2019/03/17 のログ
イグナス > もぐ、ぐびぐび。そんな遅くまでの食事タイム、まだもう少しの間、続いたようで――
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 酒場通り」にエインセルさんが現れました。
エインセル > 今日は久々のオフ。だから、お夕飯は外で済ませる気満々だ。
そろそろ春先。この時期は野菜が美味しいからサラダなんかもいい気分。
それに背を伸ばすために牛乳を飲まないと、等と食い気に魅了されたままの道行。
少々無茶をした代償で、時間を戻した際に背丈を少しばかり持っていかれたから、背を伸ばすのは急務だ。
――ともあれ、ぽてぽてと店を探しながら歩くのだが。

「ん、ぱっとしない……困った……」

時期物の料理を出してくれるようなお店が見当たらない。
どこもお肉で煮込みで揚げ物で。美味しいのだけれど代わり映えしないものばかり。
だからか、少女は酒場通りをうろつきながらも、店を決めきれずにいた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 酒場通り」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > 「……ふぅっ」

平民地区の一角で、男が息を吐く。
周囲には見た目で分かる荒くれ者が数人。地面に転がっていた。

「こんなもんかな」

やれやれ、と言いながら細巻を咥える男。
本日の依頼である『酒場の用心棒』として、店で暴れたアホウどもをのしたところであるが。
あまりやりすぎれば店に迷惑がかかる、と。男はそこで暴力行為を辞めるのだが。
ふ、と煙を吐いたとき。視界の端に一人の少女の姿が見えた。

「……おーい、お嬢ちゃん。
 あんまキミみたいな可愛い子がウロウロしてっとあぶねぇぞ。
 何かお探しかい?」

あまりにも無用心すぎるその姿に、思わず声をかけてしまった。
貧民地区よりは安全と言っても、酒場周辺の地域は治安は良くはないのだ。

エインセル > ぽてぽてと、のんびり歩いていたところ、目の前にどさりと何かが転がる。
じぃ、と視線を落とすと、そこには何人かの男達が伸されて転がっていた。
いかにも荒くれ、と言う風情の彼ら。しかしどうやら気を失っている様子。
――ふむ、と飛んできた方を見上げると、そこには恐らく彼らを叩き出したのだろう男の姿。

「……ん、探し物、と言えば、探し物。美味しいお夕飯、食べたい」

不用心、と思われるのも致し方ない装備に少女は、しかししれっと無表情。
治安が悪いことは知っている。ついでに怪しい店がいっぱいあることも。
感情を映さない二つの眼差しで彼を見上げながら、首を傾げて言葉を返す。

セイン=ディバン > 貧民地区とは違い、酒場や娼館で暴れ、難癖を付け、などという客はそうそう来ない。
よって本日のお仕事はこれにて自主終了、といこうかと思っていた矢先。
ふらり、と現れた少女に、男は完全に毒気を抜かれる。

「ふむ……なるほどな。
 まぁ、こうして出会ったのも何かの縁だ。
 付いて来な。メシくらいは奢ってやるよ」

明らかにか弱そうな見た目の少女を、この通りに放置することもできぬか、と。
男はそう考え、くるり、と踵を返すと、本日雇われている酒場へと戻っていく。
相手が本当に付いて来るのなら、素直に食事を食べさせるつもりだ。

エインセル > どうやら目の前の彼は、ご飯をご馳走してくれるという。
――良い話には裏がある。だから信用するか少し迷う、が。

「……ん、沢山食べるけど、大丈夫?」

どうせ失うものはない。仮に襲われたとして、一夜のセックスで食事ができるなら安いものだ。
或いは奴隷として売られるならば困りはするが、生きているから問題はない。
飯を食わねば死ぬ。そちらの方が問題だ。だから結論は単純で。

「――ん、よろしく……この人達はこのままで平気?」

ひょこり、と倒れ伏す男達を跨いで店側へ。
何事もなければそのまま、てくてくと店に上がり込むつもりだ。

セイン=ディバン > 「もちろんオッケー。
 可愛い子ならいくらでも奢るさ」

相手の質問には、男は胡散臭い笑顔で答える。
こうして良い顔ばかりしていたからこそ痛い目を見てきたのだが。
この辺りは治らぬ病気のような物らしい。

「あぁ、悪さした時点で客じゃねぇからな。
 そのままにしといて問題ないさ」

気絶中の荒くれ共を気にする少女にクス、と笑いつつ。
男は少女を店の中へと案内する。

「マスター、食事休憩入るよ。
 さてお嬢ちゃん。何がご所望かな?」

カウンターの中の店主に声をかけ、少女にメニューを手渡す男。
問題はこの店の料理である。不味くは無い。
が、取り立てて目新しいものもない。
この少女の要望に応えられるかどうかは、微妙な所だろうが。

エインセル > 「……ん、承諾は得た。なら、平気」

ぽつり。彼に聞こえぬ様に、小さく呟く。
彼の言葉に従うように、伸びてる男達には目もくれず。
そのまま、てくてくと段を上がって店の中へ。
きぃ、と木の扉を開いて進めば、そこは平凡な酒場。
席に通され、ちょこんと腰掛け、渡されるメニューを眺める。
――季節物の料理はなさそうだ。だが、自分の金でなければ無問題。
先程彼は確かに、いくらでも、と言った。ならばたっぷり食べるとしよう。

「ん、上から下まで、全部。一品ずつ持ってきて。
 支払いは、全部さっきの……お兄さんが、してくれる」

少し間が開いたのは、おじさんと言うか迷ったから。
ともあれ、ここは機嫌を取っておくことにする。これも立派な処世術だ。

セイン=ディバン > 「……」

相手が何かを呟いた気がしたが。聞き取れなかった男は、ふ、と笑みを浮かべ。
そうして、少女がメニューを眺めるのを見て、男はふら、と厨房に入る。
バトラーコートを脱ぎ、マスターと二、三言葉を交わしていれば。
従業員が注文を告げに来て、それを聞いて男は笑う。

「なるほどねぇ。凄いな。
 ……さて。久しぶりに腕を振るいますか」

大胆な少女の注文に男は笑うが。
そこで男は腕まくりをし、マスターに断りを入れて厨房に入る。
しばらくして、少女の目の前には様々な料理が並ぶ。
鶏肉のステーキ。茹でた豆。揚げた芋。魚のムニエル。
それらの中に、メニューには無いサラダや、フルーツタルトなどまであった。
当然。これは男が勝手に作ったものであり。その味は絶品を超えて魔技と言ってもいいほどの領域の食事だ。

「さぁ、じゃんじゃん食ってくれ」

再度少女の目の前に現れた男は、にこり、と笑いながら言い、また厨房へと引っ込んでいく。

エインセル > 「……おぉー……メニューにないものも、ある?」

珍しく少女の瞳に感情が浮かぶ。驚嘆と歓喜の入り混じったものだ。
くぅぅ、と小さく鳴る腹は、目の前の皿の上全てをしっかり収める。
腹の中に虚無を飼っているのではないか――そう噂される少女である。

「ん、頂き、ます――はむっ、ん、あむっ……ん、ふふ、おいふぃ……♡」

ぱく、と一口肉を食い、頬を緩ませる。ついで茹でた豆を頬張りむぐむぐと。
こく、と飲み込むと薄めた葡萄酒で口の中をリセットして、揚げた芋を、魚を。
むぐむぐ、もぐもぐ。少女は見る間に皿を奇麗にしながら、時折感嘆の吐息を零す。
これほどの料理に出会えるのは極稀だ。それもこの量で、しかも無料だ。

「んむっ――はむっ、んくっ――ぷふぁっ……これと、これ、お替り」

中でも気に入ったのは、茹でた豆とフルーツタルト。
豆は春先が旬だからか、ほろりと甘くて素敵な触感。
塩を振って食べるとなんとも美味い。麦の酒ならこれ以上なく進むだろう。
フルーツタルトも、多種多様な果物が宝石のように輝いている一品。
かじりつけば口いっぱいに広がる複雑な果汁の味わい。混然一体となったそれは、神の酒を思わせる。
夢中になって、ただ食べる。周囲の客が見ている中、空になった皿が徐々に積みあがっていく。

セイン=ディバン > 「メニューの商品だけなら、そこらの店でも普通にある。
 なのにわざわざ店を探してたってことは……。
 何かしら食べたいものがあったんじゃないかと思ってね」

言いながら厨房に戻る男は、しかし食いきれるのかねぇ? などと思うが。
次の瞬間、フロアから感嘆の声が上がり、思わず厨房から顔を出す。
そこでは少女が見事に食事を平らげており。
周りの客達が驚きの声を上げていた。

「……ははは、しかもおかわりと来たか。
 よし。マスター、こうなりゃとことんだぜ」

驚きから引きつった笑みを浮かべた男だが。すぐさま厨房に戻り、料理を作り始める。
魚、肉、野菜、飲み物だって男が注ぐ。
少女の周りの客たちは、少女の食いっぷりに拍手喝采。
いいぞいいぞ、もっと食え、なんてちょっとした大道芸を見る様子。
そうしている間にも男はガンガン料理を作る。
ケーキ。煮物。揚げ鶏にソーセージ。男が全速力で作っても、少女の勢いに追いつけるかどうか。

エインセル > 「ん、ふふ……天国、かも?――あむっ♡」

はぐ、むぐむぐ、ごくん。骨付きのお肉、お魚のマリネ、揚げたチーズ。
色々な料理が乗った皿が、するすると空になって、少女の腹が膨れて。
しかしどういうことか、大量の料理が入ったはずの腹は、わずかに膨れた程度である。
何に栄養と質量を持っていかれているのかはわからないが、少女は凄まじく健啖家。
この矮躯にどれほどの量が入るのか、と解剖されかねない程度に食欲は旺盛だ。

「ん、はむっ――ん、くっ、揚げ鳥、カリカリで、美味しい。
 煮物は、味が染み染み。ソーセージは、皮がパリッとして、素敵。
 ケーキは、ふわふわスポンジ。クリームも、甘すぎない。美味しい。
 ――ん、ぷふぁ。凄い、ね。飲み物、欲しいときに注いでくれるの」

お陰で少女は一心不乱に食べ物にありつける。
周りではやんややんやと客の喝采。中には賭けを始める者もいる様子。
むぐむぐ、もぐもぐ。結局少女の手が遅くなるのは、二巡ほどお替りした後の事だった。

セイン=ディバン > 「……マスター……。今日のオレの仕事の報酬。
 残るかどうか確認してくれる?」

ちら、と覗った少女の様子。まったくスピードが落ちない。
というか、一定のペースで見事に食事を続けている。
流石の男も驚きというよりは恐ろしさを覚えるものの。
いくらでも食っていい、と言った以上はその言葉を反故にはできない。

「……よ、よろこんでくれてるようでなによりだ~……」

聞こえる料理への賞賛に、男は厨房から返事をするが。
いよいよ店の食材がなくなりかけていく。
そこでようやっと少女の食事ペースが落ちたということを聞き。
男が厨房から姿を現す。

「……ご満足いただけたかい? お嬢ちゃん」

あはは、などと乾いた笑みを浮かべながら問う男。
心なしか、顔色が若干悪い。

エインセル > 「――は、ふぅ……これだけ美味しいと、食べすぎちゃいそうになる、ね。
 でも、苦しいほど食べると、その後がつらいから、我慢、我慢……うん」

店の食材の粗方を食いつくして、少女の手はようやく止まる。
満足――と言うよりは、腹八分と言うのが適当な所だが、彼の言葉にはこくっと頷いて。

「久々に、素晴らしいお料理だった。凄く凄く、美味しかった。
 ……ん、満足。お腹もそうだけど、心が、満ち足りた。ご馳走様」

ぺこん、と頭を下げて、少女はけぷ、とはしたなく小さなげっぷを一つ。
そして薄めた葡萄酒の残りをくいっと飲み干すと。

「……ん、皆、もしも私の食べっぷりが気に入ったなら、おひねり、くれると嬉しいな。
 お料理作ってくれた、お兄さんだけに払わせるの、きっと大変だから――ね、お願い」

周囲の客達もすっかり釘付けだったのだから、見物料くらいとってもいいはず。
額面は気にせずおひねりを――さぁ、試されるのは、周囲の客の気風の良さだ。

セイン=ディバン > それだけ食べてまだ食べすぎでないのか、と。
周囲の客の驚きがざわめきになって漏れる。
男は、久々に料理の腕を振るいきったことに満足し、少女の近くの席に座る。

「いやぁ、喜んでもらえたならなによりだよホント。
 凄い食いっぷりで、こっちも嬉しくなっちまった」

相手が頭を下げるのを見て、男は手の平をヒラヒラと振ってみせる。
厨房を出る直前、マスターから。
『セインさん、今日の仕事の報酬残りませんよ』
とか言われたので。微妙に泣きたいのだが。

「……いや、お嬢ちゃん。それはダメだ。
 オレも冒険者だからな。オレが奢る、って言ったのは反故にしちゃならねぇ。
 冒険者は信頼が命だからな。……でも。気持ちだけは貰っとく。ありがとな」

周囲の客が懐に手を入れ、おひねりを出そうとするのを男が止める。
仮にもある程度顔の売れている男が、逆に客に助けてもらったなどという噂が立てば仕事に影響が出る。
男は、少女の頭を撫でながら、その気持ちへの礼を告げる。

エインセル > 「ん、それは良かった。私も、とっても幸せ、かも」

はふぅ、と夢心地な少女は、すっかり満ち足りた腹を撫でながら笑みを浮かべる。
普段無表情な少女のレアな笑顔、ではあるのだが、初対面の彼には関係ないだろう。
そしておひねりについては、目の前の彼がピタッと止める。彼の矜持に係るらしい。

「ん、それなら、甘える。皆も、ありがと。
 ――お兄さんも、冒険者なんだ。偶然だね、私も、だよ。
 えーと……うん、美味しいお料理、沢山食べさせてもらったし、ね。
 名前くらいは、教えておく。私は、エインセル。よろしく」

彼が頭を撫でるなら、魔術で隠した耳の存在にも気づくはず。
とはいえ、世話になった彼を制止するのも忍びないから、ばれたらばれたの精神だ。
もふり、と柔らかな栗毛に包まれた頭上の耳は、わずかにくすぐったそうにパタパタ揺れていた。

セイン=ディバン > 「たまにはこうして料理を作らないとなぁ。
 師匠に怒られちまうかもしれないし」

相手の笑顔に、思わず男も微笑んでしまうが。
それにしても凄まじい食事量であった。
並みの大食いなど相手にもならないレベル。この子はどこか特別な存在なのでは? と男は考えるが。
会ったばかりで追求も野暮か、と。男は頼んでおいた麦酒を軽く呷る。

「あぁ、甘えてくれ。
 へぇ、そうなのか。じゃあもしかしたら、今後一緒に仕事とかもするかもな。
 エインセルか。良い名前だな、軽やかで。
 オレはセイン。セイン=ディバンだ」

触れた相手の頭。確かに、ふさっ、とした感触があった。
おや? と思うが。男はそこで声を上げたりはしない。
ある程度、相手の正体に関して読みを働かせるものの。
確証がないので黙っておく。

「しかしエインセルはいつもコレくらい食うのか?
 だとすれば、凄い食欲だが……」

まさか毎食これなのか? と疑問に思い尋ねてしまう。
良く考えれば、失礼な質問だったかもしれない。

エインセル > 「師匠の人も、凄かったんだね。笑顔になれる、お料理だったし。
 ――ん、いい名前、と言うのは初めて言われたかも。ちょっと、うれしい。
 よろしくね、セイン。……ん、今、触ったのは、皆には秘密、だよ?」

耳に触れる手。その感触を分かりながら、いたずらっぽく笑みを零して。
美味しい料理に弱い少女は、すっかり彼に心を許した様子だ。
並の大食いなど相手にならない――だからデカ盛り自慢の店は基本的に出禁。
普段は食欲をセーブして、ひもじい毎日を過ごす。だから、今回は久々のたっぷりご飯だ。

「……ん、いつもはもっと、セーブしてる。一日のお仕事の報酬から、出せる範囲で。
 だから実入りのいい仕事とかしたいけど、大抵危ない奴だから、なんとも、なんとも。
 ――正直、体を売るのが一番楽だけれど、そっちで有名になると、冒険に支障出るし。
 こうしていっぱい食べるの、久しぶりだったから、とっても満足。天国かも」

彼の問いには素直に答える。隠す必要性がないから。
それに事実だから失礼だなどとも思わない。ただ正直に、言葉を返す。

セイン=ディバン > 「あぁ、そりゃあもう。
 出会うなり料理とマナーを叩き込まれたもんさ。
 ……ははっ。分かってるさ」

相手の言葉に昔を懐かしみつつ、耳のことについては黙っておく、と約束する。
なかなかに不思議な秘密を抱えていそうな少女だが。
その中にイヤな気配が無いのはとても魅力的であった。

「そうなのか。だったら、たくさん食べてもらえて良かったよ。
 ……ふむ。あんまり体を売るのはオススメできないけどな。
 この街じゃあ、ヤバいやつらも多いし。
 とはいえ、その辺はエインセルの自由だがな」

ふむふむ、と頷きながら聞いていた男だが。
流石に、体を売る、と言う部分に関してはちょっと心配であった。
だが生き方は人それぞれなので、そこに関してはあまり突かない。