事をほおばっていたのだ。
ギルドはそれなりに安全な場所だ、冒険者同士が諍いあっていたとしても、この中で戦うのは基本的には、NGとされる、その暗黙の了解を崩そうものなら、その場にいる冒険者全員を敵に回すといって良い。
だから安全だと、男は警戒もなく食事に全身全霊を向けて居た―――。)

「―――んっ!”?ぐ!?」

(余り目立たない場所、というか、人が嫌う場所での食事、誰かが声を掛けてくると思って居なかったから、急な声かけに驚き、のどに詰まらせかける。
どんどんどんどん、と自分の胸を叩き、詰まり掛けた食物を強引に嚥下する。
声を掛けた彼女の方を、涙目で見上げる冒険者、当然、前も見たように男の眼に光は無くて。
もぐもぐもぐ、ごくん、と口の中に残った肉を飲み込んだ。
そして、咽た。)

「げふ、がふ……ごふ……!んぐ、んぐ、ん。」

(慌てて、手近にあるエールを飲んで、口の中の物を洗い流して、はふ、はふ、と呼吸を整える。)

「あぁ、大丈夫……だ。」

(ぜ、ぜ、ぜ、食事に疲れた様子で息を吐き出しつつも、男は彼女に許可を出す。先日も出会った彼女。みっともない所見せた、と軽く右手を上げて謝罪しつつも、相席を許可する陽に頷いた。)

クリスタル > 「あ! ……おい。大丈夫か?」

(どうも、声を掛けたタイミングが悪かった。彼の後方にこっそり忍び寄り、驚かすように声を掛けた訳ではないのだが。
自然に彼の視界に自分が入るよう、彼の向かい側から声を掛けたのだが……あまり意味がなかった模様。
食事が変な所に入ったらしい。相手は苦しそうに、それを飲み下そうとするが……。

そのうち、相手は落ち着いてきて。なんとか自分と会話ができるまで回復したけれど。)

「悪いことしたな――ごめん。何か奢ろうか? ひと皿とか。1杯とか
 ……あぁ、ありがとう」

(そう提案しながら、彼の向かいに腰を落ち着ける。こちらとしては、相手の格好悪い所を見た……とは思っていない。
自分のせいで、相手に食事を喉に詰まらせたと考えているから。だから、彼の謝罪の所作には、小さく首を横に振って。
注文を取りに店員がやってくれば、相手に促す。「ついでにあなたも、何かもうひとつ、頼んだら」と。

そのもうひとつ分は、こちらが奢るつもりだ。)

イディオ > (かひゅ、こひゅ、と男は二度、三度、呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻す。彼女は何も悪くない、男が気を抜き過ぎていただけと言うだけなのだ。
だから、彼女の言葉にまずは首肯を持って、返答して見せる。そして、小さく苦い笑みを浮かべて見せた。)

「済まない、食事に気を取られ過ぎて、気を抜き過ぎてたよ。もう、大丈夫だからさ。」

(謝罪をする彼女に、首を横に振って見せる。彼女が悪いわけではないのだ、自分が気を抜き過ぎていた、疲れを理由に食事にしか目を向けてなかったのだと。
むしろ、彼女が来ることに気が付かず、申し訳なかったな、と思う訳で。)

「あ、いや、其れには及ばないさ。むしろ、俺の方が奢らないといけないと思うぐらいさ。酒は、まだ残って―――。そうだな。
気が済まないと思うなら。
此処は、お互いに一杯ずつ奢る、それで手打ちと言うのはどうだ?」

(彼女の提案に、男は思考する。ただ断ると言うのもあるのだけれども、それでは彼女の気が済まないのもある。
それならば、お互いに、お互い一杯ずつ奢る、それでお互いに浮かんだ、申し訳ない、をなくしてしまおう、か、と。
対等に、楽しく飲むのなら、それが一番だろう。)

クリスタル > (彼の噎せに因る不自然な呼吸音を、目を細めながら聞いていた。
それは気遣わし気な表情に見えなくもなかった。――ただ、彼女は思い出していただけだが。
今際の"獲物"が出す音と言うか、声に似ているな、と。……俺が彼を手に掛けた場合――、

そこで物騒な思考は止んだ。彼が薄い苦笑いを浮かべながら、話し始めたので。)

「……。何かあったのかい。いつもはこうじゃないんだろう? 依頼が大変だったとか?」

(今更だが、料理に噎せる前から、彼の疲労の色は濃かったようだ。
冒険者が疲れているなんて、仕事由来だろうと思い、憶測をそのまま口にして。
彼の場合、自分と違ってハードな依頼をこなす場合もあるだろうと。)

「お人好しだな。……多分、恋愛対象にならないタイプの」

(彼の提案に、女は少し黙っていたが。やっと口を開いたと思ったら軽口が。
彼女は小さく笑っている。後半の戯言は、少しでも場の空気を軽くして出たもの。
……本音も混じっているかも知れないが。)

「――じゃあ、そうしようか。俺は果実酒を。
 ……あとは」

(結局、彼の代案に乗ることにして。店員に、飲み物のほかの注文も告げていく。
注文を聞き終え、厨房のほうへ去っていく店員の後姿を見送ってから。視線をイディオへ。)

「例のやつ。相手は見つかったのかい。
 それとも、換金した?」

(ル・リエーの水遊場のペアチケットのことである。)

イディオ > (彼女が男の事を知らないように、男も彼女の事を詳しくは知らない。だから、彼女が自分を見て何を思って居るかという推測などできようもない。
その下にある、強い――に対しても。ただ、ただ。経験からか、ぞくり、と寒気を覚えた。この、暑い夏の時期に。
気の所為とするには、男は臆病であり、彼女をまじまじ、と見上げる。彼女が殺すことを考える存在なら、男は、生き延びる事を考える存在だから。)

「ああ。ギルドからの指名依頼が来ちゃってな。と言っても、本来他の奴が受ける筈の依頼に対して、代打として出ろっていうね。
護衛依頼だったのだけど、護衛対象がもう、死にたがりかと思うぐらいに無謀でさ。……守るのに疲れたよ、本当」

(疲労の理由は精神的な疲労と肉体的な疲労、両面で疲れていたのだ。仕事の愚痴と言うレベルで、零れるのがいい証左だろう。
勘弁してほしい、と言うのだ、パーティを組んでないからこそ、護衛は人一倍きつくなる。自分の身を守るよりも、人の身を守る事の面倒くささは十分知ってるのに、畜生ギルドめ、と、ぼやいて見せるのだった。)

「―――ぐふっ。」

( かいしん の いちげき イディオの心は粉々に砕けた!
そう言って良いぐらいに的確でストレートな一言。その軽口だと判っているが、傷つくことは傷つく。べしゃぁ、とテーブルに突っ伏すのだ。
と、言っても食べて居た皿などは持ち上げている分、余裕ではあるが。)

「俺は、エールを。そうだな、腸詰を一ダース。」

(彼女の注文、返答代わりに男も注文する。値段は大体同じで、せっかく飲むのだから、お互い摘まめる者も良いだろうと、おつまみも注文して置く。
皿を戻しながら、彼女の言葉に、視線を向けた。
例の奴、と言えば、あれしかない。彼女と初めて出会ったときの。)

「ああ、あるよ。あの酒盛りの後、直ぐに依頼が来たから。俺が返ってきたのがついさっき。換金する暇も、使用を考える時間もなかったさ。
―――これだろ?」

(そう、言いながら男はバックパックから一枚の封筒―――その中から出てくるのはル・リエーの水遊場のVIPチケット。貴族用の場所へも入ることの出来る、特別優待券
行く相手でも見つかったのか?と彼女に見せるように封筒を差し出した。)

クリスタル > 「………」

(微妙な彼の変化に気づいた女は、感じのいい笑みを浮かべて。無言でそれとなく、彼のほうを見た。
自分の頭の中身に気づく人間はあまりいないだろうと高を括っていたけれど。
――よく考えれば、彼は冒険者だ。修羅場を通った経験もあるだろうし。

たとえ詳細がわからずとも、対象の内的なもの……性質に、大まかに気づく場合もあるだろう。
どれほど彼が気づいて、どんな印象を自分は彼に与えているのか。それはわからないが。
ともかく、微笑で誤魔化すことにした。それがむしろ、一種の肯定に成るかも知れない可能性を理解しつつも、だ。)

「それは。……ご苦労だったな。お疲れ様。物分かりの悪いやつの相手は、いつだって疲れるよな。
 ――かと言って、『もう知らない』と放り出す訳にもいかないし」

(最後のほうの「畜生ギルドめ」と言う言葉には、「ははは」と笑い返した。)

「俺だったら、護衛依頼なんか余程のことがない限り、受けないね。
 ……あなただったらさておき、俺に指名依頼が来ることはないだろうけど。

 あっ、死んだ」

(護衛対象を討伐対象のように見做す自分に、そういうめぐり合わせはないだろう。
だいぶ内心を端折りながら、彼との会話を楽しんでいると。死に際の声が聞こえてきた。
とは言え、それは芝居掛かったもので。迫真性は程よく削がれていたが。

彼の、酒以外の注文の意図を。それとなく理解すると、小さくお礼を言って。
ペアチケットの話題に移る。封筒に入った実物が出てきた所で、女は何かに気づくと、首を横に振る。)

「あぁ……そういうのじゃなくって。ただ、あれからどうなったのか。ちょっと気になっただけさ」

(同行する相手は相変わらずいない、と。)

イディオ > 「―――――。」

(彼女は、何も言わずに自分の向けた視線に微笑んで見せる。それは、それは―――。ぞくりと来た。冷たい美貌を持つ彼女の、微笑み。
その、中性的な、人形めいた顔が浮かべる印象は、先程の寒気が無ければ見惚れるものであった。
今はただ、切れ味のある透明なガラスでできた刃の様な、美しさと危険を兼ね備えたものとして、見えた。

だからと言って、それで騒ぐのは、冒険者ではない。そもそも、様々なヒトが、冒険者となるのだ。
男自身、人殺しの経験があるかどうかで言われれば、有る。戦士だって、傭兵だっている、暗殺者が、冒険者として登録し、活躍だってするのだから。彼女も、その類なのだ、と思う程度。
警戒はする、だけれど、否定はしないし、拒絶もしない。)

「ホント。あれは、本来受けたやつが、判ってて逃げたとか、そんな風に思えるんだ。殺意沸くよ、あれは。
放り出して依頼に失敗するのは、ギルドの面子もつぶれるし、俺自身の評価にも響くしなぁ。ほんと。」

(軽い笑い声に、男はため息をはあぁと、重く吐き出して見せて、最初に注文した己の酒を一口煽る。)

「いや、俺だって、受けないよ。人を独り守るのに必要なのは最低4人だ。そして、戦士、盗賊、魔法使い、ヒーラー。―――それらがちゃんとした、チームワークを持って、一人守れるか、どうかと言うレベルなんだしさ。
俺の基本は薬草採取だっての……。命のやり取りなんて、ノーセンキューですよおねーさん。」

(仕事の愚痴が多くなってしまいそうだ、酒がいけない所に入ってしまっている証拠か。彼女の冒険者としての技量を見るなら、チームを組んでならば、依頼履きそうだな、とその居住まいで思う。
実力者は基本―――その実力に見合った雰囲気がある、彼女は十分強い存在だと思うのだった。魔術師と言っていたのを思い出す。
肉体的な能力は戦士より低いが、だからこそ、怖い。見誤りやすいという意味で。
侮れば、その魔術でころりと行くこと請け合いだろうと。)

「そっかぁ……君なら、直ぐに男とかひっかけられそうにも思えるけども。
余りにも見つからないなら、誘おうかな。

と、言っても、実際な話、行って何をすると言われても困るなぁ。
下着のような恰好を見て、興奮してもむなしいだけだし。」

(気になっただけと言う言葉、ふむ、と男は招待状を引っ込めながら軽く言う。前回はお誘い申し上げなかったのだけれども、彼女は美人だし、気さくに話せる。
お誘い申し上げて、一緒に行くのもありと言えばありなのだけれども。
水遊場で、どんな風に遊べばいいかわからない。
美女の水着姿を見れば、普通に興奮するし、エロイことしたくなるものだ、その為に行くなら、正直、売って金にして宿でおいしいもの食べながらした方がいいのではないかと思うもので。

軽く、肩をすくめるのだった。)

クリスタル > 「極東にある、国の言葉だったかな――俺、『以心伝心』という言葉をなぜか。
 今、思い出したよ。……俺たち、通じ合うものがあるのかも知れない」

(ようやく作り物の笑顔を引っ込めたかと思いきや。軟派男が口にしそうなことを、なぜか嬉しそうに言い出して。
その際の笑顔は本物のようだった。……が、後半、最後のほうの言葉は、なぜか声量を落としたもので。
意味深に聞こえる。笑みも控え目なものに、微妙に変わっていて。

ちなみに、彼女の自己評価は『変態』である。自身を暗殺者と考えたことはなかった。
殺人を趣味と捉えており、そのため、依頼で他者の命を奪うことを厭う彼女。趣味に他者の介入が混ざるのが嫌なのだ。
だから、討伐依頼の対象が例え人であっても、食指は基本、動かない。

変態、という自己評価はふざけていない。一般的に殺人行為で性的興奮を得、性欲を満たす者は、
『そういった類いである』と本人は認識しているから。

『自分は選ばれし者。故に選定を行い、他者の命を摘み取ることが赦される』 ……そういう妄想を、女は抱かないタイプだった。
つまり、一応は、常識的な感覚も持ち合わせた殺人鬼に分類されるだろう。)

「正式に依頼している以上、非常識な依頼人でも守り抜かないといけないからな……」

(会話の最中に、自分の注文がやってくる。まず初めに果実酒に口をつけてから、頼んでおいたパスタの中に入っている
ベーコンをフォークで捕まえ、静かに咀嚼する。塩味と脂が旨い。彼の追加の酒やおつまみも、そのうち来るだろう。)

「そうだよな。命のやり取りなんて、一方的じゃないとつまらないしな。
 ……だけど。非常識な依頼だった分、報酬はよかったんだろう? じゃないと、あなたの割に合わないし。
 でも。『基本は薬草採取』だなんて……随分と謙遜するんだな」

(さりげなく会話の中に違和を覚えそうなものを放り込みながら、彼の自己評価に小さく笑った。)

「俺、男より女のほうが好きなんだよ。……愉しいことをするならさ。
 ……むなしいって、何がだ? 『その先』が期待できないからか。水遊場では」

(爽やかに笑いながら、それとなく同性愛を示し――た訳ではない。
ただ、相手にはどう聞こえたことやら。そして、端的に捉えると、彼の言葉はそう聞こえた。)

イディオ > 「はは?そうかな。俺は、東方に明るくはないけれど。ちゃんと、伝えたいことは、言葉にして伝えないと、と思うんだ。
言葉にせずに伝わることもあるだろう、でも誤解もまた、多い物だと思うから、さ。
以心伝心を思うには―――もっと、君の事を知りたいと思うよ?

ただ、そう。通じるところがあるなら、それはそれで嬉しいな。」

(彼女の笑みの質が変わったことに男は気が付いた。先ほどの笑みは、東方でいえば刀剣の美しさ。今の笑みは、どちらかと言えば花のような笑み。
ただ、それは男の勝手な印象故に、彼女の笑みの質がどのように変化したのかは、理解しきれていない。似通ったところはあると言うのはわかる気がする。
だから男は、全部は否定せずに。彼女の控えめになった笑みに、目を細めて、堪能するのだ。美人の微笑は、とても良い物だから。)

「四人態勢で行うべきところを独りに任せるとか鬼畜だぜギルド。まったく、護衛を何だと思ってるんだか。正直、君の言うとおりに、放り投げられたらとか、何度思ったことか。」

(彼女が食事をしている間に、男は軽くしゃべる。返答はまあ、食べてからでも良いだろう。そんな風に思って居れば、追加の酒と腸詰がやって来る。取り皿を貰ってそれを半分にして、半分を彼女に、半分を自分へと。
自分も食事の途中だから、残っていた肉料理と、パンやスープを飲んでいくのだった。
一寸ばかりの、食事の時間。)

「はは。いいえて妙だな、そうか……そういう考えもあるな。うん。楽しいとか、考えたことはなかったけれど。
ま、ね。4人で貰う分の報酬を独りで貰ってるわけだから。ただ、報酬自体は少し色はついてるけれどそれでも―――普通の護衛依頼の範疇のお値段なのさ。

謙遜じゃないんだ、薬草採取はいつでも受けられるし、それに……安全だろ?怪我しても、傷薬代わりの薬草は沢山あるしさ。
それに、今はアスピダの件で、薬草は足りないから値上がりしてる。」

(一方的ではないとつまらない、彼女の言葉に、なるほど、と思う。安全と言う考えは、逆を考えれば彼女の言うとおりに一方的であればいい。
自分の身を守る事を考えていて、楽しい、楽しくないという思考はなかったが、それもそうだな、と思えたのだ。
一方的に殴る、倒す、それは安全だ、命を守れる。とは言え、確かに、違和感はある。攻撃的な言語だから、其処に潜むのは、嗜虐か。ああるいは―――。)

「………楽しい事、ね。

下世話に言えば、そう。多分、水遊場には、『そういう』事をする場所はあるさ。でも、その気の全くない相手と行ってもさ。
他にも、美人が隣にいるのにできそうな女をナンパするのも、な?」

(先ほどの彼女の言葉を聞くと、楽しい事に関して少し違う気がするのだ。前回逢った時には、自分を誘っているのかと思った話していたし、その時は笑みも浮かべていた。同性愛者―――だとしても、異性とそういう事をするのが嫌いなタイプではなさそうだと思う。
推測でしかなかったが。別の事だと思える。

そして、彼女の返答の問いには、彼女の聞こえ方で間違ってはいない、と頷いて見せた。
一応、草食に見えてもそういう欲はあるし、したいと思って居る健全な男性ですよ、と。)

クリスタル > 「俺の親父がそっちに行ったことあるんだよ。お袋を連れて。……その時俺は、兄貴と留守番だったな。
 ――親父とお袋が何をしに遥か東へ行ったのか。知らないけどな。結局、無事に戻ってきたからいいんだが」

(だから自分は、向こうの国の言葉をこうやって知っている訳で。家族については、無関心や強い信頼と言うよりは、
詮索しない、あまり干渉しない……という具合のようだ。血が繋がっていても他人、という認識が強い模様。
家族間の過度の感情移入、愛着を避けているように思われる。)

「――じゃあ、なんで名前を聞かないんだ? 
 ……俺、そっちから聞いてくれるの。ずっと待っていたのに」

(自分に興味がある割には、あなたは……と言いたげな口調で言う割に。
女の顔は笑っている。不機嫌の欠片もない。冗談である。
それに、相手のことを知りたいと思うのと、だからと言って質問攻めにするのは、また話が違うのだ。

そういう不躾なことをしない彼は、良識の持ち主なのだろう。
自分は常識を知っているだけで、理からはずれているほうの人間だが。)

「単純に人手が足りないから、そういう強行的な事態になったのかな。
 ――あ。ありがとう」

(話の最中に彼の注文がやってきた。すると、相手は取り皿に女の分の腸詰を移して、渡してくれて。
それに礼を言う。店の喧騒の中、お互い、少しだけ食事で無言がちになる。――そして、)

「そうだろう? 結局、勝って得るのが楽しいんだ。ギリギリの闘いなんて、終末論を信じるようなやつが好むんだよ。
 やはり、自分は生き残る側でないと。……お、や。依頼人の聞き分けの悪さは配慮されなかったか。報酬に。

 ……あぁ。なるほど。それもそうか」

(ある程度の具体性を含んだ抽象的な物言いは、一応、お互いの会話を成立させている。
ただ、女が自分の素性を伏せた上で話しているものだから、彼には少し奇妙に聞こえるかも知れない。
言葉遊びを好む彼女は、それとなく会話の中で自己紹介をするのが好きだった。

とりあえず、自分が『分が悪いことはしない』というニュアンスくらいは伝わったかも知れない。
薬草採取の需要と現状について、彼を通して再認識すれば、納得したように女は頷いた。)

「でも、あなたのその死んだ目だと。ナンパしても女が逃げそうだ。
 ……まだ哲学的ゾンビのほうが、生気があるだろうに」

(平たく言えば、主観を有さない存在を示す、やけに専門的な言葉を日常会話に混ぜる。
もちろん彼は、この言葉を適当に無視していい。どちらにせよ、女が軽口に混ぜて、
また失礼なことを言ったのには変わりなかった。……そのうち、声を潜め、)

「……俺としたいの?」

(薄い表情のまま、尋ねて。)

イディオ > 「遠くへの旅は危険も多くなるだろう。君が幾つの頃かは知らないけれど、あまり遠出で、危険に晒したくなかったんじゃないかな?勝手な推測だけれど。」

(彼女の事も知らない、彼女の両親の事も知らない、だから、知らないだらけの勝手な推測しかできなくて。そう言うのは本人が聞けばいい事だろう。だから、軽く流す様に言って見せた。
そもそも、彼女自身余り、気にしてないのだろう、先程の言葉に何しに行ったか知らない、聞いてないという意味にも取れたから。
家族のいない男には、彼女の思考――愛着を避けるという事に違和感が持てなかったのは事実だ。)

「俺は、イディオ。君の名前を教えて欲しい。
確かに、名前も知らなかった、な。前回聞きそびれたし、もっと。知りたがって良いってことかな?」

(冒険者というのは、先程の通り、人を殺したことがある人もいる、盗賊も、暗殺者もいる。基本は、詮索しないのが暗黙のルールだ。まずは自己紹介から自分で喋っていいところまでを、喋るべきだから。
彼女の指摘に、ああ、と納得したように。そして、彼女の言葉に問いかけてはみる形にするが、許可をとっても質問は必要な時に軽くするぐらいになる。不文律がしみ込んでいるともいえる。)

「最初、依頼を受けたパーティが不慮の事故で動けなくなったってさ。せめて人位は揃えて欲しいもんだ、と。
酒は、楽しく飲まないとな。」

(とはいえ、彼女は男性的な口調をするも女性だ。食事とか気にしてるところあるのかもと、ふと思うが。
大丈夫みたいだ。安堵し、腸詰と、酒を楽しむ事に。)

「判る。ぎりぎりの戦いなんて、そもそも、相手の事をちゃんと良く調べてない、戦場をちゃんと設定してない。己の怠惰のツケみたいなものだしな。
何事も生き残ってこそ、だ。生きるか死ぬかの戦いなんて、ぞっとするさ。

報酬に関しては、それも混みで、基本は払われちゃうからな。だから護衛なんて嫌なんだ、って思うのさ。」

(抽象的な、不思議な話し方。それに関しては―――魔術師という彼女の肩書が強くなる。知識が多く、神秘を求む魔術師の言い方は難解で。だから、自分の思いもよらない表現の方法がある、そう思ってしまう。
そういう意味では、男は十分彼女の術中に嵌っていると言えた。
ふと、彼女の方を見て、酒を飲んで。薬草採取に関してうなづく相手に首を傾ぐ。魔術師なら、寧ろ薬草採取は、ポーションだのを作るためによく依頼する方なはずだと。
ポーションは専門外の魔術師なのか、と、そんな人もいるのだろうか、と魔術に明るくない男は考えた。答えは出ないが。)

「――――よくご存じで。ああ。ナンパしても逃げられますさ、ええ。
てつがくてきぞんび……。アンデッドに負けたか……。泣ける。」

(彼女の言葉に、男はふ、と。目を遠くする。生気のない目が遠くを見ればそれはもう、本当に不気味と言える。自分でもわかっているのだ。この目のおかげで、ナンパしても上手く行かないことなど。
そしてもう一つ、哲学的ゾンビという不思議な単語、それでもアンデッドにさえ負けたか、と酒をあおる。
言うほど傷ついては居ないと思われる。
酒の席での軽口だし。)

「ああ、したいよ。」

(したいのか、という短い問いかけに、したいと答える。解説聞きたいならするけれど。と。
美女と、したいと思うのは、世の男の大半は思うものだし、そう思わないのは基本的に、同性愛者とか、特殊性僻持ちだろうよと。
薄い表情の彼女、恐らく気分を害してるのかもしれないけれど、うそ偽りの無い感情だし、男は彼女の眼を見て、静かにうなづく。)

クリスタル > 「……親父は運命を信じる人でさ。それは俺が、10代前半の頃の話だったけど。
 ともかく、彼は『子どもは連れて行けない』と。俺と兄貴に言ったんだ。……親父が信じる運命って言うのはね、
 『自分が信じる運命』を指すんだよ。つまり、運命なんて言葉を使っておきながら、自分でルールを創っている訳だ。

 親父の言葉は、呪術的と言うか……魔術的な意味合いが多くて。自分で課したルールを守ることによって、
 よく何かを得ていたようだった。そのルールの内容によっては、俺たちもついて行ったんだろう」

(魔術や神秘を扱うタイプの人間でなければ、彼女の話はぴんと来ないかも知れない。
ともあれ、補足として話したわけで。多少の自己開示には繋がったか。
直接、自分の話ではないけれど。家族の話をしたわけだから。)

「俺はリリー。……リリー・クリスタル。
 珍しくない名前だし。誰かの愛称とも被って、呼称がややこしい時もあるから。普段はクリスタルのほうで呼ばれてる。
 ……二人っきりなら、そんなの関係ないんだろうけど。

 ――知りたがるって、たとえば何を。
 俺だったら、イディオの振られ……いや、女性に逃げられた回数を知りたいかな」

(さり気なく言葉に色気を混ぜる。……が、薄い笑みを纏ったまま、それを言うものだから。
ナンパに慣れているようにも、ただ軽口を言って遊んでいるようにも見えた。
さっそく、教えてもらった名前を口にしたかと思えば、また失礼なことを言い出す。

……しかも、言い直した言葉のほうが、無礼という。)

「生き死にを賭けたがる人間は、昔からいるんだろうけどね。俺もイディオも、そういうタイプではないみたいだな。
 ……まだ護衛に可愛げがあったら、よかったのにな。やる気は出るし、多少、危なっかしくても許せたかも知れない」

(ふと、彼の視線に気づく。何かおかしなことを無意識に言っただろうか。……彼との会話を思い起こしていると、
やがて思い当たることがひとつ。女は苦笑いを浮かべながら、ひと口、果実酒を含んだ。それから話し出す。)

「あまりやらないよ。薬草採取も魔法薬作りも。できなくもないけど、俺には向いてないから」

(要するに、護符ならまだしも。薬草や魔法薬など人体に直接作用して、プラスの効果をもたらすものに女は違和感を持っていた。
自分がそういうものを揃えて、人に提供することに。セルフイメージに反するわけだ。
知識や技術の欠落ではなく、単にやる気の欠如。こんな性格だから、やろうと思えばできるのに……、

治癒や補助の魔術も女は使えるのに、それを他者に掛けることができない。
殺人鬼のアイデンティティーを守るためだ。)

「あれ。……さっきのは冗談で言ったのに、本当によく振られ……いや、逃げられるんだ?
 アンデッドじゃないけど、負けているとは思う」

(再度、先程の言い直したほうが失礼な言葉を繰り返し。詳しく説明しても仕方ないから、
ひとまず、『アンデッドではない』という訂正だけ入れる。『負けている』のほうには訂正を入れなかった。
訂正を入れる場所と、そうでない場所を女は間違えていない。間違えているけど。)

「……嫌じゃないけど。むしろ、俺でいいのか。そこが気になるんだよな」

(目元を伏せて、果実酒の残りに口をつける。)

イディオ > 「運命を信じているのに、『運命』を信じてない……か。魔術師らしいと言うべきなのかな?済まない、一寸その方向には明るくないから。
とは言え、意志の強い方だという事はよくわかるよ、自分で決めたことはちゃんと守る人という事も。」

(彼女の思うとおりに、男には彼女の言うことが良くわからない、運命を信じているとしても、自分が決めた運命しか、信じないという事なのだろう。ルールを運命と言っているのだろうか、等。判らないから、素直にわからないと伝える。
知らないものを知った風にいう事は、ちょっと難しいし、襤褸がすぐに出ることだ。
彼女は知らないと言えばちゃんと解説してくれるので、判りやすくもあるのだった。)

「リリー・クリスタル。苗字があるんだな、良いな。ああ、俺には苗字がないから、イディオだけなんだ。
とりあえず、どっちで呼ばれたい?リリー?それとも、クリスタル?

振られた回数か……冒険者に成ってから……ひーふーみーよー。」

(薄い笑みと共に放たれる言葉、二人っきりというワード。それはそうなりたいと思うのか、それとも別の意味か。酒の席での言葉では、一寸ばかり判断が付かない。
彼女お得意の、薄い笑みがあればなおさらだ。刃のような微笑みは、誤解をさせようとしているようにも、思えて。

彼女からの質問、逃げられた回数、振られたでも、何方も同じことで。幼いころ―――は、記憶にはない。消されている。
だから、棺から出た―――目が覚めた後、冒険者に成ってからを計算する。それでも、見ていればかわいそうになるだろう、片手で収まらない模様。)

「俺達は、物語の英雄でなければ、主人公でもないのにさ。生き死にを掛けて戦うのが、素晴らしいと考えている若い子が多すぎる。
軽々しく。命を懸けてとか、正気か、と聞きたくなるんだよな……。
俺は寧ろ、死にたくないからさ。命かける戦いがあるなら、逃げる方を選ぶさ。逃げられないときは、生き延びる方法を探る。それが、どんなにみっともなくても。

確かに、護衛に可愛げが欲しかった…………もしくは、もう少し、聞き分けが。」

(酒を一口煽る。彼女の苦笑い、に。はは、と力なく笑う。目を伏せて、もう一度溜息を零して見せる、深く、深く。
話題にしておいて、思い出したくないな、と思う自己矛盾。)

「そっか。」

(彼女の返答に対しては、短く端的に。彼女が向いていないと言うのならそうなのだろう。男はそう判断する。彼女の事を知らないから、無理に薦めないし、話題を終わらせてしまう。
それに、それ以上言ってほしくない様な、そんな風にも取れたのだ。
だから、酒を飲み、腸詰をかじって、薬草採取の話は終わり。)

「そりゃ、ね?こんな目をしてれば。まあ慣れてくれる人もいるけれど。少数派だし。
まあ、最終的に勝てれば、いいさ、負けて経験を増やしていくさ。」

(アンデッドではないけど負けている。どっちにしろ、負けてるのである。それなら、レベルを上げれば良いと思うことにする。それに、彼女を含めて、自分のこの目を見て、逃げない人も少しはいる。
だから、最終的な勝ち組になればよし、ダメならだめで諦める、そういう考えを彼女に零すのだった。)

「その返答は。ずるいと思うんだけどな?そういういい方されたら、手のひらを反せないじゃないか。
―――口の良いのは、君だからいいと言うべきなんだろうけれどな。それはそれで―――俺の中の拘わりが許さない。
だから、美人を抱きたいと思うのは男は誰でもそうおもうものだ。という、最低な言葉になっちまう。」

(酒も入っいている、今は欲情でしかないんだろうな、と。彼女が美人である事は確かだし、抱きたいのも確かだ。
そんな風に言う男。
自嘲気味に笑って見せて、酒を飲みほした。

そのあと、水を注文し、会話を続けることにした。彼女がどう反応したのかが判るのは、屹度また、別の機会―――)

ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」からクリスタルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」からイディオさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/ 教会」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ――夜も更け始めた頃、ごーしごしごし、と信徒席の並ぶ聖堂にモップが行き来する音が響く。

「………わたしはティアフェル、何故かこんな時間に教会の床を磨いている――」

 そして、端から端までモップ掛けをしながらシリアスな声でセルフナレーションをカマす変な女が一人。
 ちなみに奉仕活動の類ではない。完全に罰掃除という奴。

「っぁー! 腰いたぁ……一向に終わんないなぁ……一人じゃ広すぎるよ……」

 ごっしごしごし、と腰を入れて床の汚れを落としながらボヤいた。

 誰もいない、薄明かりのみが頼りな等間隔に長椅子の並ぶ聖堂の床をすべてピカピカに磨き上げるというのはなかなかホネだ。
 まだ半分も終わっていない。うえー、とうんざりした顔をしてモップの柄の先に顎を預けるようにしながら唸って。

「終わんの? これ」

 途方に暮れ、聖堂の真ん中辺りで真顔になる。

ティアフェル >  ごし…ごしごし…ごし

「ちょっと休憩しようかな……いや、んなことしてたらますます終わんないし……」

 床を擦る音が徐々にトーンダウンしてくる。伴って声も。最初はなんとかなるなる、とお気楽に構えていたが、やってみると思ったより汚れが頑固で、自宅の掃除よりもずっと労力が要る。

「わったしのうっでがつっかれたよー。こーしもいったくてくぅびにもキてる~」
 
 黙々とやっていると一層疲れる気がして、ヤケになって調子はずれに口ずさみながら、ごしごし、ごしごし。

 あー終わんない。

 顔に『めんどい ギブ』と表示し愚痴を零しながらまだ何とかがんばっていた。

「やるしかない、やるしかないのよ。だが終わりが見えない……」

ご案内:「王都マグメール 平民地区/ 教会」にクリスタルさんが現れました。
クリスタル > 「――終わりがなくても、見えなくても。挑まないといけない時があると思うんだ」

ティアフェルの後方から、不意に見知らぬ女の声が。
声は女性にしてはやや低く、言っていることは名言チックだが……、
真相はこうだ。知り合いを探して教会内をうろうろしていた所、罰として掃除を頑張っている(?)相手を見つけた訳で。

実は、一部始終とはまではいかないけれど。大半を見て……いや、観ていた。実況とか、即興らしい自作の歌とか。
そこで、なんだか面白くなってきた女は、こうやって合いの手(茶々とも言う)を入れたわけである。

それで。女は聖堂の出入り口付近から、ティアフェルに声を掛けていた。
一応、断っておくがこの女は助っ人では決してない。善性は多少あるだろうけれど。
もし善人なら「どうしたの? 大丈夫? 自分も手伝おうか?」が第一声な気もするし……。

ティアフェル > 「……なんだか無限地獄に放り込まれた人間に対する感想のよう……」

 おっと眩暈が。
 背後から掛けられた声に、誰、この縁起でもない科白を云うのは。とゆるぅり。振り返り。
 どうやら教会の関係者でもなさそうな人物に小首を傾げ。
 一旦、モップを操っていた手を止めて身体ごと向き直り。

「もしや、一部始終見てた……?」

 可笑しな実況や歌をほざいていたものだから、見られてたかもショックを覚えながらその場で立ち尽くしたまま恐る恐る尋ねて。

クリスタル > 「やっと気づいた? ――生きるって、地獄を言うんだよ」

相手と大して歳が変わらないくせに。何か悟ったようなことを言い出して。
まぁ、本心ではない。ついでに言えば、真理でも哲学でもない。
どこかの著名な学者が出している本に、上記のようなフレーズって、割と出てきそうな気がするが。
個人的にはあんなの、「お前の価値観を押し付けるな」「それっぽいことを言ってるだけだろが」くらいにしか思っていない女である。

さておき。相手がやっとこちらの存在に気づき、振り返ってくれたので。
なんとなく視線が合う。お互い初対面だし、こちらは「ティアフェルがちゃんと掃除しているか見てきてくれ」と、
監視を頼まれた教会の人間でもないけれど。……ただ、見てはいた。全部ではないと思うけど、
相手的にはアウトなシーンをちゃんと捉えていた気がする。

「ひょっとして。……どこかの劇団所属?」

控えめに笑みを浮かべながら。こちらも慎重に尋ね返す。
これでも言葉は選んだつもり。相手の仕事を増やしては悪いから、中には足を踏み入れないまま。

ティアフェル > 「うーわー」

 生き地獄発言をしれっとカマされて思わず遠い目になる。3里くらい先をみているような顔となり。
 なんの受け売りか本人のオリジナルか、そこは深く追求する気はなかったが、本当にそう思ってるとしたらヤバイ人生送ってんなーと考えつつ。

「え。あなた大丈夫? 毎日辛い? 誰かに虐められてる? 友達いない? お母さん死んじゃった?」

 何か色々と懸念したような問いを投げかけて、薄明かりの中相手の顔をよく見ようとするようにじーっと覗き込むように見つめ小首を傾げた。

「どういう意味……?! ってかがっつり見られてた奴だな!それは!」

 質問に質問で返された。しかも内容が劇団員かどうかを問う物だったからさあ大変。
 遠回しに見てたことを肯定しているようで、頭を抱えて。

「NO!断じてNO! あと忘れて! さっきの光景は記憶から速やかに抹消して!」

 劇団員のくだりは力強く否定。
 そして敢えて覚えていられるとは思わないが、今すぐ忘れてくれと無茶な嘆願。

クリスタル > 「……両親は生きている。最近、辛いと言えばこの暑さくらいか? ――友人。いる。存在する。
 いやぁ、誰かに虐められるよりも、俺はどちらかと言えば、虐めるほ――」

そこまで言って、いきなり言葉を切る。なにやら正直に答え過ぎた気がして。
ともあれ、相手の面白い反応が見たかっただけで。先程の「人生は地獄」発言は虚構。
特に意味はない。ただ、こちらの想定とおり、相手は乗りのいい人物らしい。

今更になって、片手を立てて上げて「大丈夫だよ」と横に軽く揺らして見せる。
こちらは夜目が利くほうなので、相手の顔色はなんとなく窺い知れていた。

「え。……………違うの?」

割と本気で相手を「そういう人だ」と女は思っていたらしい。
でないと、先程の言動に納得がいかないところがあって。……ということは?

「あれは素なのか」

心底、驚いた様子で零す。本人に強く否定され、その上「即刻忘れろ」と言われれば。
少したじろぎ。薄明かりの中、遠目に。しばらく呆然と相手を見ていたが。

「大事に覚えて帰って。思い立った時に言い触らしたい」

少し悩んだが、本音をぶちまけた。大人げない。

ティアフェル >  ふんふんと語られるプロフィール地味た返答に相槌を打って耳を傾け。

「良かった、想像をはるかに上回るほどに問題の見られない人生だった」

 不幸なエピソードなどカケラも見受けられなかった。
 生き地獄なんて、云ってみただけかー。と呑気に安堵すると。
 大丈夫と手を振る様子に。そのようでと軽く首肯し。

「やめてくださいませんかね!そのリアクション…! 傷つく! 地味に傷つく奴!!」

 わあん、と頭を抱えて嘆いた。素で可笑しなことをしている女、とがっつり認識されてしまったらしく。ここからどう軌道修正したらいいんだ、と絶望した。
 あんなこと素面でやる奴いんの?という空気が相手から駄々洩れしている気がする。
 
 やらかした、わたしに生きる価値などありゃしない。

 そこまで思い詰め。トドメのような本音に叫んだ。

「やーめーてー! 鬼かあんた!」

クリスタル > 自分は、不穏なことも地味に言いかけたはずだが。
どうやら、相手の想定より良い内容のほうが目立ったらしく。
意外にそこは突っ込まれなかった。

「というか、生き地獄のやつが教会なんかに来るかな。
 そういうやつって人を怨んでそうだから。いかにも善玉っぽい人たちをかえって嫌ってそうだ」

元はと言えば、自分のぼけから始まったろうに。それを回収するためでもないんだが。
最終的には自分で突っ込む始末。女がここにいるのは教会関係者の知り合いに会うため。
結局、今日は会えそうにないから諦めているが。

「……だって。劇団の人って、個性的な人が多いだろう?
 ――だから、君もそういう手合いかと思ってたんだよ。……ふむ。
 『劇団員ではないが、個性的』……メモメモ」

相手の嘆きをよそに、むしろ、相手の絶望を深めるようなことを抜かす。
メモと言っても、手元に紙とペンを取り出すことはなく。どうやら心にメモしているらしい。
長期記憶に移行中、移行中。――すると、

「わ……! そう大きな声を出すなよ。というか、その声量ならむしろ今からでも劇団に入って、
 既成事実を作ってしまえば、先程の奇行の辻褄合わせになるんじゃないか?」

自分でも何を言っているのかよくわからない。
一度、驚いて肩を揺らしたが。割とすぐ冷静に変なことをのたまう女だった。