2018/08/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエンデさんが現れました。
エンデ > 深夜。概ね寝静まった者が多い平民地区の川辺を歩く姿が在った。
まるで夜の景色に溶け込むような黒い姿。
仮面に刻まれた十字の赤だけがぼんやりと宵闇に存在を映す。
手には古びたトランクケースを持っているが、往診の帰りではない。
ただの、深夜の散歩のようなものだ。

「ああ、佳い夜だね――」

夏の終わりを告げ始める風が川辺を撫でて過ぎる。
それに乗せた声が僅かに響いた。
静かで、落ち着いた独り言。
どこか柔らかく、まるで川のせせらぎのように奏で流れ落ちる声。

エンデ > そのまま、川のせせらぎをなぞるような足音
それはゆっくりとそのまま遠く、遠くなっていって――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からエンデさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にティエンファさんが現れました。
ティエンファ > ぬるい風が湿った倉庫の外壁を撫ぜていく。
そこは、平民街の隅にある、商家の倉庫が並ぶ倉庫街。
時折夜馬車が行きかう以外に人影はなく、扉に錠を下ろした倉庫は蹲った巨人ように月夜に影を落としている。

「全部の倉庫の外観が似たような作りなのは、盗人が狙った店の倉庫がどれか分からないようにする為、と聞いたが…
 確かに、こうやってじっと見てると、どれがどれだかわからなくなるな」

そんな倉庫街の片隅で、独り言を呟いたのは、異国の青年であった。
人影の無いその場所はある倉庫の扉の前。 閉ざされた扉の脇にランタンをかけて、構えをとる姿。

ティエンファ > そこから、一歩。 跳躍の音も無く高く跳ねれば、半月を描く脚蹴り。
丈の長い上衣と長い髪が、身体の回転を追って尾を引く。
地面に爪先がつけば、そのまま地面に沈み込む様に上半身を屈め、両手を地面に。
そこから、その手をコマの軸として逆立ちの姿勢。 回転の勢いは殺さずに、身軽な回し蹴り。
一蹴り、二蹴り、三蹴り目に天を蹴りあげれば、同時に腕に力を籠め宙がえり。

「ほ、っと …だが、やまれぬ時にはこうして護衛も立てる、か
 盗賊ってのは勤勉だよ、俺だったらどれがどの店の倉庫かなんて探そうと思った時点で諦めるぜ」

一晩の倉庫番。 暇を持て余した用心棒の手慰み。
人目も無く人影も少ないこの場所であれば、存分に手足を伸ばして鍛錬が出来る。
独り言を呟きながら、蹴りを、拳を放つ動きは滑らかで、素早い。

ティエンファ > 少年から青年へと羽化する年頃の異国人、黒く長い髪に、墨染めの帝国服。
開襟から覗く胸元や肩口には、色鮮やかな刺青が覗く。
一目で堅気ではないと分かる風貌の男がそんな風に拳を振るっていれば、街中ならすぐに自警団や騎士が飛んで来ようものだが…。

「だが、お蔭で俺はこんな広い場所を独り占めして鍛錬が出来る
 怪しい異国人が変な動きをしてる、とか通報されないで済むのは有り難いぜェ…マジで」

経験があるのだろう、そんな事をしみじみと呟いて頷く。
そして、すっと腰を落とせば、肩幅足の右半身、前に出した足を爪先立ちにした、後屈の構え。
ゆるりと両手を前に差し出した姿勢には無駄な力はなく、リラックスした様子。
ゆっくりと鼻から吸う、黴を据えた様な倉庫街の匂い。
それをまたゆっくりと口から細く吐きだす。 それを繰り返し…。

ティエンファ > するり、と一歩踏み出した。 緩く体が前に滑る。 次の瞬間であった。

「!」

どしん、と建物の屋上から土の詰まった袋を落としたかのような重い音が響く。
青年が踏み出した足の音、それに遅れ、拳。 先程までの柔らかく流れるような動きとは違う、重く鋭い一撃。
緩と急、柔と剛を織り交ぜた動きから放たれる動きは、一つ一つが全力。

強く足を踏み出す度に、薄く積もった土埃が舞う。
そこから得た力を、足首から膝腰、身体で練り上げて、拳に。

「ふ、ぅっ」

だしん、たん、どしん。 ゆるり、たん、だしん。
王国にはあまり伝わっていない、帝国式の武芸の動き。
これも、あまり人前では鍛錬できない類の技。

ティエンファ > 石畳が揺れる様な踏み込みの音。 大柄とは言えない青年だが、その一撃は重く。
拳、足刀、肘。 突き、払い、打ち。 年若い青年だが、無駄なく研ぎ澄ました動きは、用心棒で名を売るだけの積み重ねがあった。
…暫しの鍛錬、思いっきり突き出した手を引けば、ゆっくりと息を吐き出して構えを解く。
汗を腕で拭えば、軽く首を鳴らす。

「少し休んだら、今度は基礎歩でもやるかね 最近体捌きをサボってたからなあ
 …いや、やって無い訳じゃあないけども」

なんとなく言い訳をしつつ、壁沿いに置いた荷物から水筒を取り出し、茶を呷った。

ティエンファ > 濡れた唇を親指で拭えば、水筒を荷物の上に放った。
上衣の合わせを緩めれば、それを脱ぎ払う。
月夜の倉庫街、肌に踊る青龍と牡丹の刺青。
上着を放ってまた構える青年。

「…さて、」

そしてまた、打、払、突、それはきっと、夜半の交代が来るまで、飽きもせずに。

ティエンファ > …翌日商家に呼び出され、踏み割った石畳の修理費を報酬から減らされたなんて、そんな後日談。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からティエンファさんが去りました。