2018/11/29 のログ
■ゼナ > 後にこの日のすれ違いに気付いたのなら、ゼナは激しくじたばたしたことだろう。よもやおっとり上品な女店主が、淑やかな笑顔の下でこれほどあられもないあれこれを考えていようとは。
しかし、ロベリアの世慣れた演技は実にさり気なく本音を隠し、無自覚娘はそれに気付くことが出来ぬまま。故に、己の汚れ物を初対面の綺麗なお姉さんに処理してもらう事に感じる羞恥以外は感じる事無く
「―――え、と……そ、それじゃあ、お願いしちゃいます……」
かぁぁ……と頬の赤みを強めて視線を逃しつつ、ゼナの体温を色濃く残した白布を彼女に手渡す。彼女がその布の匂いを物陰とかで確認していると知ったのならば、今度はそんな背徳をゼナも自慰のおかずにしてしまうだろうけど。
「そ、それじゃあご飯! ご飯ですねっ! わーい、グリム、嬉しいねっ!」『オンッ、ワォンッ!』
そんな訳で無事に済んでしまった一連の流れは、多少の火照りを残しつつも清潔さを取り戻した上体にすぱっと被ったセーターによって終わりを迎える事となる。
並の獣とは大きくかけ離れた理知を持つ狼犬と言えど、2匹の雌が醸す背徳のすれ違いにまで気付ける程の機微はなく、ぱたぱた振る尻尾はこの後のお肉に意識を向けるのみ。
■ロベリア > 受け取ったおしぼりを、エプロンと纏めて抱えてお店用の洗濯カゴまで。
僅かな間だが、さりげなくおしぼりを鼻に当ててゼナの香りを堪能した。
冷静に考えるとこんな事ただの変態だが、無防備に肢体を見せつけられ続けて冷静ではなかったからこその行為といえよう。
ともかくようやく準備は整い、一旦店を空けると街へ繰り出す。
「ふふふ、嬉しそうですねぇ。
そんなに喜ばれると、私も嬉しくなっちゃいます」
お昼を楽しみにはしゃぐゼナとグリムを、今度は邪念なく微笑ましく見守る。
性的なあれこれが絡まなくても純粋に可愛いものは好きなのだ。
「どこか行きたいお店とかあります?
あんまり高いのはちょっと困りますけど、普通のところならゼナさんの好きなところで結構ですので」
いよいよお昼なのを楽しみにしているのはロベリアとて同じ。
特に、最近の女の子の好みの動向を自然に探るチャンスでもあるので行き先をゼナに振ってみる。
■ゼナ > 女店主が形良い鼻先に押し付けた白布には、きっちりはっきり戦士娘の体臭が染み付いている。オレンジめいて甘酸っぱい、しかしどこか爛れた気配も滲む卑猥なフェロモン臭。そこには半淫魔の血が醸す微かな媚毒も含まれているのだが、常人が強く吸い込んだとて少々興奮するといった程度の物。
生粋の魔族である彼女にとっては逆に気付かぬ程に微々たる物だろう。
「えっと、それじゃあそうですね……この辺りでこの時間ですと……。」
食べ歩き大好きなゼナである。冒険者の宿周辺の美味しいお店情報は網羅してある。脳裏に浮かぶ下町の俯瞰図に、パパパパパッと灯る店舗一覧の光点。それらの内のほとんどが「ここは高いからダメですね」とか「ここはお肉控えめですし」とか「いきなり辛いのは流石に」とかで次々消える。
大柄な狼犬とタイプの異なる二人の美女。
すれ違う男たちの目を惹きつけながらの散歩によって女店主を案内したのは、看板すら掲げていないちょっと立派な民家といった風情の建物。
入り口とてスイングドアの様な開放的な物ではない一枚扉。
それを何の遠慮もなく引き開けて、屋外から野外への移動に伴う一瞬の暗がりの後に女店主に見せるのはカウンター席のみの酷く狭い店内と、肩も触れ合う程の距離感でぎっちり座る大勢の客。
『らっしゃぁいぃ!』『直ぐに注文取りにいくんで、しばらくそこに座って待っててくんな!』
汗浮く額にまいた手ぬぐいも勇ましい店員が、巨大な鉄鍋を業火の中で振りながらそれぞれに声を掛けてくる。客層の殆どはむくつけき男性客。しかし、少数とは言えゼナとロベリアの様に友人同士連れ立って来たと思しき女性客の姿も見える。
「ついてましたね、今日はずいぶん空いてます♪」
入り口入って直ぐの壁際に並べられたスツールの一つ、順番待ちと思しき先客の隣に腰を降ろし、狭い通路を挟んだ眼前に料理をかっこむ男性客の背を見上げるゼナ。その傍らに行儀よくお座りするグリムも常連の風情で店員から頭を撫でてもらったりしている。
■ロベリア > 連れられて来たのはあんまりお店らしくはないお店。
そもそも外食の少ないロベリアは、当然こんなところは知らない。
そして折角女の子とやってきたのにあんまりかわいくもおしゃれじゃないのには少しがっかりしたが、よく食べるというゼナの場合量に対して割高なカフェなどは候補から外れたというところか。
「こ、これで空いているんですか」
空間にあまり余裕を感じず身を寄せ合っているという感じだが、空いていない時は一体どうなってしまうのだろう。
食事時という事を考慮すると、まだマシという事なのだろうか。
自分の店とは大分勝手が違うなあと思いつつ、ゼナと並んで席が空くのを待っている。
「メニューもよく分からないので、適当に頼んでいただけますか?
好き嫌いはありませんので」
ゼナに寄り添い、なるべく声を抑えて話しかける。
狭い店の利点は同行者と自然と密着できるところにあるのだなあと気づいた。
流石に、こんなところで調子に乗ってのぼせ上がったりはしないが。
■ゼナ > 「んふふふっ、わたしも最初はびっくりしましたよー。全然お店っぽくないですもんね、ここ。おかげで最初はお客さんもほとんど来なかったんですけど、味がすっごくいいんですねっ! それでどんどんお客さんが増えちゃって、今ではお店の外まで行列ができてるなんてことも普通になっちゃってるんですよーっ!」
自分の事の様に嬉しそうに語るゼナの声音に、カウンター席にて料理を食べる女性客もうんうんとばかりに頷いていたりする。そして、冒険者たるゼナの場合はこういったお店に一人で入るのも躊躇は無いが、同様の客層を相手にしていても柔和な雰囲気の彼女はこんなお店など利用しないだろうという考えもあっての敢えてのチョイス。
女性としては気後れするだろう雰囲気さえかき消す料理の美味しさを味わった時、彼女がどんな顔を見せてくれるか楽しみで仕方がない。
「はい、おまかせくださいっ! グリムはいつものでいい?」『ワウッ! ワウッ!』
パタタタッと勢いよく振られる尻尾を見れば、彼もまたここの料理のファンであることは明白だろう。
鉄鍋と無骨な機材が奏でる騒音。それに負けぬ店員のがなり声。そして、見知らぬ他人と肩を寄せ合う至近距離にもかかわらず、遠慮なくそれぞれの会話を楽しむ客の声は、控えめに発するロベリアの声音をかき消してしまう。
だからこそ、ゼナは彼女の紫髪を鼻先で退けるようにしながら顔を寄せ
「今日はわたしのお気に入りを注文しますね。穀物炒めと、ほろほろお肉の煮物って感じのお料理です。ボリュームたっぷりですので、食べきれなかったら言ってくださいね❤」
彼女に合わせて声を抑え、どこか甘く耳朶を擽るかに小声を注ぐ。
そして今度は金の短髪揺れる小麦の耳を彼女の唇に近付けて返事を請うのだ。自然、寄せられる肢体は、セーター胸元のたわわな膨らみをむにゅりと彼女の二の腕に押し付ける形となるだろう。
■ロベリア > 耳元に寄せられるゼナの唇。
そこから発せられる声に、息遣いまで聞こえてきそうでドキドキする。
「へえぇ……、ボリュームが……。
た、楽しみですねぇ」
今度はロベリアがゼナの耳元へ。
彼女の髪が鼻をくすぐる。
胸を押し付けられた時思わず、ボリュームたっぷりでふにふにのお肉が当たってますと返したくなったが我慢。
言ったらただのセクハラだ。
というか、嬉しいけれどこの状況で無防備に誘われると完全に生殺しである。
分かっててやってるのならとんでもない悪女だが、そんな素振りが一切見えないのもそれはそれで恐ろしい。
「私も、少食という訳ではないので……。
ボリュームがあっても食べきれない、という事はないと思います」
耳元に口を寄せたまま、そう付け加える。
単純に食事の話題のはずだがゼナの体を意識しすぎて、思わず意味深になってしまった。
■ゼナ > エッチな竜人と結婚し、新妻生活を初めてからは淫蕩の気も益々強まって来たゼナである。一度その気になれば、猥雑たる店の喧騒をカモフラージュに、行儀よく閉ざされた彼女の太腿の間にするすると手指を滑らせるなんて悪戯もしたかも知れない。
とはいえ今は腹ペコモード。その意識は色気よりも食い気に向いてしまっている。そのためゼナの行動に淫らな意図など欠片もなく、屈託のない無自覚エロが女店主を攻めるばかりの生殺し。
「それなら大丈夫ですよね。うん、ボリューム……食べ……ん、ぅ…?」
それでも半分受け継いだ淫魔の血故か、寄せた耳孔を擽る声音の妙なニュアンスには気付いてしまった。最初は単に「――ん?」といった程度の違和感。
傾げた小首の視界の端にちらりと映る己の駄肉。
ハッとして彼女に蒼目を向ければ、彼女の紫瞳も盗み見るかにこちらの胸元に向けられていて―――――じわわぁ…っと小麦の頬に血が昇った。
そんなタイミングで注文を聞きに来たまだ年若い女給に声を掛けられ、ひっくり返り気味の奇声を上げたゼナではあったが、その後はどうにかうまく注文を告げたらしい。『あいよっ!』と威勢よく返す少女がカウンターへと去った後
「………………………………」
何やら妙に強張ったゼナが、赤みを帯びたまま俯けた顔の蒼瞳だけをちら…っと女店主に向ける。恐らくは自分が一人で勝手に先走り、変にエッチな意図として受け取ってしまっただけなのだろう。
となれば、隣の彼女は先程までとまるで変わらぬ心地で、いきなり固くなったゼナに小首の一つでも傾げているのではないだろうか。
実際に彼女がそうした演技を見せるなら、ゼナも淫らな期待を孕んだ熱息を吐き出して落ち着きを取り戻し、今度こそお店の料理を楽しむ方向に向かう事となるだろう。
■ロベリア > 一瞬、妙な挙動を見せるゼナ。
顔は赤いし声も裏返っていた。
……もしかして、さっきの意味深なセクハラめいた発言の意図に気づいた?
との疑念も浮かぶが、そんな機微があるのならこうも無防備に誘惑してこないだろう。
とはいえ、気づかれないからといって少し調子に乗っていたところもないでもない。
あんまり露骨にすると、それこそ本当に勘ぐられるかもしれないしもう少し落ち着こう。
ただまあ、何も意識してないとしたらこの急に赤くなった顔の意味は不明なものとなるが。
「あ、あのっ、どうかされました?
変な虫でも飛んでました?」
邪念は一旦追い出そう。
今度こそ、純粋にゼナを気遣って彼女の耳元にそう囁きかける。
■ゼナ > ちらりと向けた視界の先、そこには予想通りの変わらぬ淑やかさを保った女店主の姿。エッチな邪念など欠片も含まぬ心配すら向けられて、いやらしい勘ぐりをしてしまった己の淫猥さに益々顔が赤くなる。
「い、いえっ、いやっ、そ、そういう事ではなくてですね……え、っとその…………」
林檎の如き色彩を見せる童顔が、逃げ道を探すかにあちこちに視線を飛ばす。幸いなのは、店の喧騒がゼナの不審すらもかき消して他人の注意を向けさせずにいてくれる事だろう。
そんな中、ハッと何かに気付いた様に蒼目を開いた戦士娘は、若干の照れを残しながらも趣の変わった真面目な顔にて言葉を紡ぐ。
「だ、大事な事いい忘れてました! えっと、ロベリアさん。ついつい言いそびれちゃってたんですけど、ロベリアさんのお店、今はウェイトレスが足りていないって聞きました。わたしで良ければ働かせてもらおうって思ってるんですけど、まだ空きはありますか? わたしもメインは冒険者ですので、開いてる日だけのお手伝いって程度にしか働けないとは思いますし、それで良ければ……って話になりますけど……。」
真っ直ぐ向ける蒼瞳は、"仕事"の絡む真面目な物。
しかし、真摯ではあっても必死さはない。既にウェイトレスの口は埋まったと言われれば、今度は普通に客として彼女の店の料理を試しに行こうなんて風情。事実、今は生活に困窮しているわけでもないし、冒険者などというヤクザな商売をしているゼナである。急な仕事で迷惑を掛けることもあるだろうし、下手をすれば仕事に出た後それっきり帰って来ないなんてことすらありうるのだから。
それでも少し思うのだ。おっとりしていて淑やかで、どこか可愛らしい所もある彼女のお店で働くのは、今のお店で働くよりもきっと楽しい物になるだろう、と。
■ロベリア > 真剣な瞳を見返し、何を言うつもりなのかと耳を傾ける。
そこへ告げられた言葉に一瞬動きを止める。
「え?
はっ、はい、それはもう喜んでっ!」
むしろ親睦を深めてからこちらから切り出そうと思っていた事を、思いがけず先に言われて驚いた。
驚きはしたが、頭の片隅には置いてあった事なので言葉の意味を理解した瞬間即答。
最近トントン拍子で事が上手く運び、何か落とし穴が待ち受けているのではないかと心配になる程だ。
「副業扱いで全然構いませんよぉ。
人数が増えれば回しやすくなりますし、本当大助かりです」
根拠のない不安に怯えるより、今は幸運な出会いを喜んでおこう。
新しいメイドさんが増えると思えば自然と笑顔が出る。
「では詳しい話しはまた後ほどするとして、今はごはんを楽しみましょうか」
どうやって口説き落とすか思案する必要もなくなり、今この場においてロベリアのすべき事は単純に食事だけとなった。
そして話しの流れを変えられ、何を気にしていたのかも忘れあっさりとごまかされているのであった。
■ゼナ > 「―――わぁ! ありがとうございますっ! わたし、がんばって働きますね、ロベ……いえ、店長っ! 制服もまだ出来てないって聞きましたけど、前のお店の物がそのままいただける事になっていますので、しばらくはその服装で働かせてもらいますねっ!」
ゼナの方とてもっと緊張する面接とかがあると思っていたので、これほどスムーズに採用を決めてもらえて大喜び。先の妙な勘違いによる気恥ずかしさなど消えた様に、感激のまま彼女の白手を両手で握って笑顔を咲かせた。
雑然とした喧騒の中、その後もしばらく続く身を寄せ合っての語り合い。じわじわと位置を変えていく順番待ちが、ついに二人をカウンター席の端へと誘う。他の客を気にしなくても済む端の席を彼女に進め、ゼナはドワーフめいた太鼓腹の巨漢の隣にむちむちのお尻を降ろして着座する。
黒と白の冬毛もふさふさな狼犬は二人の座席の間に陣取って、ロベリアの太腿に両手を乗せて銀瞳を持ち上げる。野犬などとは桁外れの野生が滲む銀の双眸が『ねえ、まだかな? お肉はまだかな?』なんて期待の隠せぬ問いを女店主に向けている。
「もぅ、グリムったら甘えん坊なんだからっ。ロベリアさんに甘えたくなるのは分かるけど、もうちょっとだけ大人しくしてなさい。」
愛犬の巨躯に見合わぬ屈託の無さに微笑みながら、狭い額を数回撫でる。それに答えて女店主の太腿からやけにたくましい前脚を降ろした狼犬だが、ぱたぱた振られる尻尾の動きは止まらない。
そして雄々しく立った三角耳がピンッと跳ね、狭い通路をこちらに近付く女給へ鼻先を向けた。
『はい、お待ちっ!』
山と盛られた料理の数々を、曲芸めいて細腕のあちこちに乗せて運んできた女給が、ドンッ、ドンッ、ドンッ! と次々乗せる料理の大皿。
まず、ロベリアとゼナの間に置かれたのは、厚切り肉と青菜を茹でたと思しき料理である。何かのスープの出汁として、様々な野菜と共に身肉がホロリと崩れる程に煮込まれたそれが、みずみずしい緑の彩りも美しい青菜と共に、餡のとろみも濃厚な焦茶のソースを掛けられて鎮座している。
続いてそれぞれの眼前に置かれたのが、此度のメインとなる穀物料理。
王都周辺で食べられるパンの様に穀物を粉状にすり潰して使うのではなく、大麦よりも少し細いそれをそのまま炊いて使う変わった料理だ。そこに肉やら野菜やら魚介やら、客の好みに合わせてぶち込んで、鶏卵と共に高火力でざっと炒め、黒色のソースで味付けした"焼飯"と言われる物なのだとか。
ソースの黒に色付けられた大麦の様な穀物の合間合間に見えるのは、小指の先程の大きさのお肉と、輪切りにされたネギ、そしてほぐされた卵。
焼飯の中ではオーソドックスな取り合わせは、素朴にして精妙な基本の味わいを彼女に楽しんでもらおうという考えの元に選ばれた物である。
そうして最後、千切れんばかりに尻尾を振る狼犬の眼前にもたっぷりの肉が乗せられた大皿を置き、彼の頭部を数回撫でで女給は立ち去る。
■ロベリア > 「あははぁ、いいんですよ私って犬好きだから。
もふもふした生き物なら大体好きですけど」
単純に犬と呼ぶには大きすぎるグリムを撫で回し、和んだ様子を見せるロベリア。
妙な欲望に振り回されなければこれが自然体。
昨日今日と刺激の強い出来事が立て続けにあって少しおかしくなっていたが。
「あ、来ましたね。
なるほど、うちの店とは随分違いますねぇ……」
運ばれてきた料理は、まず見た目からして様式が違う。
数秒黙祷すると、早速一口食べてみる。
ソースのかかった料理は、しょっぱいや甘いという一言では表現できない複雑な味だ。
食感も面白い。
この味付けと食感で食べている最中に飽きが来ないようになっているのだろうか。
分析をやめて口に含めば、素直に美味しいと感じる。
次に、これが件の穀物料理か。
王都では珍しいタイプだが、他所の土地で過ごしていた時にはこういったものが主食の地域も少なくなかった。
とはいえ調理の仕方まではよく知らないのだが。
こちらは、印象としては濃い。
味だけではなく、油の影響であろうか。
少し重たいが、食が進む。
「これは中々……、面白い……。
……じゃなくてっ、美味しいです」
お店を始めてからの癖で、ついつい料理を分析しようとしてしまうが、ちゃんと素直に味わおう。
全くの初めてではないにせよ馴染みの薄い料理ではあるが、ゼナが勧めるだけはある。
顔を上げて、ゼナを向き笑いかけながら料理の感想を述べる。
■ゼナ > 吠え声一つ上げぬままに大皿に鼻先を突っ込んで、ソースで汚れる事など頓着せずに猛然と肉にかぶりつく愛犬の動きを足元に感じつつ、ゼナは空きっ腹に耐えてじっとロベリアに目を向ける。
心配などはしていない。余り食べ慣れない料理だろうけど、それでもきっとこの味わいは大人びた彼女の顔に生の感動を浮かべさせるはず。
エッチの悦びとは異なる、しかして同様に本能に紐付けられた幸福感が、彼女の美貌をどんな風に蕩けさせるのか。じっと彼女に向けられるゼナの顔は、ある種、彼女の痴態を視姦する変質者めいたものかも知れない。
まぁ、にまにま笑いはいやらしいかも知れないけれど、鼻息までは荒くしてないので乙女の体裁はちゃんと保てているはずである。
そして、食べ始めこそ怜悧な料理人めいた鋭い横顔が浮かぶものの、改めて彼女の顔に浮かび上がる生の感情。それがたまらず嬉しくて、ゼナもまた満面に笑みを浮かべて彼女に応える。
「ですよねっ、ですよねっ! あはっ、よかったです! ロベリアさんが気に入って下さって、わたしもとっても嬉しいですっ!❤」
こうなればもう後は遠慮など必要ない。
冒険者などという過酷な仕事に身を置きつつも、育ちの良さを感じさせる律儀な食前のお祈り。短い聖句のみの素朴なそれを手早く終えたゼナが、もう待ちきれないとばかりに木製のスプーンを片手に、もう一方の手は肉料理の皿の端に置かれていた長箸を器用に操り、分厚い肉とソースを絡めた青菜を焼飯の隅に乗せる。そして突き立てたスプーンで一口大にしたそれをパクリと食んで
「―――――んんぅぅうぅ~~~…っっ❤❤」
途端、蒼眼を細めて綻ぶ小麦の頬。余分な油は湯水に溶けて、重たげな見目に比べて意外にあっさり食べれてしまう肉料理。その肩透かしのあっさり感を補う餡かけソースの官能的なトロミが、凝縮された肉の旨味と共に舌に絡みつき、食欲に忠実な戦士娘の脳髄を蕩けさせる。
ぷるんと艷やかな唇からにゅぷりと引き出した木製スプーンが、次に狙った穀物料理は、山盛りの稜線をぱらりと解く。お肉と野菜と卵の旨味が、焦げたソースを纏う穀物の香ばしさと共に口いっぱいに広がる悦び。
続けて2杯3杯と木匙に乗せたそれを味わい、傍らにちょこんと置かれた琥珀色のスープを少し飲んで口直し。
そうして見る間に削られていく料理の山が、ついにはぺろりとソースの残滓を残すのみになれば、流石のゼナも腹八分目の幸せそうな満足顔を見せるだろう。
その頃には、グリムもまた鼻先を濡らすソースまでも綺麗に舐め取って、人間が食べたのよりも余程に綺麗にした大皿を女給に渡していた。
■ロベリア > 極端な大食いではないし我慢も利くが、ロベリアは決して食が細い訳ではない。
出された料理はどれも、ペースを落とす事なく平らげてしまった。
普段よりも重たい昼食になったが、昨晩と今朝で食べそこなっていたので帳尻は合う。
ゼナは宣言通り健啖家なようで、実においしそうに食べて見ていて気持ちがいい。
その割に食事の前に祈りを捧げるのは、少々イメージとずれる。
まあその辺りの話しもこれから出来るだろう。
食事を追えたロベリアは、再び黙祷。
これも王都では少し珍しいが、食事の文化や様式は人それぞれということだ。
「ふぅ……、満足満足……。
たまには外食もいいものですねぇ」
食事を終えてほっと一息、気の抜ける瞬間。
かなり食べると宣言していたゼナは、この後どうするのだろうか。
見ればグリムもきれいに平らげたところのようだが。
■ゼナ > 最初こそ、店の雰囲気に軽い戸惑いを見せていた女店主も、食べ終わる頃にはすっかり満足してくれていた様で一安心。彼女とほぼ同時に食べ終わったゼナもまた、サービスの冷水まできっちり飲んで立ち上がる。
「あ、最後のやつはお支払いの時にいただきますね。」
こちらの動きに気付いた女給に言葉を返し、他の女給に支払いを行う女店主の傍らで『最後のやつ』を受け取るゼナ。ロベリアが支払う事となる料金は、1食に使うにしては確かに結構重かったかなと思えるくらい―――具体的に言えは普通のディナーの5人前くらいのお値段。
薄暗い店内から出た一人と一匹は、お昼過ぎのまだ高い位置にある太陽の日差しに照らされる中
「はふぅ~❤ ロベリアさん、ごちそーさまでしたぁ❤」『わふぅ』
愛犬共々蕩けきった顔で女店主にお礼を告げる。
そしてゼナは、手に持っていた小さな何かを彼女に差し出す。
それは、薄切りの硬パンの様な物で作った小さな器の上、純白の氷菓子が乗せられた食後のデザート。
淡い甘みの上品なシェンヤンが原産となる果実の汁をミルクに溶いて作ったそれは、二人の腔内に残る料理の残滓を綺麗に消して、清涼な甘みだけを残してくれる事だろう。
ちなみにグリムは何故かこれが好きでは無いらしく、以前一口食べて以来見向きもしない。
「はい、これはわたしの奢りです。店長の今後の覚えを良くする賄賂ともいいます」
向ける蒼瞳はクソ真面目なれど、ぷるんとしたピンクの唇が描くのは悪戯っぽい笑み。そして小麦の手指が摘む茶色の小皿の上で丸まる雪菓子をちろり、ぺろりと桃色の舌で舐め溶かしていく。
冒険者としての仕事の無い時、一人で店を回すのが厳しいコアタイムを中心としてお店に入るお手伝い。これからは共に暮らす恋人同様、彼女ともちょくちょく顔を合わせる事になるだろうけど――――もう少し、もう少しだけ強く彼女と絡んでから別れたい。
そんな思いがちらりちらりと意味深な視線を彼女に向ける酒場への帰路。
皿代わりの薄菓子も含めたデザートを食べ終わる頃、二人の姿は彼女の経営する宿の前へと着く事だろう。
■ロベリア > 支払い金額は、二人とグリムの分も考慮したとしても一食としては結構な金額。
たしかに大食いのようだ。
とはいえ十分許容範囲だし、何より実りも多かった。
一人で店を片付けるより遥かに楽で楽しかったし、新しいウェイトレスも確保出来たとなれば安いものである。
「ふふふ、本当、美味しそうに食べるんですね。
いいものを見せて貰いました。
料理も美味しかったし、今日はありがとうございました」
お腹を満たし、懸念もいくらか片付いたロベリアは清々しい笑顔を見せる。
「あら、これは……」
予期せぬサプライズに、素直に驚いた顔を見せる。
デザートを受け取ると少しはしゃいだ様子で。
「わぁっ、かわいい♪
一人だと中々こういうの買う機会がないんですよねぇ」
濃い味付けの後に冷たく甘いお菓子というのは、なんとも贅沢に感じる。
ゼナに視線をやれば、なんというか、舌使いがなまめかしい。
さっき追い出したばかりの邪念がもう帰りたそうにしている。
「さてさて、賄賂も平らげてしまった事ですし、お仕事の話しもしないといけませんよね」
邪念の帰宅を拒みつつ、酒場まで戻ってきた二人。
ここを出発した時は散々いかがわしい目で見ていたのだが、今度は似たような種類の視線をゼナから感じる。
「とりあえず、カウンターの方へどうぞ。
お給料もですけど、制服の事とかこちらも相談したい事があるので……」
片付いた店内、店の鍵は開けてきたが昼食も休みだった事もあり今は来店者はいないようだ。
二人してカウンター席に腰掛け、向き合うことにする。
■ゼナ > 「あはっ♪ よかったです、ロベリアさん、こういうのもお好きなんですねっ」
大人びて見えても、こういう所は女の子なんだなぁ…なんて思いつつ、食事のお礼が思った以上に喜んでもらえた事に口元を綻ばせた。
そうして二人で氷菓子を舐めながらの帰路。
頭の中で思い描く、淫靡なお別れの挨拶。かなり無理のある言い訳を、しかし、エッチに優先順位を置くピンクの思考が肯定する。不自然な紅潮を頬に浮かべた戦士娘が何事かを言おうかと決意の視線を向けた所で、機先を制して告げられる店主からの言葉。
仕事の話と言われれば、ゼナとてエッチな欲望を優先させはしない。
「わっ、わかりましたっ!」
ともあれ、彼女との別れを今しばらく先延ばしに出来るというのはゼナの方とて望む所である。若干の緊張の中に上擦った雰囲気も滲ませた足取りが、女店主のお尻を追いかけ彼女の隣に腰を降ろした。
ビシッと伸ばした両腕は膝の上。
ショートパンツと長靴下が露出させるむちむちの太腿もぴたっと閉ざして緊張気味。常よりも眼力強めの蒼瞳が、ドキドキしながら彼女の言葉を待ち受ける。
■ロベリア > こうして向き合って見ていると、やはり健康的でありながら肉感的な体つきはどこも目に毒。
先程からのまとわりつくような視線も相まって、さっきから邪念が激しくドアをノックしているようだ。
「ええっと……、お給料の方は時間制として、基本は他の給仕と同じになりますね。
詳しくは後で書類を持ってきますので。
相談したいのは制服なんですけど、ウェイトレスはメイド服にしようと思っていまして……」
説明をしながら、やはり魅惑的な体を前にして平静さが乱れてくる。
外ではそれなりに我慢出来ていたが、ホームに戻ってきて気が緩んだのもいけない。
「それでですね……、どういうデザインがいいとか、ゼナさんの意向も聞いておきたいと思いまして……」
言いながら、ゼナの着替えをリアルに想像してしまっている。
素材を生かして足や肩を出してもいいが、あえて露出の少ないぴしっとした衣装にするというのも想像力を掻き立てていいかもしれない。
そんな風に、思考が段々と肉欲側へ流されていく。
おかえりなさい邪念。
「とりあえず、方向性が決まったら後で一緒に調達に行こうかなと思っていまして……」
まあ、殆ど仕事を口実にしたデート感覚なのだが。
こういう理由付けをしておけば、合法的に一緒に出かけられるという訳だ。
■ゼナ > 「なるほど、なるほど、はい、大丈夫ですっ。メイド服……ん、今のお店で使ってるのも、そっち系といえばそっち系かも……?」
制服に関する希望なんかはこれといって無いけれど、彼女としても未だ決まっていないデザインの参考にしようという目的などもあるのだろう。
その一助になるかは知れぬ物の、ひとまずゼナは今のお店で着用している制服のデザインを彼女に伝えることにする。
お尻を滑らせ、カウンター席から降りたゼナは
「ええとですね、基本的なイメージは一般的な物よりもちょっとフリルが目立つかなって感じのエプロンドレスで、肩の所はパフスリーブ? こう、ふんわり丸い感じで、それから襟がすっごい開いてます。」
言いながら両手の指先でセーターの膨らみをなぞって彼女に想起させるのは、たわわな乳肉上部を深々と刻み込まれた谷間も含めて大胆に見せつけるスクエアカット。
その襟のラインに沿って入れられるフリルは、実用性など考えられていない単なる装飾。
「後、エプロンはこんな感じのビスチェ? っていうのかな。おっぱいの下辺りから始まって、腰の後ろでリボンで結んで―――あ、それとスカートがすっごく短くて、そこはちょっとだけ恥ずかしかった、かも……。」
「もうこれくらいしかないんですよー?」とゼナが示す丈の長さは、今着用しているホットパンツよりは少々ましといった程度の扇情的なミニ丈。軽く身体を前傾させれば、それだけでゼナの豊尻を包むショーツがちらりと覗いてしまうだろう短さである。後は今穿いているのと同じくらいの長さの薄い黒タイツ。こちらも上端はフリル飾りが付けられて、コケティッシュな卑猥さを助長させる代物である。
そして、語尾を滲ませながらの店主の提案には、ゼナもパッと表情を輝かせるも、すぐにしょぼんと眉尻を下げ
「うぅ……わたしもロベリアさんと一緒に服を見に行きたいんですけど、冒険者のお仕事がいつ入るかちょっと分からないんですよね……それに合わせて予定を入れてもらって、その結果制服の完成が遅れたりなんてしたら申し訳なさすぎですし……。ですので、わたしは店長さんが決めてくださったなら、どんなデザインの物でも着ちゃいますし、その辺はおまかせしちゃいますっ!」
小さく握った拳を両脇に寄せてグッとすれば、動きに合わせてセーターの胸元もまたたゆゆんっと揺れる。『どんな物でも着る』という宣言は、それこそ邪念を復活させた女店主にあれこれ如何わしい妄想をさせてしまうかも知れないけれど、実際に彼女が選んだのだと言うならば、ゼナは相当に際どい物でさえ真っ赤な顔で着てみせるだろう。
無論、露出の少ないぴしっとした衣装であれば大歓迎。まぁ、そういった衣装でも、ゼナの駄肉が纏った途端、おかしなフェチシズムを発揮したりするかも知れないのだけれど。
そうしてそんなタイミング傍らで大人しくしていた狼犬が『オンッ!』と吠え、理知的な銀瞳を主へと向けたなら、しばらくはキョトンとしていたゼナが少し遅れてハッとして
「―――そ、そうでしたっ! わたし、この後ギルドの方に呼ばれていたんですっ! え、えっと、とりあえず、お仕事は明日からでも出られますし、しばらくは前のお店で使っていた制服でよろしければそれでお手伝いしますのでっ!」
わたわたと慌ただしく立ち上がり、ぺこぺこと恐縮した様子で頭を下げ――――不自然な間で何やら後ろ髪引かれるかの表情でじぃ…と彼女の唇を見つめるのだけれど、流石にもう先程の企みは通用しなかろうと諦める。
「そ、それじゃあ、今日の所はこれでっ! え、えと、また近い内に寄らせていただきますしっ、お話はまたその時にでもっ!」
■ロベリア > 「な、なるほど。
まあデザインはそういうことでしたらおまかせ下さい」
いいなぁミニスカート。
デートに行けないのは残念だけど、本当に何でもと言うのなら着せてみたい。
だがそれは自前で持ってきてくれるのだし、こっちのメイド服は清楚にしてしまうと二度おいしいのでは。
それに、あんまり扇状的にしても粗暴な客も多いし店内の治安が心配。
どうせなら中を深めて二人きりの時にでもそういう際どい衣装になってもらうというのも……。
……邪念を迎え入れたロベリアは、思考の脱線も絶好調であった。
「はぁい、今日は色々とありがとうございました。
詳しい話しは、また落ち着いて出来る時で構いませんので」
突然グリムが吠え、ゼナが慌ただしく支度を始める。
それを微笑ましい気持ちで見守っていると、またあの視線。
気にはなるが、呼び止めるような暇もなさそう。
何にせよ、これからは顔を合わせる機会はいくらでもあるのだし今日のところは気持ちよく見送ろう。
「ふふふ、気をつけて行ってらっしゃいませー。
グリムもまたね。
今度はうちのごはん、ごちそうしてあげるから」
ゼナとグリム、双方に手を振り店から送り出す。
彼女らが立ち去れば、今度は夜の開店に向けての準備だ。
急げば多分間に合うだろう。
新しく出したエプロンを身につけ、厨房に入っていく。
正直、むらむらとした感覚はまだ残っているのだが体を動かせば紛れるはずだ。
「うーん、やっぱり制服は清楚にしてもらいましょうか……。
あんな体を仕事中に見せられたら……」
それはそれで眼福なのだが、仕事中にそれが続くのはちょっとした精神攻撃だ。
構想の方向性を考えながら、とにかく手を動かしていると雑念は徐々に消えていくのであった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からゼナさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からロベリアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 酒場通り」に黒須さんが現れました。
■黒須 > (一人暇そうにベンチに座りながら人通りを眺めて煙草を蒸かしていた。
騒ぐ家族に楽しむ恋人たち、急ぐ男性にのんびりする女性と様々な人達が歩き回っていた。)
(その中で一人、黒須はベンチで邪魔にならぬよう、一人で煙草を蒸かしていた)
■黒須 > (飽きがやって来たのか、口に咥えていた煙草を取り、握りつぶすと、灰を風に乗せて捨て立ち上がる。
ポケットに手を入れながらも背中を軽く丸め、邪魔にならなうよう道の端を歩きながら街並みを眺める。)
(多くのまだ空いていない酒場の数々の通り、その先を進めば土産や生活用品などの道具を変える場所に出る。
そこなら少しぐらい暇つぶしにできるだろうと思い、ただただ人波に紛れ込まずに歩き続ける)
ご案内:「王都マグメール 平民地区 酒場通り」から黒須さんが去りました。