2020/06/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にソウレンさんが現れました。
ソウレン > しとしと。振り続ける雨が音を立てている。
店内には二人組の客。食事もほぼ終え、わずかな残りで酒を舐めている、といった状況。
こうなった客は酒を済ませて次の河岸を探すか、はたまた長居をするか。
さてどちらかな、と思いながら洗った食器を乾いた布で磨いていく。

しかしこうも雨だと干物も作れん。
店の主らしき事を考えながら、調理場でふぅとため息をついた。
もう少しマシな天気になるまではしばらくかかりそうだ。

そんな中で新たな来客があるかどうか。
今日も『幽世』の赤提灯はわずかな風に微かに揺れている―――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > 「……」

一人の男が、雨をよけながら腹を抑えている。
店舗などの軒先で一息ついては、ととと、と走りながら、次の軒先へ。
その間にも、ぐぅ、なんて腹の虫は鳴り。

「……おっ」

そこで男は、とある店へと体を滑り込ませる。
店内にいた先客をちら、と見て。
そのまま、調理場へと声をかけ。

「すまない、今から食事は大丈夫かな」

そういいながら、まだ席には着かず。
返答を待っている。

ソウレン > からら、という引き戸の音。
調理場で片付けをしていた視線をそちらへ向けて。

「いらっしゃい。………おや、久しいね。」

久方ぶりに見る顔だ。
掛けられた声に一つ頷き、構わないよ、と空いている席を示す。
カウンターでもテーブルでも、好きに座って構わない、と。

調理場で冷えた清水に晒した手拭を搾り、戸棚からは乾いた布をとりだす。
席へ着いた男の元へ行き、

「濡れただろう。拭くといい。」

と、差し出した。お絞りは顔を拭くなり手を拭くなりするといい、とも。

セイン=ディバン > 「どうも。……あれ、覚えてらした?
 確か、ずいぶん前に来たっきりだったと思ったんだけれど」

店主の言葉に、男が驚く。
いくら客商売が、客の顔を覚えるのが大事、と言っても。
自分の顔まで覚えているとは思わなかったのだ。

「失礼して……。
 あぁ、ありがとう」

かまわない、といわれたので。男はカウンター席に座った。
そのまま、差し出された布を受け取り。
乾いた布で少し雨水を拭き。お絞りで、手を清潔に。

「……ちなみに。今日のおすすめ的な物って。
 何になるかな?」

ようやっと一息だ、と。男は肺の中に溜まっていた息を吐き出し。
そこで、そう店主に尋ねる。
とりあえずは、空腹全開。
とはいえ、まずは店主のお勧めで舌を満足させたい、という思いらしい。

ソウレン > 「記憶力はそれほど悪くないとは思っているよ。」

確かに一見の客ではあったのだが。
気配や印象はそれなりに特徴的だ。
それにそもそも、

「ここは千客万来のお店という事はないからね。」

そもそも好きな客しか入ってこないのだから。
調理場へと戻り、男の注文にふむと考える。

「スズキかコチだね。魚だが。夏らしくなってきたと思う。
梅雨時のコチはあまり獲れないから、個人的にはオススメだね。」

ひとまずお通し。
米の酒を薄い水割りにして食前酒に。
さやいんげんを酢味噌で和えたものを小鉢に盛りつけ、男の前に出した。

セイン=ディバン > 「それにしたって、すごい記憶力だと思う」

どこか、涼やかでありつつ、のんびりとした言葉に。
男は、いやいや、と苦笑しつつ、感服する。
この男など、同業者ですら、顔を覚えていないこともあるのだ。

「そうなのか……?
 なんていうか、もったいないっていうべきなのか。
 それとも、隠れた名店を知ってる自分が幸運だと思うべきなのか」

首を傾げつつ、男はそんなことをつぶやく。
以前この店に来たとき、この店主の出す酒や料理の味には驚かされた。
商品のレベルの話なら、人気店となってもおかしくないレベルだと思っているのだ。

「……ふむ。聞くだけでまた腹がなってしまいそうなので。
 その、コチっていう魚を」

どんな魚なのか、どんな料理として出されるのか。
それも不明ではあるが、男はそのおすすめの魚を頼む。
と、同時に。差し出された小鉢と酒に、思わずにんまり。
両手をしっかりと合わせて『イタダキマス』と言い。

「……ん……こりゃあ、独特な……。
 あぁ、でも。サケに合う……」

あまり食べ慣れぬ、いんげんの酢味噌和えという食べ物に驚きつつ。
くぃ、と酒を飲み、くぅぅぅぅ、などと呻く男。
どうやら、最初から満足度高し、というところであろうか。

ソウレン > 外よりも幾分ひんやりとした店内で、そんな事はないよ、といつも浮かべている微笑。
人でない者としての力もそうだが…もう一つ。

「そうだね、料理を喜んでくれた人は特に覚えている、という事かな。

幸運を喜ぶべきだとは思うが。…まぁ、気に入らない人は気に入らないようだ。
特に貴族達の間では酒が旨い店か泥臭く小汚い店かという意見で二分されていると聞くよ。」

あの人達は見栄も気にするからね、と笑う。
というわけでメインの客層は専ら平民の中でも商人・傭兵・冒険者
が多い。

「わかった。調理法と、あとのメニューもお任せで構わないかな?」

何か食べたい物があれば聞くよ、と満足気な男の顔を見ながら。
どうやらよほど空きっ腹だったらしい。

男がお通しを楽しんでいる内に、呼ばれたので一度調理場を出て先客の元へ。
2軒目へはしごだという笑い声を聞きながら勘定を済ませ、店外へ出ていく姿を見送る。
多少濡れても気にせず、店の外へ出て見送るだろう。

セイン=ディバン > 「そうなのか。いやでも、俺としては、素直に美味い、と言っただけなんだが。
 ……なるほどね。でもまぁ……受け売りなんだが。
 本当に美味いものを、しっかりと評価してこそ、だと思うんだがね」

ふぅ~む、と。男はあごをさすりながら言う。
店主の言う、貴族たちは見栄も気にする、という点については納得しているのだが。
それとは別に、良い食事や酒を提供する店については、正当な評価をすべきだ、と考えているらしい。

「もちろん。信頼してますから」

お願いします、と頭を下げ、調理方法。
そして、他のメニューもお任せで、ということを伝える。

「……」

小鉢を味わっている間に、先客が店の外へと出て行った。
ちら、と。見えた外の風景。まだ雨は止んでおらず。
これは、しばしこのお店で雨宿りだな、と考える男。
……まぁ。雨宿り、という割には。ガッツリ食事と酒を本気で楽しむつもりなのだが。

ソウレン > 先客を見送れば店内には二人だけだ。
引き戸を閉め、調理場へと戻っていく。
慌てる事なく、ゆっくりと食事を提供する事ができるだろう。

「その意見には異論はない、が、まぁ彼らは彼らなりの事があるのだろう。
ウチが好きで来る人もいる。見栄を張らねば立場を維持できない者もいる。それだけの事だろう。」

貶められ、悪い噂を流されるというなら別だが。
それでも常連客達は来そうな気はしている。
そもそもこんな店に足しげくやってくる人は、そういう事は気にしていないだろうから。

「では少し待っていてくれ。」

魚はすでに卸し終わっている。
なのであとは皮を引けば提供できるだろう。
コチという魚を知らない男だし、胆力もありそうに見えるが…。
ひょっとするとコチの現物を見たらそれなりに驚くかもしれないな、と内心で考える。

さて、コチの前にもう一品くらい、と豆腐を取り出す。
冷奴もいいが芸がないな、と少し考え、一緒に小さな壺も。
中身を叩いて、胡瓜の薄切りも添えて。

「確か豆腐は一度目に出したかな。胡瓜と梅肉を添えてみた。
魚ができるまで食べているといい。…あぁ、酒の追加はいるかな?」

一応豆腐にはスプーンも添えておく。
あとは酒が空になっていれば、今度は割らずにそのまま注ぐだろう。
瓶ごと清水でいい温度に冷やしてある。夏場向けの用意だ。

セイン=ディバン > 「まぁ……そうなんだろうね。
 なんていうか。色々と。難しいというか、面倒だね。
 人間社会、ってのは」

店主の言葉に、ふぅ、とため息を吐く男。
見栄、というものにも。意味や必要性があるとわかるからこそ。
思うところがあるようで。

「よろしくお願いいたします」

店主の言葉には、そう返答する男。
美味い食事のためなら、我慢は苦ではないタイプ。
小鉢とサケを味わいつつ。その時に向けて、心の中で、期待を高めていく。

「おぉ、トウフ! これ、おいしいんだよねぇ……。
 ……ほほぉぉぉ……これは、また美味そう……。
 あ、サケ……お代わりください」

差し出された料理に、男は目を輝かせる。
その上、サケも貰えるのなら。喜んでもらうだろう。
そうして、トウフを口に含み、もむもむと味わい。
すぐに、サケに追わせれば。

「……~~~~~~っっっ!」

ぺちぺち、と自分の膝を叩き、声を殺す男。
どうやら、これまた大満足な美味さらしい。

ソウレン > 「こんな場末で店をやっているとそういう事も考えるよ。
色々な話も入ってくるし、酒が入れば猶更ね。ただ、それが嫌という事はないんだ。」

嫌なら酒場なんてやっていないだろうね、と店主は笑った。
その間も手元は動いている。
器に清水と、酒用に置いてある大きな氷塊から砕いた氷を入れる。
それからコチの皮を引き、綺麗で弾力のある白身だけにする。
そぎ切りにした身をざっと氷水にくぐらせて水気をとり…。

「コチの洗いだよ。これからもっと旨くなってくる魚の一つだね。」

うっすらと皿の模様の透ける、ひんやりと引き締まった白身。
大葉と葉わさびを添えて、小皿に醤油をとって合わせて男の前に。

さて、と次の料理の準備として油を火に掛けて温めて始めるだろう。

セイン=ディバン > 「……すごいなぁ。オレには無理な境地かも」

この男、自分自身は酔っ払うことは好きなくせに。
酔っ払いの喧騒、愚痴などは嫌いというワガママな部分がある。
だからこそ、目の前の相手の、大人な態度が。
素直に、尊敬できると思えた。

「……これが、コチ。
 アライ……ってのは、単なるサシミ、ではないんだっけ?
 じゃあ、まずは。いただきます……」

出てきた料理。その魚の美しさに息を吐く男だが。
空腹には耐え切れず、すぐさま口をつける。
葉わさびを多めに添え、醤油にちょっとだけつけて、一口。
瞬間、男の目が見開かれ。ついで、またもやすぐにサケを追わせる。

「……っっっ、くあぁぁぁぁっ!
 なんじゃこの食感……!
 甘さと同時に、しっかりとした歯ざわり……!
 そしてまた、サケに合う、いや、合わないわけが無い……!」

まさに初体験の味。男は、饒舌に語りながらも。
ついで二口目、といけば。今度は黙りこくる。
その表情は、驚愕と喜びの中間で。
目が輝きつつも大きく開き、しかして口元はにんまり、と緩んでいる。

ソウレン > 「誰にでも向き不向きはあるものだろう。」

見れば男もそれなりの気配を持っている。
色々な人を見てきたが人生経験豊富というのはある種貫禄が出るものだ。
その男がそういうのなら、それは向いていないという事なのだと思う。

「洗いというのは刺身を氷水で締めた物と思えばいい。
身が締まるし、ある程度余分な脂も落とせるからね。魚によって向き不向きはあるけれど。

…まぁ、ウチは酒を呑む所だからね。ある程度は酒を進ませなければ。」

コチは元々弾力を楽しめる魚だ。洗いにするには良いだろう。
嬉しそうに食べる男の様子を微笑ましそうに見ながら、手元を動かす。
油を温めながら、豆の薄皮を剥いていく。
さて、と庫内から次の食材を取り出すと、小麦粉を水で溶いて取り出した食材を混ぜる。
それをある程度ひとまとめにし、油へと流しいれる。
じゅわっという音と、香ばしい匂い。
からりと上がれば、網の上に。余分な油を切って、大き目の塊を2枚盛り付ける。

「桜えびとそら豆のかき揚げだ。」

そろそろえびの獲れる時期は終わりだな、と考えながら塩を小鉢に入れて合わせて。
さくさくのエビと、ほくほくの豆の食感と甘味を楽しむ揚げ物。
ついでに空になっていそうな酒のお代わりを注いでおく。

セイン=ディバン > 「ははは、違いない」

向き不向き、と言われてしまえば。
男としては、反論もできず。
いや、反論する必要を感じなかった。
まさに。その割り切りが大事だと知っているからだ。

「……締める……なるほどねぇ……。
 そんな調理法もあるとは。驚きだ……。
 いやぁ……本当に見事なもんだよ。
 これは、サケが止まらん……」

自身の知らぬ食材に、知らぬ調理法。
おまけに、それが絶妙に美味とくる。
男は、満面の笑顔でコチを食しては、サケを味わうのだが。
更なる料理の気配に、思わず視線は店主の調理姿に。
鼻が、食欲をそそる香りをキャッチすれば。
食事中なのに、ぐぅ、と腹が鳴った。

「……うはぁぁぁぁ……これまた……。
 食欲をそそる香り。そして見た目も華やかだ……。
 いただきますっ!」

湯気上がるカキアゲを、さく、と切り。
少し恐る恐る、口に入れる男。
瞬間、熱さに、はふっ、はふっ、と慌てるが。
サケで冷却開始。

「……あぁぁぁぁ、もう、たまらねぇ……」

二段階の食感。甘さとエビの旨み。
サケがそれを引き締め、盛大なため息。
ついで、塩を振り、また食す。そしてサケ。
まさしく。とまらぬ美味さに、男が目頭を押さえる。
幸せの絶頂、という心地だ。

ソウレン > 「私みたいなのんびり屋がそう思っていればいいと思うよ。」

そう言ってにこにことしている。
男は納得した表情をしているし、酒は楽しんでいるようで何よりだ。
このやり取りも、次の世間話の一つになるのだろう。

「よく鳴る腹だね。健康な証拠だ。
店としては嬉しいが、あまり食べすぎないようにね。」

さくさくとかき揚げを食べていく姿にそれだけを。
まぁ、あまり小言を言うつもりもないし、適量というならこちらで調整すればよい話。
食べ終える頃合いにもう一度酒を注いで、合間に茄子の漬物を小皿で出しておく。

「よく食べ、飲んでくれる客は嬉しいものだよ。
それがにこにことしてくれるなら何よりだ。店主冥利に尽きる。」

ことこと。炉にかけておいた小鍋が沸いた事を報せる。
ザルで中身を取り出し、薄く切ったはす芋を浮かべる。
火が通れば味噌を溶いて味噌汁に。
椀によそって、別に白飯を付け、合わせて男の前に。

「さて、これで〆にしておこうか。」

味噌汁の出汁はさきほどのコチのアラでとったものだ。
余程味に鈍感でなければきちんと魚の味わいも楽しめるだろう。

セイン=ディバン > 「あはは、のんびり屋、ねぇ」

相手の言葉に声あげて笑う男。
なるほど確かに。この店主からは、せかせかとした気配を感じない。
なんというか……極めて自然体、とか。そう言える雰囲気があった。

「お、お恥ずかしい……。
 それはもう、気をつけますよ」

腹の音について指摘されれば、赤面する男。
しかし、正直。美味なので、とまらないわけで。
サケのお代わり、そして、ナスのツケモノが出れば。
おぉっ、とうれしそうな声まで出してしまう。

「いやぁ、だってねぇ。
 本当に美味いんだもん。
 そりゃあ、こんな表情にもなります」

美味いものを食べて、硬い表情などしていたらバチが当たる。
とでも言わんばかりに、笑顔のまま。
こりこりと、ツケモノをかじる男。
うんうん、と。なにやら納得したような頷きだが。

「……うはぁぁぁ、これはうれしい……。
 コメとミソシルだぁ。ラストには、こういうのがいいんだよねぇ」

ほかほかのゴハンと、ミソシル。
まさに、フィナーレにふさわしいメニューであった。
ずず、とミソシルを飲めば。店主を見て。
なるほど、とつぶやき。コメを食す。
んふ~、と。満面の笑顔をさらに見せ。
男は、見事。出された物をすべて完食してみせ。

「……ご馳走様でした」

と。満足した、ということがハッキリとわかるような。
その一言を漏らすのであった。