2018/09/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にアグネーゼさんが現れました。
アグネーゼ > 平民地区の繁華街に在る場末の酒場。
薄暗い照明に店内は静かめの音楽が流れている落ち着いた店だ。
そこに歌姫として隅に歌わせてもらっており、今は全て歌い終えて客としてカウンターの隅に腰を落としている。
手元には、淡い青色をした酒が入った透明なグラスを持っている。
飲み口に唇を添えるとほんのりと薔薇の香りがする、女のお気に入りの酒だ。

「――――今日は……なんだか、歌い足りないわ…」

ぽつりと呟き落とした独白は、店に置かれたピアノが奏でる静かなBGMに紛れて消える程。
さりとて夜も深まった時間だから気付けば客は一人消え、また一人消え――
店内は今、数人の客が静かに酒を嗜んでいるくらいか。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にスピキオさんが現れました。
スピキオ > 女が暫く前、もし店内を見回す事があれば、カウンターの反対の隅で腕を組んで寝ている姿が見えただろう。
その男は随分と前から、店で寝こけていたが、店主が文句を言う事も無かった。
一杯で普通の客が三回は足を運べるだろう値段の酒を注文していたからだ。

「──なあ」

そんな、静かな店内。一部の客はこの時間を狙って訪れる、安らいだ時間。
いつの間にか、先刻まで自分の席で寝ていた男が、女の横に立っている。
身長差も有り、座っている相手を見下ろす形になるが、すぐに背中を丸め、肘をカウンターの上につく。
初対面の相手に話しかけるにしては不遜な程に堂々とした態度。
しかし悪びれる事もなく、男は大体視線の位置が同じ高さになった相手をじっと見詰める。
人によっては睨んでいる様にも見えそうだが、それが普通の目付き。つまり目付きが悪い。

「アンタ、ちょくちょく見た事がある顔だな。あー、別に悪いって言ってるワケじゃねえよ」

顔の前で手の平を、風を払うように振り。

「この酒場の歌姫か? なんか、寝てる間に途中で眼が覚めて、その時壇上で歌ってた記憶があるんだが」

アグネーゼ > これだけ静かであれば、客同士で囁かれるひそひそ声でさえ女の耳に届くほどだけれど
こういう時は耳を欹てないのがマナーと言うもの。
明日は何を歌おう、そしてどうやって時間を潰そう、と取り止めのない思考によってぼんやりしていたため
不意に話しかけられる声に思わずびくりと女の肩が跳ねてしまった。

「は……はい?わたくし…でしょうか?」

職業柄、声を掛けられる事は多い。
直ぐに客に向ける柔和な微笑みで貌を上げると、確か反対側の隅で寝ていた筈の男性客がいつの間にか己の隣に居て。
此方を見下ろす鋭い目つきに若干怖気づいたものの、直ぐに背を丸めて己と目線の高さが同じになったことで
自然と肩の力が抜ける。それでも、彼の目つきは然程変わらず鋭い儘だが。

「嗚呼―――はい、歌姫で合っております。
 不定期ですが、時折此処で歌わせてもらっているんです。
 ……わたくしの事は、アグネーゼと」

ひとところに留まらず、他の酒場やパーティーの場などでも女を見かける事はあるだろう。
それ故に生憎と、ちょくちょく見た事があると言われたところで女が彼を見かけた事があるかどうか―――
正直言って、そんな記憶は無い。こうして話し掛けられて初めて、女は他者に関心を持つ。
然し名乗りを上げたとは言え、其れがどうかしたのかとばかり女は緩く小首を傾げて。

スピキオ > そうだよ、と云う塩梅に相槌を打つ。
先ほどまで寝ていたのは狸寝入りでもないのだろう、眼がしんどそうに眉間を軽く揉んでいる。
店主に水、と端的な声をかけ、グラスを受け取る。

「そうか。合ってたか。夢かどうかまず確かめておきたくてな……」

特に理由も無く、時間潰しに酒を飲んでいたせいで、思わず居眠りしてしまった。
ながら酒は深酒になりやすい。水を一気に呷り、グラスを彼女の隣の席の前に置く。

「あー。アグネーゼ? 俺は、スピキオ。何てこたねえ……傭兵だ」

で、だ。と、首を傾げる相手に、

「別にもったいぶってる訳じゃねえが、ちょくちょく見かけたのはココだけじゃなかった気がすんだよな。
 ココだけだったら歌姫だって知ってそうなもんだ。だろ?
 で、どこで見たかって……は、まあいい。そういうのは置いとこう。
 俺の商売仲間が、確か見かけたお前さんの事を娼婦って言ってたんだが。それはほんとか?」

そんな事を気にする人間もいれば気にしない人間もいるが、ちゃちな嫌がらせは嫌いだった。
嫌がらせじみた真似も。なので、そうでない事を示すために声を二段階は小さくしている。 

アグネーゼ > どうやらつい先ほどまで本当に眠っていたらしく、寝起き特有の彼のその眼の、
海の底色のような深い青に――その色を好む女は思わずその目をじっと見つめた。
と言っても、男が店主から受け取った水を一気飲みし、グラスを置く頃にはそんな不躾は自粛している。
綺麗な目の色ですね、なんて―――男が女に褒めるような事、羞恥心の強い女が言えるわけがない。

「―――スピキオ……様。今日は、お仕事だったんですか?」

ならば今しがたまで眠っていたというのも頷けるが、特に疲れている様子でもなさそうだ。
傭兵とはまた、己とは無縁そうな男が何故己に声を掛けたのか、甚だ疑問ではあったが―――
思ってもみなかった質問に柔和を象っていた女が、ここで初めて動揺を見せた。

「……っ!―――あ、あの、それは……」

気を遣ってもらったらしい、娼婦かと問うその声は抑えられていたものの、
前述の通りこんな静かな場所では、ひそひそ声さえ他の客の耳に届いてしまう程。
わたわたと慌しく周囲に聞かれていないか確かめる女の方が逆に目立つ。
貌を真っ赤にした女は身を縮こまらせると、そぅと自ら彼の方へと身を寄せる。
他の誰にも聞かれたくないが故の、内緒話。
それでも傍目には、女の方から積極的に身を寄せているようにしか見えないかもしれないが。

「――――ぁ、の……。………人違…い、では…?
 わたくし、歌姫であって……娼婦だなんて―――その…」

それは本当か、と言われれば本当なのだが、直ぐには―――肯定できなかった。
何せ、歌姫を名乗ることはあっても、娼婦だと自ら謳った事はない。
殆どがなし崩しの行きずりのようなもので、いつの間にか己を抱いた事のある男たちの間で囁かれた噂に過ぎないのだ。
金を積まれ、情熱的に口説かれれば誰だって悪い気はしない、そんな程度の、重ねた過ちが生んだ噂話。

スピキオ > 「いんや、仕事上がりの一杯何て優雅なもんでもねえんだなコレが。
傭兵ってのはハイと手を上げりゃ仕事にあり付ける訳じゃねえ。ここ暫く、なあんもしてねえよ。
ま、貯めた金を使う時間もねえじゃ詰まらんから、バカンスシーズンってヤツだ。遅れてやって来た」
 
そうでもなければ、酒場で暢気に寝こけたりはしないと云うものだ。
傭兵の体とは中々良くできたもので、一度オフと決めたらスイッチが切り替わり、アルコールも良く効く。
バカンスと来たら酒、つきものと言えば女もそう。ならば、一人で飲んでいる良い女に声をかけない訳もなく。
何だなんだという目で、彼女の反応を眺めている。
かなり動揺しているようだ。少しは気をつかったつもりだが、まさかそこまで秘密にしておきたい話だったか。
あまり他人の心情をくみ取るのは得意ではないというか、放棄気味の男には判断がつかない。
しかし、身を寄せられると、内緒話の合図だという事は読み取れたが……
とりあえず、肩に腕を回し。片腕はカウンターに肘をついて投げ出すような形。

「アンタ、そりゃ……無理だろ。いや、筋が通ってねえって意味ですらねえが……」

呆れたという素振りではなく、嘘の下手さに驚いている感じだ。
実際、娼婦と名乗って、仕事してきっちりやっているのではない、のかも知れない。
だが、男の勘は間違いなくそれらしい事はしている、と告げていた。多くの男の勘は同じ事を告げるだろうが。

「あー、回りくどかったか? 要するにここまでの話は、アンタを抱きたいって事なんだがな」

その姿勢になっているのを良い事に、耳元に口を寄せ。カウンターに乗せていた手で、彼女のどちらかの手を取る。

アグネーゼ > 「――――まぁ。傭兵とは、斯くも不安定なお仕事なのですね……わたくしと、一緒」

金になる依頼はなくとも、日々鍛錬を積んでいるようなイメージを持っていたために
その認識を改めなければ、とくすくす微笑っていられたのも此処までの話。
咄嗟の嘘は、即座に見抜かれてしまう程に女は己を偽る事が下手糞で
少なくとも歌う場所以外で見られた記憶があると言う男を前に、女は否定することを直ぐに止めた。
だからと言ってそれらしく振舞う素振りはない。女は恥じるように赤らんだ儘、
困ります、と眉尻を下げて男を見上げる。

「わたくし、娼婦、と言う程ではなくて……その…。
 スピキオ様の仰る商売仲間と言う方が、どのような御仁かはお教え頂いてもきっと、
 記憶に無いくらい………ほぼ行きずりのような、ものです。
 わたくしが身を売るのはあくまでこの声、この歌のみ。…それ以外、は―――…」

それは、完全な拒絶ではなかった。
耳元に男の吐息が触れそうな程に近く、女のほっそりとした手を取られてストレートに誘われて。
―――心が容易く揺らぐのは屹度、其の吸い込まれるような青い眸と、飲んでいた酒の所為だ。
こんな風に誘われることは儘ある。特に、一頻り歌を歌った後は。
航海者を美しい歌声で惹きつけるセイレーンの末裔。
魅了効果を持つ混血の歌姫。
歌い足りない―――啼き足りない。
本能と理性が鬩ぎ合う露草色の眸が、彼と目を合わせられなくて俯き加減に瞼を半分伏せては、
それでも彼に取られた手を振り解けずに、指先を擦り合わせるようにして彼の手を、擽り。

スピキオ > 「いやあ、別に商売女が良かったとかそっちの方が抱きでが有るだなんて思ってねえよ?
 恥じらいがあって斯くあるべし、ってタイプでもねえな。でも、恥じらいがある女は、それはそれで好きだ」

耳元で囁いていたくらいだから、こちらを見上げる顔に対しては相当に近い位置となる顔、
そこににやにやっとした笑みを浮かばせ。

「とは言うが……アンタの素振りを見てると、何て言うか高級娼婦の類と思い込むのも無理ねんだよなあ」

いや、別に娼婦じゃないって言葉を嘘扱いするつもりはねえよ? と付け加えて。
高級娼婦であればあるほど、優雅に、自分が娼婦などではないというように振る舞うものだ。
その方が燃える男が多い、というのもあるのだろう。要するに演技力が高い。
とった手を緩やかに握り締め、緩め、握り締め──と繰り返しながら、

「ま、ま、兎も角。理解した。俺は娼婦ではなく、歌姫を誘う。そして抱くって訳だ」

触れあった手から彼女の心の機微を読み取った……本能のようなもので。
行きずりの相手に身を委ねてしまうのは、性分もあろうが、押しに弱いのもあるのだろう。
ならば押すのみ、と。瞼を伏せる彼女の顎を、肩を抱いていた方の手を引き戻し、指をかけ。
指の関節であご先を軽く持ち上げさせるようにする。真正面から瞳を覗き込み、

「娼婦じゃないから、金を卓に置くなんて真似はしねえよ。けど、まあ。
 お城のような宿に行こうや。嫌らしい所じゃなく、な──」

この界隈で一番高級な宿へと誘う。高級な食事や酒、それらが代金代わりだ。 

アグネーゼ > 「…わたくしの反応を見てただからかっている……というわけでは、なさそうですね―――」

高級娼婦がどのようなものかは女は知らない。
そうしてそんな高尚なものではないと苦笑すれど、男から見たら同じなのかと思うと、心境としては複雑だ。
ただ―――恥じらってしまうのは、男を誘う為の演技などではなく。
己の手を握り、緩めてを繰り返して遊ぶ彼の手を、一度きゅっと握り締めてはその温もりを確かめて。

「………スピキオ、様―――」

俯いて逃げる事を赦さないかのように、顎先を持ち上げられて真正面から覗き込まれる、深い深い海の底色。
尚も困ったように面差しは乗り気ではなかったが、元より女は強引に事を進められると断れない性分だ。
命に関わる事でなければ、大抵の出来事は諦めて受け入れる。
普段はここまで簡単には流されない。ただ今日は、色々と流される要素が多すぎた。

一度目を伏せ、次に瞼を開いた時には女の口元は微笑んでいた。
唇同士が触れ合うか否かのギリギリのところまで、貌を寄せては改めて真っ直ぐに、彼の眸を見上げ。

「…どうか、今宵の事はご内密に。
 間違っても、他の皆様にはお話しにならないで。
 そのたった一つ、お約束してくださるなら―――」

今日は貴方の腕の中でのみ啼きましょう、と甘く囁く様はどう見ても、客の扱いに慣れた娼婦の其であっただろう。
交わされる秘め事は、今後貌を合わせる上で女の記憶にも甘やかに残る事となる。
歌姫としての貌は鳴りを潜め、娼婦として一夜限りの約束を交わされたなら。
その後の二人の行方は何処へ向かうのか、この場で語る事はなく――――――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からスピキオさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からアグネーゼさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にイルフリーデさんが現れました。
イルフリーデ > 平民地区にある、とある至って普通の酒場。
職場―といっても自営業―の衣装のまま、一応護身用に東洋の太刀を所持し、カウンター席に腰掛ける女の姿。
ジョッキ3杯目のビールを飲みながら

「酒がうまいわねぇ。」

まだまだ余裕の表情で周囲を見渡しながらクイっと一杯。
大して仕事をしたわけでもないのに、仕事後の一服といった感じだ…。

イルフリーデ > 足を組みなおし、行儀悪く左手で頬杖をつきながら、3杯目をあける。
そして、ふと店主の方に視線を向けると

「すまん、オヤジ。赤ワインを頼む。」

イカツイ顔をした中年くらいの店主にワインを注文する。
少しの間、他の客の様子を遠目に観察しながら待っていれば、ジョッキが下げられ、ワイングラスが出てくる。

「ん、どうも。」

と、愛想笑いのひとつ…小さく浮かべて礼を述べれば、ワイングラスを手に取り、香りを嗅いでから一口。

「ふむ…いいねぇ…。」

時間もそろそろ夜が深まりつつあり、一人、また一人と帰り始める客が出てくる。
それを他所にのんびりと、暢気に飲む様子は、ある意味、店主にとって迷惑な客かもしれないけれど―。

イルフリーデ > ワインをちびちびと味わいながら飲み―グラスをあけると

「さぁて、そろそろ帰ろうかね。あー、幾らだっけ?」

夜も更けてきたことだし、今夜はこれくらいにして家でくつろぐか。
と、ほろ酔気分。

店主から告げられる代金を用意し、カウンターに置くと、席から立ち上がり、

「ご馳走様。」

と、一言告げて。
得物を手に、しっかりした足取りで店を出て行き――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からイルフリーデさんが去りました。