2020/05/01 のログ
ジラ > 「あ……」

あれよあれよと、今更やめるとはいえない状況が作り上げられていく。
テントの中に漂っていた甘い香りが、いっそう濃く感じられる。

「て、適当、って……!」

さすがに絶句してしまう。薬を扱う人間の態度とは思えない。
使用用途を訪ねたことは、安全管理が目的などではなかったとようやく悟る。
けれどもそれはあまりにも遅く、気づいたときには口の中に薬を垂らされ……飲み込んでしまう。

「あ……!」

楽しそうに見下ろす男の子の顔が、どんどん遠くなっていく。
テントがどんどん広く大きい空間になり、甘い香りが強さを増す。
──違う。縮んでいる。
たった一滴垂らされただけで、親しんだ視線の高さは遙か頭上に。
もう、背丈が彼の腰ぐらいしかない。

「あっ、やだぁ……怖い、戻してぇっ!」

涙目になって彼の腰にすがりつき、見上げて慈悲を乞う。
そうやって口を開けた姿は、もっと薬を垂らして、縮むのを加速させて、と言わんばかり。
彼の気分と調合次第では──粉粒のような大きさにさえ、縮んでしまうかもしれない。

タン・フィール > 「あはは、だいじょうぶ、だいじょーぶ♪ …どんなに混ぜて飲んでも、飲みすぎちゃっても…
簡単に死んじゃうようなコトだけは、絶対にないから…♪」

くすくすと白い歯を見せながら微笑んで、
みるみるうちに縮んでいく少女の姿を見下ろし、
その視線の先がどんどんと下へ、下へと下っていく。

1mそこそこの少年と、それよりやや縮んでいた程度の少女の背丈は、たったの一滴で半減し…その、驚きと怯えによって開かれた可愛らしい口に、
もう一滴、もう一滴と、アリの巣に蜜を垂らす遊びのように、
無遠慮に薬を垂らしていく少年。

彼女のリアクションに、無邪気な嗜虐心をかきたてられたかのように、
少し大げさに演技っぽく、「ばいばい」と手をふるジェスチャーをして。

半減しつづける少女に、もはや口元への一滴ではなく、頭上から浴びせるように薬を垂らしていく。

やがて、薬の素材と鳴る虫や、その無視の卵や内臓を選り分ける時に使用するピンセットで、ひょいと器用に少女をつまみ、
少年の優れた視力でようやく視認できる、虫の如き矮躯の少女の表情を伺って。

「ふふ、どーお?…はじめてみるでしょ、そんなに小さなカラダからの視点…♪ ここでしばらく、ウチの虫さんみたいな生活…してみよっか♪」

ジラ > 「あ、あああ、あああああっ!?」

もとに戻してもらえるどころか、逆にどんどん縮小の薬を垂らされていく。
それでも薬師の少年から逃げ出す選択肢なんかない。
自分を元に戻せる可能性があるのは、彼しかいないのだから。
見上げる首が痛くなり、落ちてくる雫もどんどん大きくなる。
ばいばいのジェスチャーに、本当に目に見えない大きさにされてしまうのではないか──
そんな可能性にいたり、愕然とする。

「と、止まった……?」

それに安堵する間もなく、棒状の金属──ピンセットでつまみあげられてしまう。

「ひいっ」

金属の冷たい感触に歯がかちかちと鳴る。少し力加減を間違えれば、たやすく胴体が両断されてしまうだろう。
そうしないのは、彼が、こんな小さな生き物の扱いに慣れているからだ。

「む、虫さんみたいって。
 こ、こんなに小さくされるなんて聞いてないよ……! いま、私どれぐらいの大きさなの……!?
 やだ、元に戻してってば、こんなの、怖いっ」

最初は提案を受け入れたにもかかわらず、戻せ戻せとわめき続ける。
自分の置かれている状況や立場の違いがわかっていないのかもしれない。
そもそも、虫のような大きさの人間の声が、ちゃんと届くかどうか。

タン・フィール > 「―――♪ ふふ、そうだね…♪
僕たちが普段、街で見かける小さな種類のアリさん…
よりももうちょっと小さいくらいかな?」

最新の注意でピンセットを扱い、少女を薬瓶の並ぶ小机にちょん、とつまみ下ろして。
小さな体に小さな声でわめく少女に、うんうんと通じてるのかも疑問な、おおげさな相槌をうってあげながら。

「もちろん、ちゃあんと元にもどしてアゲルよ? …そうしないと、遊べないこともいっぱいあるし、ね…♪

でもそのまえに、もうちょっとだけ、実験につきあって?
…その体で、他のお薬を飲んだら、効果はあがるのか、かわらないのか…♪

十分にお薬が効いてきたタイミングで、もとの大きさに戻してあげるよ。
ちゃあんともとどおりにする中和薬も、あるんだから。」

と、他に並んだ薬瓶から、また適当に細いガラスの管のスポイトで薬液を抽出して
口の開閉などお構いなしに、ぼよんと一滴、少女の体躯にしてみればたっぷりの薬が頭上からまぶされる。
少なくとも、これが中和剤の類でないことは明らかで。


少年は机に頬杖をつきながら、喚く様子も、薬液の一滴を浴びる様子も、つぶさに観察していた。

ジラ > 「蟻、より、も」

わなわなと震える。ほんの数センチにも満たない、ということだ。
足元を見れば、たまに列をなしているあれよりも小さい。
指を乗せれば潰れてしまう大きさ。
そんなものに自分がなっているという現実を、受け入れることができない。
鷹揚な頷きがどこか遠いものに感じる。
もはや対等の人間として扱われていないのだ。
さっきの言葉を思い出す。『しばらく虫さんみたいな生活してみる?』。
『もうちょっとの実験』が、数分で済むのか、数日なのか、それとも……

「あ、ちょっ、待っ……」

蟻の大きさのジラは、薬をひとしずく垂らされただけで水浸しになり、飲まざるをえなくなる。
効果はすぐに現れる。
下腹部に、ふつふつと暖かく重い水が、湧き上がってくる。

「~~~~っ。
 あのっ、タン……
 そのっ、えとっ……
 トイレ、いかせてぇ……っ」

尿意を耐えて、小机の上で這いずり回っている。
その惨めに動く小さなものは、事情を知らなければ、虫にしか見えないだろう。

タン・フィール > 「―――♪ ああ、ぅん、おしっこしたくなるお薬、ひきあてちゃった?
…そうだね、それじゃあ…」

ううん、と少し考え込む素振りを見せたあと、
ごそごそと店の商品棚から、中にガーゼが数枚保管されている四角い直方体のガラス瓶を手にする。
それを彼女の前で横倒しにしてあげて、中へと招くように指で誘導してあげて。

「ごめんね? 虫さん用のおトイレなんて、用意していないからさぁ。
それ、お薬に使う虫さんに、しばらく住んでもらう瓶なんだけ―――♪

…うん、ちょうど良いみたい。
よく吸い取るとおもうから、ガーゼにだしちゃって♪」

横倒しの瓶は、500ミリリットルの酒瓶ほどの大きさで、
ふわふわのガーゼときらめく四方の壁、そして蟻ほどの大きさからしてみれば広大にすら感じる一つの部屋となっていて。

いよいよ、ここから飼育が始まってしまうのような環境の、第一歩だった。

ジラ > 「え、……うん……」

憔悴のあまり、極当然のように虫呼ばわりされていることにも反論できない。
必死に横倒しになった瓶に自ら入り込んで、ガーゼの上へとたどり着く。

「あ、もう、駄目……」

少年の視線は、嫌でも意識に入ってくる。だからといって、これを拒む余裕などありはしない。
ガーゼの上で四つん這いになって、……
やがて、しと、しと……と静かに排尿していく。

(あ、気持ちいいな……)

どんな状況でも、悲しいまでに排泄は心地よい。
ガーゼに、小人の尿が染み込んでいく。……

タン・フィール > ガラス腰に少女に浴びせられる、少年の好奇と、興味とを伴った視線。
滑稽なほど必死に自分から瓶へと入り込んでいく様子を、くすくす笑って観察しながら、
先程のピンセットで、小水を吸ったガーゼ一枚だけを取り除いて…

その後、空気孔となる網目をこさえられた蓋で、瓶に栓をしてしまう。

「ふふっ、そこ、きにいってもらえると嬉しいな♪
…おトイレのたびにガーゼは取り替えてあげるね、小人の体液は他のお薬に使えるし…。

…ごはんも、おみずも、家具だって、好きなもの用意してあげるよ♪
…ほしいものがあったら、なーんでもいってね。」

と、瓶の住まいを快適にしてあげようと、あれこれクラフトしたり仕入れたりすることを妄想しながら、
手にした小さな命でたっぷり楽しもうと、きゅっと大事そうに瓶をかかえて、さらにテントの奥へと―――。

ご案内:「薬屋のテント」からタン・フィールさんが去りました。
ご案内:「薬屋のテント」からジラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 色里」に乙姫さんが現れました。
乙姫 > 今宵は娼館全体で客が少なく、静かであった。
まだ小間使いと立場の変わらぬ妹姫も退屈していて、自室の窓を開け、稚児のような遊びに耽っていた。
石鹸水をストローに浸し、吹く。つまりシャボン玉。
彼女の部屋は裏道に面していて、高級娼婦である姉姫達の部屋からみえる光景よりずっと暗く、月明かりのみと言っていい。
そんな状態で念の入ったシャボン玉を吹いて飛ばせば、それが弾けたときに聞こえるのだ。
『こちらをみよ』と。
けれど誰にでも聞こえるわけではない。
感性次第と言うのか、相性なのか。
とにもかくにも鬼の妹姫は誰ぞ網に引っかからないかと期待して悪戯を続ける。
客にならなくともいい。
こうして少し距離のある状態で、まるで逢い引きのように話して終わるだけでも。
この無聊を慰められるなら。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 色里」にアルファさんが現れました。
アルファ > そろそろ生きとし生けるものが眠りにつこうとするときでもこの街並みは眠らない。
明々と漏れる明かりはまるで眠らぬ男どもへの誘蛾灯のようで。
この娼婦館が並ぶ街に踏み入れた青年も今宵どこで楽しむかと並ぶ建造物に目を流す。
そんなときにふと視線の端に映る見慣れぬものに気が惹かれた。

「しゃぼん玉?」

ふわりふわり明かりを照り返す夜のシャボン玉に目を奪われ、それが次々に流れる裏道へと踏み込んだ。
月明かりだけの暗い場所だけれど半妖は猫のように目を光らせてシャボン玉の出どころを見回して。
そして窓辺にと凭れ掛かる白髪の女を見つけた。
こちらを見るまではただじっと仰いでいた。

乙姫 > 闇に紛れる青年が見るのはまだ幼さの残る異国の少女。
娼婦にしては色気が足りず、小間使いというにはのんびりとしている。
それがふと視線を落とすと、こちらを見上げる男に気づく。

「…………。」

言葉をかけようとする間にも思えるが、彼女の行動は。
シャボン玉をふぅーっと青年に向けて飛ばし、その様子を見下ろすことにした。
波長が合えばそれが割れたとき、『もっと近くへ』と聞こえるだろうし、合わなければ鼻先を石鹸水が濡らすのみ。
どちらでもいい。それは重要なことではない。
話し相手となってくれるのなら。

アルファ > 月光を受けて暗闇でも光るシャボン玉の行方を追って、仰ぎ眺めていた薄い紅の目が動いた。
まるで蝶のようにこちらを目指すしゃぼん玉が割れたとき、微かに聞こえた声に石鹸水に濡れた口が綻んだ。
その後も迫るしゃぼん玉はなぜかしら割れることなくボールのように青年の肌から跳ねて。

「よっと」

音もなく跳躍した半妖の体は軽々と宙を浮き、頭上にあるしゃぼん玉の上に乗る。
鬼娘のストローから生まれるしゃぼん玉を階段のように次々に足を乗り換えて昇って。
遂にはその顔立ちも分かる距離まで迫ったのなら手が窓枠を掴み、壁に足をかけて窓辺の人の側に寄った。

「やぁ、元気なさそうだね。どうしたの?
 なんだか呼ばれたような気がして来たんだけれど」

乙姫 > 「ほーう……。」

少女の目が興味深そうにしばたたいた。
たしかに人間とは違う気配をうっすらと感じる存在のようだけれど、なかなかに面白い人種のようだ。
見た目より軽いフットワークにも、どこか玩具を見つけた表情を浮かべる。
まさかここまで近くに寄れるとは思わなかった。

「元気溌溂に客を呼んでいては風情もなにもなかろうて。
 ……というつもりでもなかったのだが、思った以上に刺激的な御仁が釣れたな。
 そなた、面白い術を使うのじゃな。」

古めかしい言葉遣いとは裏腹に、喉の奥でくすくすと笑う声は見目相応に鈴を鳴らす。
正式に入り口から入った客ではないが、まぁ良いだろうと3歩ほど後ずさって。
青年が室内に入れる場所を作ってやろう。

アルファ > 近くで見遣る表情は想像とは違う喜ぶもの。はつり、と瞬いた半妖は掛けられた言葉にまた口端をあげる。

「怒られると思ったら歓迎された。
 てっきり玄関から入り直せと言われると思ったのに。
 面白いかな?
 魚が海を泳ぐように、鳥が空を飛ぶように。
 俺は夜の闇では思うように動ける」

笑う姿に気分が高揚する。後ろずさるのを来室の合図と受け取った半妖は窓枠に足をかけて。

「それじゃお邪魔するよ。君がお相手してくれるなら後で正面で料金を払っておくから」

その足が床に触れるときには黒靴が霧散して同色のソックス姿となり。
部屋に入り込めば窓を締めてから壁に背を寄りかからせ。

「客引きするなら表ですればいいのに。
 君ならすぐ客を取れるでしょ。それともそういう気分じゃないとか?」

腕組みしながら首を傾げた。

乙姫 > 「闇の眷属か。よくひっ捕らえられもせずおるものじゃな。」

己も異国の鬼だから疎いところがあるが、魔と長年争っていると聞く国で大胆なものだと感心した。
そのあたりは似たように忌み嫌われることもある種族として、他人のことは言えないけれど。

「そなたこそ女を買いに来たのか。」

シャボン玉一式を脇に置き、袴の折り目に気をつけながら座すと、意外にも客として呼ばれたと承知している青年に少し驚いた様子を見せてしまった。
場所柄色欲に目を曇らせた男は多く、それはそれで当然だとも思っているのだが。
この御仁に限って言えばそういった者とも違う気がしていた為、そんな印象が外れた。

「……あまり金を持っているようにも見えぬしなぁ。」

失礼な独り言までも呟くほど予想外だったようで。