2020/08/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にサチさんが現れました。
サチ > ぐきゅるるる……
小さく鳴る胃袋。貧乏人にとっては聞き慣れた音であり、空腹は日常茶飯事である。お腹一杯でいられる事の方が正直少ない。
「はあ……今日はお夕飯、まだですものね……
――……、いい匂い……」
情けない気持ちでお腹を抑えていたが、ふと漂って来る甘い香りに脚を止めた。その先には可愛らしい店構えの菓子店が見えて無意識にごく、と唾を飲み。
左右に立ち並ぶ装飾品を売る店や書籍を取り扱う店、雑貨類を並べる店には目もくれずに、ふらふら~と引き寄せられるようにそちらへ歩いて行くと、菓子店の飾り窓にべた、と張り付き、目を輝かせた。
色とりどりのキャンディー、黄金色の焼き菓子、クリームで飾られたケーキ。小粒ながらたっぷり甘そうなチョコレート。
「わあぁ……きれーい……美味しそう……」
見た目も可愛らしく美しく整えられ果物や砂糖細工で飾られていたり、綺麗な包装紙でラッピングされた菓子類が並ぶ店内の様子はまるでお伽話の中の様で女心をがっちりと掴まれた。

サチ > 「いいなあ、食べてみたいなあ……」
お菓子なんて贅沢品とは無縁の生活。甘い物と言えば時々売れ残りで安くなった菓子パンや、傷んだ果物を買うのが精一杯の日々。
小さくて可愛らしい癖にたった一つで一食分程の値段のするお菓子なんて買える筈もない。
店内で楽しそうにお菓子を選ぶお客も、生活に余裕のありそうな衣服や髪にも構える様なお嬢さん方ばかりだ。
富裕地区の店程高級ではないが、ここも薄っぺらい財布しか持ってない身では敷居が高い。
けれど、もしかしたら、売れ残りの安い商品等あったりしないだろうか。
淡い望みを抱いて、買えるかどうか分からないのに店に入るのは憚られ、窓にくっつく様にして商品の値段を確認した。
「うぅ……やっぱりどれも高~い……」

サチ > どれもこれも小さいながら凝った造りで安く売れない事は良く分かるし、そんな店は売れ残りのセール品なんて物は置かない。
「駄目か……。
お菓子なんて最後に食べたの何時だろう……」
回想して見るがかなり遡らないとヒットしない。
はあ、と思わず嘆息を零して。
無理に買ってしまったら、明日食べる物を買うお金も無くなってしまう。
せめて出来る事はこうして、窓から眺めて漂って来る甘い香りを嗅ぐ事くらい。
「ふ、ぅ~、バターとお砂糖と小麦の焼けるいい匂い……。
これを嗅ぎながらパンとか齧ったらお菓子食べてるみたいな気分になるでしょうか……」
甘い香りにうっとりしながら営業妨害な事を呟いた。
何なら、こうして窓に張り付いて嗅ぎまくってるだけですでに営業妨害かも知れない。

サチ > 「あ、す、済みません……っ」
さっきからじーっと窓に張り付いて、お菓子の香りを堪能しているだけの営業妨害に、さすがに店内にいた従業員が気づいて渋い目をくれた。
目が合ってしまい、慌てて頭を下げて謝罪すると、気まずそうにそそくさとその場から足早に立ち去り。
ふわり、と漂う甘いお菓子の香りを振り切る様に帰途に着いた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からサチさんが去りました。