2020/07/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にセリアさんが現れました。
セリア > 徐々に夜も更けて、人通りが少なくなってきた頃。
カフェテラスの隅の一席に腰掛け一人のんびりしていた私服の女騎士は、そろそろ帰ろうかと思い目の前のグラスを空にする。
さて、と視線を目の前の通りに向けたところで、まだ年もそういかない少女に声をかける、柄の悪い男達が目に止まった。

「……やれやれ」

ため息をつくと、手短に代金を支払い、その一団の元へ小走りで向かう。
足音に気づき振り向いた男達を尻目に、セリアは少女を背後に隠すようにして立った。

「嫌がってるみたいだけど?」

物怖じせず声を上げる女に、男達は少し気圧されたように黙り込む。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にマヌエラさんが現れました。
マヌエラ > 「ええ、っと――あのぅ――」

 ガラの悪い男たちに絡まれて腕を掴まれ、なんと返したものか、どう言えば離れてくれるのか困っていた時に、颯爽と現れた白銀の影。長い金糸の奥の瞳が、驚きに見開かれる。

『な、なんだてめ――』

 決して怒声や恫喝といった風ではなかったのに、銀糸の女性の声に、男たちは明らかに怯み、声は途切れた。声に満ちた力に、自分たちよりも修羅場を知る者の気配を感じ取ったのか。

 結果として、男たちは悪態らしい悪態もつかずに、「興が削がれた」のなんのと苦しい言い訳をして、立ち去って行った。もしここで騒ぎを起こしていれば、騎士団長位を持つ者にあらゆる意味で叩き潰されていただろうから、最低限賢かったとは言えたか。

 目の前で起こった、騎士道物語さながらの光景に、少女は瞳を輝かせた。

「あっ……ありがとうございます、助かりました!」

 ボリュームのある金糸を揺らして、頭を下げた。

セリア > 輿が削がれたとか何とか、言い訳をしながら去っていく男達の背を見送った後、背後にいた少女へと向き直る。
さっきはあまり気にしていなかったが、ボリュームのある金色の髪。
それに包まれるような色白の肌に、自然と視線が持っていかれる。

「うん、どういたしまして。でも、あまり一人で出歩いちゃダメよ。ああいった輩は割と、この辺をウロウロしてるんだから」

少し身を屈めて、視線を合わせながら柔らかい声音で忠告する。
さて、と辺りを見渡す。すっかり人気も無くなったので、そっと少女に手を伸ばした。

「よければ、家まで送っていってあげるけど。どう?」

マヌエラ > 「は、はい――いつもは大丈夫なんですけれど……考え事をしていて、ぶつかってしまったんです」

 男たちを視線と声ひとつで射竦めた迫力から一転して、さりげなく目線を合わせて優しい声をかけてもらえば、思わず白い頬が赤らんだ。更に手まで差し伸べてもらい、眼をぱちくりさせた。

「そ、そんな――そこまでお世話になってしまって、よろしいのでしょうか……」

 ありがたさと同時に、恐縮を覚える。が……。

「あっあのっ、お願いしてもよろしいのでしたら……お礼を……是非、家でお礼をさせてください」

 花形役者に恋する観劇少女のように、頬を赤らめたまま口にする。

セリア > 「そう……運が悪かったのね」

まさかここら辺を初めて通るというわけでもなかろう。
そう勝手に判断しつつ、伸ばした手を取るよりも先に家でのお礼、と提案されれば此方が目を瞬かせた。

「お礼……家で? まぁ、いいわ。断る理由もないしね…じゃ、お招きに与っちゃおうかな」

何を疑うでもなく、あっさりと誘いに乗った。
笑顔で、料理でも御馳走してもらえるのかしら、と呑気に考える。

マヌエラ > 「はい――」

 眉をハの字にしてしゅんとする。が、申し出への快諾に表情を再び輝かせた。感情はかなり顔に出る方だ。

「ありがとうございます! よろしくお願いいたします……私は、マヌエラと申します」

 差し出された手を、大切そうにそっと取って。控えめに微笑みながら名乗っては、こちらです、と隣で先導するように歩き出す。

 

セリア > 感情が、いとも簡単に顔に出てくるのは何とも子供らしさに溢れていて良い。
ふふ、と此方もつられて笑ってしまいながら、手をとって歩き出す。

「マヌエラ、ね。私はセリア。一応、この王都の騎士をやってるわ」

そう自己紹介を交わしつつ、先導されるままに歩いていく。

「そういえば、家にはご両親とかいるの?貴女一人ってことは…ないか」

マヌエラ > 柔らかな笑みを見て、こちらの笑みも深くなる。よく鍛えられた剣のように、鋭く強靭でありながら、危険感よりも安心を与えてくれるような人だ――と感じて。

「セリア様……騎士様でいらっしゃったのですね……! 私、失礼なことを申しておりませんでしたか?」

 驚きと同時に納得。そして少し不安から、上目遣いに問いかける。

「あ……私、一人暮らしなんです。大丈夫です。私、これでも魔法が使えるんですよ」

 きっと心配してくださるのだろうな、と。小さく微笑んで自分の胸に手を当てる。実際、ローブに下がる金属具は魔術具の類であり。嘘をついているわけでもない――。

「ああ、そろそろ着きます!」

 気付けば貧民地区に近い、平民地区の中では随分と人気がない寂しい道で。少女はそう言いながら角を曲がった。

「ここから入れます」

 妙な物言い、だった。だが、それは言葉通りの意味。その曲がり角に、自分の住処への空間の門を設置しておいたのだから。
 一歩踏み入れた瞬間、2人は、今までとは全く違う場所にいた。

 周囲は薄暗いと同時に、靄がかかったように見通せず。どうやら壁のようなものがあるらしいが、判然としない。
 一瞬前まで感じられていた心地よい初夏の夜気は消え失せ、生暖かい、そしてどこか甘ったるい空気に満ちている。
 そして床は。石畳の硬さではなく、生物的な柔らかさを備え緩やかに脈動する、得体の知れない感触へと変貌していた。

「いらっしゃいませ、セリア様。どうか、楽しまれていってくださいませ」

 控えめで少し夢見がちな微笑みを再び浮かべると――清廉な騎士の足元の床から直接、頭足類のそれを思わせる触手が生え、セリアを絡め取ろうと迫った。

セリア > 「失礼なことだなんて。大丈夫よ、私そういうのあまり気にしないし…」

やりすぎなくらいにフランクな女騎士。
他者からの言葉遣い等、気にしたこともなかった。

「あ、そうなの。……まぁ、少し心配ではあるけど…身を守る術があるのなら、いいか」

何分物騒な街。身を守る術があるに越したことはないと、少しほっと胸を撫で下ろす。
さて、もう着くと聞いて辺りを見渡せば、平民地区と貧民地区の境目くらいだろうか。
妙なところに住んでいるんだな、と少々眉を寄せ…

少女について曲がり角を曲がった瞬間、目の前の景色が一変する。

「ここは……マヌエラ、何を……っ、っ!?」

奇妙な、どこか甘ったるい空気に満ちた空間。
柔らかな足元から立ち上ってきた触手に、身構える間も無く身体を絡めとられた。
驚くと同時にもがいてみるが、抜け出すこともできない。