2019/11/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にケイさんが現れました。
■ケイ > 風は涼しいはずなのに、歩き詰めでのどがいやに乾く。革袋の水筒の水を飲みほし、ケイはようやく
一息ついた。水をどこかで買わないといけない。だが路銀もほとんどなく
宿どころか腹を満たすことができるかすらおぼつかない。
「仕事を探すか……」
かすれたハスキーボイスでぽつりとつぶやく。
埃にまみれた、ようやく砂塵の中から這い出てきたような格好でケイはぐるりと商店が立ち並ぶ
街の通りを見渡す。正直、小さな村の馬小屋を借りることができれば御の字、多くは野宿で着の身着のまま
だ。街ゆく着飾った女性を見て、野宿中は気にならなかったが途端に自分の体臭を確認する。
できれば宿に泊まりたい。だが愛想笑いの一つもできない自分を雇ってくれる人はいるだろうか。
拳法しか取り柄がない、という自己評価の女は、小さくため息を吐いて一旦足を止めた
■ケイ > 自分の姿を見下ろしてみれば、こちらの国の衣装で質の悪いものではないはずだが
上着など着替えを何着も持って旅をするでもなければ、着の身着のまま、拳と手首に巻いたバンテージ
も厳つい、というよりは不逞の輩を連想させるかもしれない。無頼、と言うべきか。
とはいえ実際、拳法と、ちょっとした教養、文字の読み書きや算術といった程度のことしか
やったこともない、やさしかった乳母の様に針仕事や指物が得意であれば仕事も容易に見つかる
のだろうけれど、生憎男の様に育った自分にはそんなことはできない。
最悪救貧民のような場所を探す羽目になるのかもしれないが、正直あまり気は進まない。
贅沢など言えた義理ではないが、病気も蔓延しやすいというし、救貧民の女、と顔を覚えられれば
その先も面倒になるだろう。とにかく宿だ。壁があって屋根があればいい。それで十分だ。
なるべく粗末そうな建物を探しケイは歩く
■ケイ > やがて目に留まったのは一つの看板のかかった建物。一応宿なのだろう。それにしても汚い。
いや、一応掃除はしているのだろうが、レンガはかけ、日々に煤だかドロだかがこびりついて
掃除するだけくたびれもうけなのではないか、と思うほどだ。
中をちらりと覗くと、背の曲がった老婆がぼんやりと面白くなさそうな顔で店番をしている。
こちらのことも視界に入っているだろうに、一向に客引きのようなことをする気配はない。
一階は食堂、と呼ぶのもためらわれる、小さなかまどが一つ見えて、フライパンのような道具が一つ二つ
あるだけだ。あれで作れる範囲のものを出しているのだろう。
どこか室内は埃っぽい、だが床にごみは落ちていない。人の気配もあまりない。
一旦通りに戻り二階を覗き見ると、いかにもごろつきといった男が窓から顔を出して煙草をふかしていた。
■ケイ > 「すみません」
おずおずと声をかけると、幸いなことに老婆はこちらの言葉に反応してくれた。どうやら二泊できる様子。
安い。だが室内にはいれば、鍵と呼べるものはつっかえ棒だけ。
ベッドというよりは箱。広さは二畳半といったところ。孟子明け程度に服を吊るす棚がある。
「とりあえず今日はここに泊まって……明日から仕事を探すか」
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からケイさんが去りました。