2017/08/27 のログ
■イグナス > とはいえ、いつまでも迷ってもいられまい。
適当に見つけた飯屋で、今日の空腹を満たしてく――
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/道具店」にトゥーラさんが現れました。
■トゥーラ > 昼の時間帯の平民地区の一角。
商店が並ぶ通りから一つ脇に避けるように伸びる路地にある小さな店。
こじんまりとした店内で色々な商品の並ぶ棚の奥にある受付で静かに店番を行う。
普段から客足の少ない店は今日に限っては全くのなし。
朝から暇を持て余しカウンターに肘をついて扉を眺める。
■トゥーラ > そのまま客もなく午後の時間が過ぎていく……。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/道具店」からトゥーラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/露店」にリュシーさんが現れました。
■リュシー > (真っ当な稼ぎ方をしている者なら、普通に店を構えている筈。
ゆえ、己が居るこの通りに露店を出している人たちは、多分、
そうではない人たち、なのだろうと思う。
けれどだからこそ、己にも近づけるというもの。
明らかにお金のかかっていない、というより、サイズの合っていない服、
そしてどことなくおどおどと、挙動不審な立ち居振る舞い。
極めつけは首に嵌まった、頑丈そうな黒革の首輪である。
いま、己は錠前やら怪しげな革製品やらを並べた店の前でしゃがんで、
置物のように無表情で大ぶりの鋏を研いでいる店主の顔を覗きこみながら)
……だから、あの、……これ、これね、やたら頑丈なんだよ。
普通の刃物じゃ切れなくて、だからその、……良いもの、ないかな。
その鋏、もしかして結構丈夫だったり……、
(しないかなぁ、なんて言いながら、首に嵌まった禍々しい黒をさらしてみせる。
ほんの数歩行った先に見える広場では、逃亡奴隷、とやらが仕置きを受ける、
おぞましい見世物が執り行われているにもかかわらず―――
学習能力がないのか、それとも、つとめて軽くあろうとしているのか。
いずれにしても、賢いやり口でないことだけは確かだった。)
ご案内:「王都マグメール 平民地区/露店」にシュカさんが現れました。
■シュカ > 昼間の平民地区でも、なかなか面白そうな見世物が、と広場まで顔を出したものの、
悪趣味というべきか、それともこの国ではそれが立派な見世物として成り立っているのか、
幾重にも人の輪が出来て、逃亡奴隷に対する性的であり、虐待にも近いショー紛いの仕置きが行われており、
少し遠巻きに見ていた赤毛の男は、くあり、と欠伸を一つ。
「みんな、暇だねぇ…」
卑猥な野次や罵声を飛ばす観客たちを眺めて一言。
興味が失せたというより、もともとなかったようで、頭をわしわし掻いてから、のんびりと歩を進めるのは立ち並ぶ露店の方。
新たな得物を得るために、あちこちの鍛冶屋を冷かしていたが、残念ながらそれに出会えていない。
無駄足だと解りながらも、のんびり歩を進めて、露店に並ぶ品々を眺めて。
なるほど、貧民地区よりは店の数は多い。これなら、と多少の期待も膨らむ。
さほど真剣に見ていたつもりはなかったが、店先にしゃがみこむ小さな人影にぶつかりそうになって、危うく足を止めた程度には、
様々な店に並ぶ品々に視線を馳せていたことにはなる。
「…―――と、悪い、ぶつかったか?」
ぶつかった感触はなかったが、一応そう声をかけて視線を落とし、その人影を見下ろす。
人影は店主と話をしていたし、その恰好も手伝って、誰か、ということは気付いていないようで。
■リュシー > (あまりこの辺りをぶらついていると、己が見世物にされそうでもある。
とはいえ、首輪などいつまでもくっつけていては、気ままにふらつくわけにもゆかず。
とにもかくにも、やたらめったら頑丈な首輪を壊したい一心で、
露店に救いを求めたのだが―――)
ふぎゃ、っ……!
(なにか、とても大きな影が背後に迫ったものだから、思わず両手で頭を抱え、
涙目になりながら背後を振り返った。
―――たっぷり一拍、沈黙の間。)
―――――しゅ、か?
(相手の名をくちびるに上らせるも、なぜだか発音が不明瞭である。
ぽかん、と潤んだ瞳を瞬かせて、本物?などと、か細く問い)
■シュカ > 「え。うそ、当たった?」
足元の小さな人影が、頭を抱える仕草をするものだから、やや驚いたように声を発してから、
咄嗟に手を差し伸べようと上体を屈めた。
「お?」
が、ちょうどこちらへと振り返ったその顔に見覚えが。
更に再び驚きの表情を浮かべてから、ちょうど差し出した手でその髪を撫ぜようとし。
「おう、リュシーじゃねぇか。こんなとこでナニやってン………どした?」
にこやかに声をかけたものの、僅かに逡巡するように間があって。
彼女に対する利発な印象があっただけに、その、己の名を呼ぶ声の不明瞭さと眼差しに、少し声の音が落ちる。
朱色の目が馳せて、少女の体躯を眺めたのち、ひとつ、目についたのは、首の、それ。
本物か、と耳に届いた言葉に、よいせ、と少女と視線を同じにすべくしゃがみ込むと、
「触ってみる?」
などと戯れめいた言葉を、同じく戯れめいた表情で掛けてはみたものの。
なんとなし、を装いつつ、少女の様子を伺うように僅かに瞳を細めて。
■リュシー > (断じて当たったわけではない、けれども、大柄な人影がそれだけで、
一瞬、己の身を竦ませたのも事実。
当たったか、という声には小さくかぶりを振ったものの、
両手は頭を庇った格好のまま、こちん、と固まっており。
―――ぽすり、頭を撫でる掌の大きさに一瞬震え、それから、
そのあたたかさにそっと息を吐き、身体の強張りを解いて)
…………うん、触る。
(ここで何をしているのか、という、至極真っ当な質問には答えぬまま、
目の前に屈みこんでくれた彼の顔へと、そっと白い手を伸ばす。
逃げずにいてくれるなら、小さな掌を彼の頬へ添わせ、する、とひと撫でして)
……ほっぺた、あったかいね。
(それを確かめたのに、まだ、どこかで確信が持てないよう。
躊躇う仕草で視線を泳がせながらも、もう一方の手も伸ばし、
屈んだ彼の膝上あたりへ捕まろうとして)
……本物、なら、いいかな。
あのさ、……えっと、あの……ね。
――――― シュカ、今、暇だったらで良いん、だけど。
ちょっとだけ、……一緒に、居てくれる、かな。
(ぼそぼそと歯切れの悪い口調で、お願いごと、をひとつ。
それから慌てたように、やや早口になって)
あの、あの、……お金、いま、持ち合わせないん、だけど。
大事に、とってある分があるから、……後で良ければ、あの、
ご飯、奢るぐらいはできるし、あの、……あの。
(しゅん、と俯いてしまったのは、なんだかとても、
彼に対して失礼なことを言っている気がしてきたからだ。)
■シュカ > 小さな子供を足蹴に、なんてのはさすがに寝覚めも悪い。
しかも、それが見知った人物ならなおさらである。
しゃがみ込んで、目線を同じにし、ぽんぽん、と頭を撫でながらも、以前との違和感に少しだけ言葉を選んでいるのか、
言葉を発するまで、少々間があった。
「ん。あぁ…。本物だろ。今のとこまだ、生きてますし?
にしても…相変わらず小っちゃいな、おじょーちゃんの手」
伸びてきた手が触れると、相変わらずな軽口をたたいて、その手を受け入れているが、こちらも飽きずに頭を撫ぜて。
更に伸びてきた手にあわせて、ゆると手を伸ばし、ごく自然に支えるようにその背に手を添える。
「おいおい、遠慮すんなよー、そんなことぐらい。俺とお前さんの仲でしょーが」
言い淀むから、何事かと一瞬表情を硬くしたほどだった。
金貸してとかだったらどーしよ、という心配は杞憂に終わり、何とも慎ましい願い事。
それに、慌てたようにとってつけた言葉に、ふは、と呼気を穿いて笑えば、
「解った。じゃあ、メシをおごってもらうのを、交換条件、てことにした方が、おじょーちゃんの気は楽か?」
そんな慎ましい願い事ぐらい、無償でも全く構わないのだが。
だが、ささやかな願い事をした対価を口にするし、そのあとで俯いてしまうから、
気を遣わせまいとするように、努めて明るい口調で言うと、
俺へのメシは高くつくぜー、などと重ねて戯れを。
何とも不器用ではあるが、精一杯気遣っている…つもり。
「どーする、近くの店でメシ食うか?それとも、ちょっと落ち着ける場所でも行くか?」
ぽん、とその頭を撫ぜて問いかける。
相変わらず広場は騒がしいし、冷やかしかと素っ気ない店主の目もあるから、首を傾げて相手を見遣り。
■リュシー > (ぽふん、ぽふん。
あやすような手つきで頭を撫でられるうち、一度は跳ねた鼓動が、
少しずつ落ち着いてくるのがわかる。
お返し、というのではないが、ぺたぺたと彼の頬を撫でまわしながら)
うん、……そうだね、なんだか……ほっと、した。
ていうか、シュカに比べたら、手だって足だってちっちゃくて当たり前だよ。
(そうでなければバランスが悪いでしょ、などと、そこでようやく、
ほんの少し口許を綻ばせる。
背中へ男の手が添えられると、頭で考えるより先、そろ、と上体を傾けて、
彼の懐へ潜りこんでしまおうとしつつ)
……だって、…遠慮、じゃないけどさ。
この前も結局、ものすごく散財させてるし……、
最初に会った時から、ぼく、シュカのお財布に打撃与えてばっかりだから。
だから、うん、……ご飯、奢らせてくれたほうが、……こういうこと、しやすくて良い。
(こういうこと、とはつまり、べったりとひっついて甘えることなのだが。
「買う気がねぇなら、店の前から退いてくんな」―――ドスの利いた声を浴びて、
はた、と今居る場所を思い出した。
小さく肩を震わせて、店主のほうは振り返りもせず、彼の肩口へ顔を寄せながら)
……お店、は、ちょっとまずいかなぁ、と思うんだ。
できればその前に、これ、外したいんだけど……。
(これ、と目顔で示すのは、勿論、しっかり首に嵌まっている首輪。
なんの変哲もないつくり、のようだが、とにかく、べらぼうに丈夫だった。)
シュカ、このへんで、どこか、知ってるところ、ある?
その、できれば、……あんまり、ひと目がないところの方が良いんだけど。
(そんなリクエストを提示しつつも、もぞもぞと彼の懐へ擦り寄っているのだから、
彼もとんだ甘ったれに取りつかれたものである。
何しろ己の背後では、強面の店主がじっとりと、こちらを睨みつけているのだし。)
■シュカ > 露店の店主にしてみれば、あんたたちぽんぽんもなでなでも他所でやってくれ、と言うところだろうが、
その辺は、赤毛の男にとっては気にも留めず、可愛い少女との戯れを継続中。
「お前さんこそ………―――いや、まぁ、そうだな、おじょーちゃんはちっこいからおじょーちゃんだし」
ほっとした、という相手の言葉に、に、と八重歯が覗く口許に笑みが浮かぶ。
うっかり、相手の状況に言及しそうになったが、そこは飲み込んで、
何事もなかったような顔をして、その小さな身体を抱き留める。
やはり、手も、足も、何もかも小さいな、と実感するに十分か感触。
「いやいや、オンナに散財するのも、男冥利に尽きるってやつ。
おじょーちゃんが気にすることはねぇけど…まぁ、じゃあ、ゴチソーになります」
頭を撫でていた手が背に回って、あやすようにぽんぽんと。
散財しても、大して気にしない。というか、どうにかすればいいだけの話なわけで。
とはいえ、気にするのが少女の優しさなのだろうから、それはありがたく受け止めて、
はぁ、可愛いなぁ、とにやけていたが、そこに掛かる店主の声。
「どーよ、オッサン。可愛いコとハグなんて、羨ましーだろー」
火に油を注ぐように、店主に一言。どや、みたいな顔をしてはいるが、言葉に従って腰を上げる。
当然、少女を支えるように背に回した手はそのまま。
「よし、そーだな、じゃあ、この先、俺が宿を取ってるとこがある。まー、とりあえずそこに行くか」
人目がないところで、落ち付けるなら、己の常宿が思い出されて、そう提案し。
擦り寄る姿に表情を綻ばせ、可愛いなぁ、と何度目かの感想を。
首輪、が如何なるモノか、彼女が置かれた状況がどのようなものか、もこの時ばかりはほっこりして失念気味。
確りその肩を抱き、じゃーな、オッサン、と勝者の笑みを残し、店の前を後にし、向かうはここから少し先の安宿へ。
■リュシー > (今、この時だけは心から、己が小柄であることに感謝したい気持ち。
ちっちゃい、を連呼されるのは少しばかり引っかかるものの、
すっぽり彼の懐へ入りこめるし、安全なところへ包まれた気がして、
なんとも心地良い、という、手前勝手な理屈ではあるが。
ぎゅう、と今や両手でしっかり彼に縋りつきながら、顔だけをもぞりとあげて視線を合わせ)
……だからさ、シュカ、忘れちゃってるのかなぁ。
ぼく、ホントは女の子じゃないんだ、って言ったよ?
オトコに散財させられてるとか考えると、とほほ、って思わない?
(そんな問いを発しながらも、きっと「思う」なんて言われたら、
思いきり傷ついた表情をするのだろうから厄介である。
ともあれ、己の台詞が耳に届いたのかどうか、店主は彼のドヤ顔に、
呆れた、と言わんばかりの溜め息で応じたのだが。
彼の懐へ擦り寄ったままで立ちあがり、ぺったりと傍らへ張りついて、
ぎゅっと彼のシャツの端っこを握り締めてしまうのも無意識のうちに。)
うん、……シュカ、ありがとう、ね。
首輪、取れたら、いくらだって美味しいもの、食べさせてあげるからね。
(それともお酒かな、などと続ける口調はいくらか軽やかで、寛いだふうでもある。
しかしそれも、彼にしがみついており、彼が肩を抱いてくれているから、で。
きっと、本当の意味でほっと息を吐くのは、彼が逗留しているという宿へ、着いてからのことになるかと。
それまではべったり、暑苦しくともひっつき虫でいたい。)
■シュカ > 肩を抱き、時折ぽんぽん、とその肩先を撫で叩きながら、共に歩みを進め、
耳に届く言葉に、んー、と相槌めいた吐息での返答をすると、
「忘れてないって。知ってる。それを解った上で、だ。
オトコに散財させられるのも、惚れた弱みってやつですかね」
とほほどころか、なんだかんだで嬉しそうな顔をしては、男前だろ、などと自画自賛な戯れを。
歩みを進めつつも、確りと肩を抱くのは、少女が厄介事に巻き込まれないためでもあったし、
のらりくらりな歩みと雰囲気ではあったが、平民地区とはいえ、それなりに周囲に気を配ることはしている様子。
「そーだなぁ、とりあえず酒かな。あとリュシーかな。あと、やっぱりリュシーかな。うん、絶対リュシーですね」
ありがとう、などと礼を言われると少々くすぐったいのか、つと視線を通りに投げる。
で、そのくすぐったさを誤魔化すように、いや、むしろダダ漏れの本心をくっつけた言葉で応え。
平民地区にしてはやや古めかしい安宿の周囲は、娼館も立ち並ぶようなさほど治安のいいところではなかった。
けれども、ちゃんと風雨は凌げるし、何しろお安い。
中へと入り、1階の一番奥の部屋。
廊下は薄暗く、灯りもないが、それでも陽光が差し込む今は十分であり、
部屋も、決して不衛生でもなく、それなりに整えられ、簡素であったが清潔そうなシーツが敷かれたベッドが1つあるだけ。
そもそも荷物など持ち合わせていない冒険者風情が泊まる宿だから、ベッドしかなかった。
「さて、と。ここなら何も心配しなくていーぜ。
とりあえず、宿のばーさんは金にはうるさいが、お前さんをどこかに突き出したりはしない。そいつは保証できる」
ぱたん、とドアが閉まると、ここが安全であることを伝えながら、そのままゆると相手の正面へと回って。
続きは何も言わず、ぎゅ、と掻き抱くようにその身体を抱いてしまおうと。
何を聞くにしろ、するにしろ…己にとって、最優先事項はそれであったから、その本能に従って、
やや強く、ともすれば痛い、苦しい、と言われるかもしれないほど強く抱きしめて。
■リュシー > (己からわざわざ持ち出した話題のくせに、彼の反応を窺う眼差しは、
らしくもなくおどおどと落ち着きなく。
しかし、―――惚れた弱味、などという言葉が飛び出したものだから、
まんまるく目を見開いて言葉を失くし―――次いで、みるみる頬を紅くして)
………ば、ばっかじゃ、ないの、っ……
騙されて、身ぐるみ剥がされても知らない、よっ!?
(上擦った声でばか、などと罵ったが、完全に照れ隠しというやつである。
それでも、彼のシャツを掴んだ手を離そうとはせず、時折きょろきょろと、
周囲を窺い見ては、ひた、と更に擦り寄ってゆき。
―――駄々洩れの本音なのか、気恥ずかしさを誤魔化すためなのか知らないが、
とりあえず聞いているほうが恥ずかしくなったので、シャツ越しの彼の脇腹を、
軽く抓ってみようとするひと幕も。
辿り着いた宿のあるあたりが、さほど治安の良いところでない、とは、
己にもわかったけれど、なんといっても彼が一緒である。
豪華な家具調度などなくても、安全である、ということだけで、
今の己には極上の棲み処と見え―――)
…あのおばあさん、ぱっと見ちょっと怖い顔してたけど、
――――― っ、………
(悪いひとじゃなさそうだよね、と、先刻、ちらと垣間見たその人について、
好意的な評を、殊更明るく口にしかけたのだが。
正面へ回りこんできた彼が、先刻までとはまるで違う、
戯れの色を排除した―――けれどそのぶん、彼がとても近く感じられる抱擁で、
己をしっかりと包みこんでくれた、から。
言葉は喉の奥で掻き消え、おずおずと伸びた両手を、彼の背にそっと添わせて。
彼の肩口へ、懐へ、ぎゅっと顔を埋めながら目を伏せて)
――――― シュ、カ。
シュカ、……シュカ、…………もっと、―――
(既に苦しいほどだけれど、痛くないわけじゃないけれど。
もっともっと強く、抱いて欲しい、とねだる声は、熱っぽく掠れて)
■シュカ > さて、どんな反応やら、と見下ろせば、真っ赤になって目を丸くしているから、にやっ、と人の悪い笑みが浮かび。
「え。やだ、リュシー、俺を身ぐるみ剥してナニする気?」
勿論、少女が身ぐるみ剥せるわけではないことは解っているが、冗談めかしながら、可愛いねえ、と微笑ましげにその様子を眺め。
さらりと告げた、惚れた弱み発言は、撤回もしないし、言い募ることもしないが、ぽんぽん、とその肩を撫でる手はそれなりに優しさがある。
が、さすがに抓られると、お前に惚れてる人間にナニするー、とあてつけめいた言葉を言ってみたりも。
「まー…宿代、踏み倒したら、多分地獄まで追いかけてくるけどな」
事実、追いかけられて、ギルドで無理やり仕事をさせられたのは遠くない最近のこと。
はは、と乾いた笑いを零しながらも、その殺伐とした日々の中で見つけたひとときの癒しを、ぎゅ、と抱き締めて。
小さくて、腕にすっぽり収まって…これ以上力を入れたら壊れてしまいそうな気さえする。
けれど、もっと、と強請られたら、否、強請られなくても、そうするつもり。
ほんの僅かな隙間もできないように、ひとときも離れないように、とでもするみたいにその身体を抱き締めながら、
身体を少し屈めてみれば、傍からすれば覆いかぶさるみたいな恰好。
そのまま、髪に唇を当ててから、
「で…誰かのモンになった、ってことか、これ」
唇は髪に触れさせたまま、ゆるとした、少しだけ、掠れた声で問うと、片手がするりと項側から首輪に触れる。
ずいぶんとしっかりとしたそれ。軽く指で触れただけでも、そうそう外れそうではなかった。
「俺が、そいつからお前を“買えば”、…俺のモンになんの?」
ふとした独占欲が首を擡げ、ぽつりとつぶやいたと同時に、やや乱暴に、今までは少し気遣うような素振りも見せたが、
組み伏すようにその小さな身体をベッドへと押し倒す。
その耳の傍に両手を突いて、見下ろす朱色の眸は、ただ静かに見つめていて。
少女がどう返答するのか。
その答えがどうであれ、荒々しく、激しくその小さな身体に、想いを刻んでいく。
時間が許すまでずっと、繋がり続けていた願望と、雄の本能に従って、その小さな身体を抱き続けて………。
■リュシー > ―――――ッ違う、ぼくじゃなくってぇ、っ…!
(一瞬、本当に引っぺがしてやろうかと思ったが、勿論、そんな狼藉を働ける筈もなく。
もっとも、狼藉を働けないあたりが、それこそ「惚れた弱味」なのかもしれないが、
あらためて口に出す勇気はなかった。
そして、たとえ惚れていたとしても、抓る程度のことはするのだった。)
……シュカ。
その台詞、リアリティがものすごい。
(まさかもう、追いかけられた後なのだろうか。
一瞬、本気で彼の生活が心配になりかけたけれど、きっと客観的に見れば、
己のほうがよほど、心配な生活をしているだろう。
―――――両腕をいっぱいに伸ばして、掌を大きくひらいて、彼の背にぎゅっと縋りつく。
爪先立ちになって、多少バランスが崩れても、彼の腕のなかならば。
耳許へ掛かる髪が柔らかな吐息に擽られ、あたたかいくちびるの感触を頭皮に感じる。
囁く声音が少し掠れているように聞こえたのは―――執着して欲しい、と願う、
強欲な己の錯覚だったかもしれないけれど。)
ぼく、は、ぼく、だよ……。
変わらない、よ、……変わり、たく、ない……、
――――― で、も、……
(首輪に触れる指先が肌を掠めて、チリ、と痛んだ気がしたのも、きっと錯覚だったはず。
けれど―――けれど。
突然の浮遊感、次の瞬間にはもう、己の背はベッドへ深く沈められており、
覆い被さる彼の眼差しが、驚くほど近くに。
顔の両脇へついた掌、双腕の間へ閉じこめられた格好で彼を見あげると、
くしゃり、泣き出す一歩手前のような顔になって。)
――――― なら、シュカの刀で、これ、切ってよ…。
それから、……それから、ぼくに……ねぇ、
シュカのものだ、って、しるし、頂戴……?
そしたら、………そ、したら、―――――
(そこから先は密やかな嗚咽に紛れて、はっきりした言葉にならなかった。
彼が首輪を、彼のたいせつな刀で断ち切ってくれるならつ―――否、
たとえ、そうしてくれなくとも。
彼が己を全身で求めてくれるのなら、己もまた全身で、彼が欲しい、と訴えよう。
細い四肢を絡ませ、身を捩って啜り泣きながら、
もっと深く繋がりたい、もっと熱く溶け合いたい、とねだって――――
泣き疲れた子供のように、彼の腕のなかへ身を丸め、意識を手放すのだろう、と。
両手はそれでもしっかりと、彼に縋りつくまま―――――。)
ご案内:「王都マグメール 平民地区/露店」からリュシーさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/露店」からシュカさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にティエンファさんが現れました。
■ティエンファ > 「はァー、やっぱ良いねェ! 用心棒の特権だぜ
仕事上がりにただ酒ただ飯ってね…勤労万歳」
泡立った麦酒を呷り、いかにも旨そうに息を吐く少年の姿。
朝からの祭りの用心棒の依頼を終えて、報酬である酒と食事にありついているのだ。
食い逃げされている所を助けた出店では、香辛料の良く効いた肉の炒め物を山盛り貰ってご満悦。
熱々のそれを口に運んで、グイっと冷えた麦酒で流し込めば、若いくせに年季の入った酒飲みの様な溜息。
■ティエンファ > その日は、街のある区画の商工会が主催する夏市がにぎわっていた。
老若男女、笑顔で行きかう様子は賑やかで。 勿論、その分不届き物も多いので、用心棒も必要なのだ。
朝から務めて数件の食い逃げ、スリや置き引きを捕まえて、今日の仕事は十二分に果たした少年は、
ギルドに提示されていた報酬である『夏市での無料飲酒飲食』を堪能する。
ギルドから渡された印章を見せれば、その払いは免除になると聞けば、
用心棒の依頼を良く受ける少年としては願ったり叶ったり。
「や、さっきはどうも! おじちゃんトコの煮込みが、仕事中から気になってたんだよ!
一皿頂戴、うん、辛味も効かせて…へへっ、ありがと!」
屋台に顔を出せば、異国の煮込みを出す店から一品貰って、
飲み干した麦酒のジョッキに、その国の酒を注いでもらえば、ほくほく顔でまた歩き出す。
■ティエンファ > 「この辺りの商工会は良いねェ、異国人でも懐深く受け入れてくれる
厳しい所だと、用心棒ですら種族出身地でえり好みするからなァ…ま、気持ちはわかるけど」
木の匙で赤味かかった煮込みの肉を口に運ぶ。
熱さにハフハフ息を漏らしてから、冷たい酒で口を冷やして、
その酒の甘い口当たりに目を細める。 辛味が酒の味を良く引き立てていた。
「あの店は出店じゃなくて、酒場の方も行ってみたいな、こりゃあ当たりだ
なんていう料理か聞きそびれちまったなァ…うまい…辛い…」
歩き食いを楽しみつつ、賑わう露店を冷かす。
こうして歩くだけでも十分楽しめるし、顔見知りになった露天商からも声がかかる。
その度に足を止め、売り物を抓ませてもらう。
愛想が良く明るい少年は、意外に顔が広い様だった。
■ティエンファ > 数杯重ねて、知り合いともすれ違って言葉を交わし、ほろ酔い気分で良い気持ちの所で、
不意に後ろから上がる悲鳴、そして、視界には人ごみをかき分けて走る人相の悪い男の姿。
ふむん、と鼻を鳴らすが、この時間に勤めている他の用心棒は、丁度別件で対応している様で。
「組織犯かね、用心棒を足止めして、その隙に、ってか…んー、コスいなァ」
溜息交じりに呑みかけた酒を飲み干して、串焼きの肉を口に運びながら、
盗人が駆けてくる目の前に、ふらりと進む少年の姿。
盗人は咄嗟にナイフを抜き払い、それを振り回しながら駆け抜けようとするけれど。
■ティエンファ > 一瞬だけ身をかわすように身体を傾けた少年、それをすり抜けて駆ける盗人。
ナイフに怯えた周囲の客が慌てて道の橋に寄った所で、男はそのままの勢いで崩れ落ち、地面に転がった。
突然の事に呆然としている客の中、倒れた盗人にのんびりとした足取りで少年が近づき、腕を掴んで片手で軽々と引き起こす。
完全に白目をむいた盗人の顎が、赤黒く腫れている。
「あー、ちょっとやり過ぎたか?」
右手を揺らして首を傾げる少年。
抜く手も見せ無い一撃で、駆け抜ける盗人の顎を殴って昏倒させたのだ。
それに遅れて駆け寄ってきた用心棒に、後はよろしく、と任せて、盗人の握る鞄を取り上げ、周囲に声。
「おーい、これの持ち主ってなァ誰だい!」
■ティエンファ > 周囲を振り返っても特に名乗り出る者もおらず、そんな様子にちょっと眉を上げる少年。
手の上でぽんぽんと鞄を跳ねさせて少し手持ちぶさたにして…、ちょっと首を傾げれば、
近づいてきた他の用心棒にそのかばんを放って渡す。
「名乗り出ないって事は、ちょいとこの鞄、きな臭いかもな
意外となんか後ろ暗い物の受け渡しだったとか 俺は勘弁だぜ、そっちで処理頼むわ
…うん? 俺も用心棒じゃないかって? 馬鹿言え! 俺はもう仕事上がり、のんびり酒を飲む気満々だっての!」
文句を言う用心棒に笑い混じりにそう言えば、ふらっとまた歩き出す。
その背中を変な物を見る様な目で眺めるほかの用心棒を気にしもせずに、
賑わう夜の夏市を歩く少年の姿。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にチェシャ=ベルベットさんが現れました。
■チェシャ=ベルベット > 夏市で賑わう人波の足元を避けるようにちょろちょろと黒い猫が歩いて行く。
なんでこんなに人通りが多いんだよ!などと心のなかで悪態をつきながら
なんとかぶつからないように人混みを避ける。
親に手を引かれた子供があー!ねこちゃんー!と黄色い声を上げるがそれも無視。
子供は苦手だ、自分を捕まえてもみくちゃにするから。
と、ふとその人混みの中に見知った背中を見つけると声を上げた。
「ティエ!」
見つけた瞬間ぱっと走って相手の前に回り込むとにゃあと一鳴き。
ティエンファの足首に頭をすり寄せた。
■ティエンファ > ぐるっと一回りしたので、そろそろ宿に戻ろうかと思い始めた頃、聞き知った声に振り返ったが、声の主は見当たらず。
しかし、足首に天鵞絨に似た感触がして目を瞬かせればそれを見下ろす。 黒い猫。
「チェシャ」
すぐに誰だかわかったから、頬を緩めて猫を抱き上げる。
腕の中に包んで納めるようにする抱き方は、チェシャと出会ってから覚えたもの。
その猫の喉を指で撫でながら歩き出す少年は、ちょっとだけ声を落とす。
「その姿でこんな人通りが多い所なんて、どうしたんだ? お使いー…じゃあ、ないよな?」
■チェシャ=ベルベット > ティエンファの腕に優しく抱き上げられれば嬉しそうにまた一鳴きして
喉をゴロゴロと鳴らす。
人混みの賑やかさに紛れてたぶん猫が喋っているなどとはわからないだろうが
こちらも声を潜めてにゃあにゃあとティエンファに話しかける。
「仕事の終わりで、帰ろうと思ってたから。この姿だと近道が使えるから便利なんだ。
でも今日なんか人通りが多くて……何かあったの? 普通の夜市じゃないよね?」
今日が夏市の日だったとは知らない様子。
人混みに辟易した様子ではぁとため息をつく。
だが、今はティエンファの腕の中だ。ここからなら安全に周りを観察できる。
■ティエンファ > 滑らかな毛並みの黒猫を撫で、手触りに目を細める。
動物好きの身としては、頬ずりの一つでもしたくなるけれど、人目があるので我慢しつつ、
問いかける言葉に目を瞬かせて、小さく吹き出す。
「町の事で、チェシャに知らないことがあるってのも意外だな
今日はこの区画の商工会の夏市なんだよ 夜遅くまでこんな感じ
俺は朝から個々の用心棒やっててさ、さっき終わってぶらついてて…」
黒猫の顔を撫でながらそんな事を話し、ひょいッと壁際の樽の上に身軽に飛び乗る。
人ごみの頭の上から見下ろす大通りの賑わい、夜闇を照らす屋台の列。
「酒も飯も食ったから帰ろうかなって思ってたけど、
チェシャと会うとは思わなかったぜ 偶然だな」
そう言って、腕の中の猫を見下ろせば、猫の鼻先に小さく唇を落とす。
動物好きなうえに、中身がチェシャだから、これ位はしたいのだ。
■チェシャ=ベルベット > 「夏市なんて今まで興味なかったから。
そっか、ティエも朝から仕事だったんだ、お疲れ様でした」
鼻先に口づけされれば嬉しそうにティエンファの頬へ頭をすり寄せペロペロと唇の周りを舐める。
と、ぴりりと舌に触る刺激にびっくりしてにゃあごと鳴いた。
「ティエ、辛いもの食べた? なんか味が残ってる。
うへぇ、僕辛いもの嫌い……」
ペッペッとつばを吐き出すように舌を出して情けない顔をする。
ティエンファの腕の中でぐるりと姿勢を直し、ぺしぺしと肉球で相手の頬を叩いた。
「もう帰っちゃうの? じゃあ連れて帰ってよ。
宿についたらサービスしてあげるからさ」
■ティエンファ > 「結構楽しいもんだぜ、市を冷かしてぶらつくの
用心棒や護衛ってのは、市井の情報も大事だしな」
趣味と実益、なんてそれっぽい事を言いつつ、唇を舐めた猫が顔をしかめるのを見れば目を瞬かせ。
それから、そうだ、と声を漏らして自分の唇を舐める。
「さっきあっちの屋台でトウガラシの利いた煮込みを喰ったわ
はは、猫の舌に熱い物と辛い物はご法度か ごめんごめん」
ぺえぺえと声を漏らす猫の喉をあやすように撫でて目を細め、酒でゆすぐか、なんて言い、
それから、頬を叩くピンク色のぷにぷにした感触を楽しみながら首を傾げる。
「仕事帰りなんだろ、ご主人を待たせて良いのか?
俺は良いけどさ、何だったら、部屋に泊まって行っても
…サービスなんて言うなよ、商売抜きさ」
掌で包むように猫の頬を撫でて優しく微笑む。
樽の上から飛び降り、自分の泊まる宿に脚を向ける。
■チェシャ=ベルベット > 「ふーん、ティエ、市が好きだもんね。
市井の情報かー。僕もちょっと気をつけようかなぁ」
でも唐辛子の利いた煮込みはいらない、と力強く宣言。
酒でゆすぐか、と聞かれればそれよりミルクがいいと無茶を言う。
主人のことに触れられるとちょっと寂しそうに微笑んで(猫だが)
「旦那様、今日はちょっと遠いところへお出かけになられているんだ。
だから仕事の報告はそれほど急いでない。
もちろん、ティエには商売抜きだよ。その上でサービスするって言ってるの」
にへへと笑い、ティエンファの手のひらで頬を揉まれれば猫の牙がにやにやと見える。
ティエンファの腕で彼の宿屋まで運ばれるのは実に楽で心地が良い。
「お風呂に入るならお背中流すし、ご飯食べさせてって言われたら
うやうやしく最後のデザートまで面倒見るし?
うーん僕って甲斐甲斐しい猫だよね。ティエは幸せものだなぁ」
なんて図々しいことをいけしゃあしゃあと言う。
■ティエンファ > 「玉石混交、要らない情報も多いけどな」
宣言には声を漏らして笑い、要求には了解、と声を返す。
宿の一回の酒場ならミルクは置いてそうだな、なんて話しつつも、
寂しそうな顔(猫だけど)を見て、ちょっと首を傾げる。
「じゃあ、今日は俺の猫だな」
そう言って甘やかすように柔らかい毛に包まれたお腹をわしわし撫でてくすぐる。
そして、自画自賛の様なチェシャの言葉には、考える間もなくあっさりと、
「ああ、チェシャが大好きでいてくれる幸せ者さ」
肯定し微笑む少年なのだ。
その分、俺も頑張ろうかな、とチェシャにだけ伝わる低い甘い声を囁いて、
腕の中の『可愛い猫』を抱いて宿に戻るのでした。
■チェシャ=ベルベット > さて、ティエンファの宿につけばもはや我が家のような居心地である。
彼の部屋に招かれればベッドに我が物顔で居座り、ミルクを要求し
ティエンファが酒場からミルクを持ってくればうまそうにそれを飲み干す。
それにも満足すればベッドで腹を出して寝転がっていたが
やがてくるりと身を翻すといつもの人の姿に戻る。(ただし全裸猫耳しっぽ付き)
ティエンファのベッドのシーツに包まってウトウトと仕掛けたところで
甘えるように彼に尋ねた。
「ねぇ、ティエって子供の頃どういう子だったの?
昔話してよ。ティエの子供の頃の話聞きたい」
■ティエンファ > ベッドの上で平皿からミルクを舐める猫の姿を横目に、汲みおいていた水で顔を軽く洗って汗を流し、
洗った水で布を示して軽く体を拭う。 素肌の上からシャツを羽織った姿でベッドに腰を下ろせば、猫が少年に変わる。
まどろむ様子を見れば、先程猫に向けていた者よりも深い笑みを浮かべ、その頭を優しく撫でる。
「うん? 子供の頃ー…って、今も言っちゃえばまだガキなんだけどな
子供の頃なァ…あんまり変わらんぜ、元気一杯でやんちゃな餓鬼で、よく親父殿にぶん殴られてた」
そう言って笑うけれど、少し視線を上げ、首を傾げれば、
「それよりも前は、覚えてないんだよな 気付いたら、親父殿と二人で山奥に住んでたから」
■チェシャ=ベルベット > 優しく頭を撫でられるのをうっとりと夢心地で受け入れる。
主人のものとは違う、ティエンファの大きな手のひらは触れられるととても温かい。
「ふーん、そんなものか。でもその親父殿? が居たからティエは寂しくなかったのかな。
じゃあその親父殿ってどういう人? かっこいい? 怖い?」
チェシャの想像の中のティエンファの親父殿、というのは
ティエンファと同じような容姿に、彼をもっと大人にしたような豪放磊落というようなイメージを持っている。
ティエンファがベッドに腰を下ろせば相手の背中にこてんと頭を載せて、
その背にかかる黒髪を手ぐしで梳いてやる。
■ティエンファ > 掌を使って撫で、手を返し、手の甲でチェシャの頬をくすぐる。
チェシャが出会った頃に見せてた冷たさは欠片も無い暖かな笑顔に、こちらもつられて笑う。
「ンだな、と言うか、親父殿が居なかったら俺はそもそも、山のどこかで死んでたよ
親父殿がどう言う人かって? んー…一言で言えば、食えない爺さんだよ
でも、すっごい格好良くて強い人さ …悪戯した時と稽古の時は、ちびるほど怖いけど」
容姿については、意外と若いように聞こえた。
同じ様に刺青を入れた姿で、短い髪に虎の様な目が特徴的な男。
友好関係も広いらしく、山奥にもかかわらず色々な人が訪ねて来ていた、と話す。
「来る人達が離す親父度の武勇伝が凄くってさ!
あんな人になりたいって思って鍛えて、今に至るって訳さ、俺の目標」
そうやって師であり養父である男の話をするときの表情は、まるで子供の様で。
■チェシャ=ベルベット > 「食えない爺さん……。んんん~でも若い……? なんか不思議な人だね。」
ふんふんとティエンファから親父殿の情報を得て何やら興味深く頷いている。
「ふふ、ティエにとってお師匠様みたいな人なんだね。
僕にとっての旦那様みたい。
いいなー一度会ってみたいな。いつかシェンヤン一緒に行こうね。ティエ」
などと出来るかどうかもわからない口約束を交わす。
子供のように自分のルーツに関わる人の話をするティエンファを眩しそうに眺め
少し寂しげに笑った。
「ね、僕の小さい頃の話も聞きたい? っていうか話してもいいかなって気分なんだ。
聞いてよ。ティエ……楽しくない話かもしれないけどさ」
ティエンファの黒髪を指で弄びながら視線を何処か宙の方へ向ける。
昔を懐かしんでいるというより、古いものを箪笥の奥底から引き出す億劫さがそこにはあった。
■ティエンファ > 「なんか、どう見ても親父殿より年上の爺さんが子供の頃鍛えられてー…とか言ってるから、
多分、なんかこう、年齢とかそう言うの超越してんじゃねえかと…」
首を捻りながら、まあ、そう言う人なのだと自分の中で飲み込んだ。
それから、寂しそうな目で見えない未来の約束をねだるチェシャに体重を預け、
「チェシャの事なら何でも知りたいさ
…チェシャが話して良い事なら、何でも
その内、チェシャが話したくない事でも、
全部全部飲み干しちまうかもしれないけど」
そう言ってから、チェシャの肩を抱き、ごろッと勢いよくベッドに寝転がる。
前を留めぬシャツから覗く胸板に、チェシャの頭を抱きとめて。
「全部、ちゃんと聞いてやるさ 安心しな」
■チェシャ=ベルベット > 「それこそ、前に聞いた仙人ってやつじゃないかなぁ。
ティエの親父さん……」
仙人の知識は本で読んだ程度だが、そんな人が実在することも不思議だと首を傾げ。
ティエンファが横になって自分を逞しい胸に抱きしめてくれたのならそこへ甘えるように頭を擦り付ける。
「奴隷だったんだ、僕。生まれた頃から」
ぽつぽつと語り始めるその表情はあえてティエンファには見せない。
「気づいたら奴隷だった、っていうかここよりもずっと遠い国で
今の旦那様とは違うクソみたいな女主人の元でずっと生きてた。
そいつがひどいやつでね、ある日同じ奴隷の女の子がヘマしたから
虐待して殺しちゃったんだ。
それがきっかけだったのかな。今はわからないけど
自分でもよくわからないけど、その主人のこと、許せなくなっちゃって」
そこでやっとちらりとティエンファの顔を見上げ、そっと告白するように告げる。
ギラギラと欲でもなく怒りでもなく、無表情な金緑の目が月の灯りに照らされて光った。
「僕、その女主人を殺して逃げ出したんだ」
■ティエンファ > 「かも知れん…むしろ化生の類なんじゃないかと思うぜ…」
そんな事を言いながら、胸にすり寄る少年の頭を撫で、
話を促すように肩を抱き、ぽんぽんと柔らかく叩く。
そして、話の切り出しから、ショッキングな単語が飛び出す。
けれどそれを聞きながらも少年の肩を撫でる手は止まらず、優しく。
うん、と小さく頷くような声を返し、話を促す。
「…この辺りの王族も、そう言う奴等が居るとは聞くけど…
そりゃあ、酷いな …うん、許せなくて…」
続いた言葉は、余りに無色透明な声で聞き逃しそうになるほどに、冷たく。
…撫でる手が止まって、そして、その後に見上げたチェシャの前髪を指ですくい、
見つめる硝子玉のような瞳を見つめ返し…眼を細める。
「後悔は?」
■チェシャ=ベルベット > とつとつと語り続ける口調も表情も、透明な眼差しであり
チェシャ自身は何も感じていないように一見見えた。
前髪をすくい上げられて、それすらにも気づいていないような透明な表情。
いつものツンとした澄ました表情でも、
ティエンファに見せる緩く柔らかい笑みでもなく
透き通った声音そのもの。
「後悔は、無いかな。
あそこで誰かがやらなきゃ、次に殺られていたのは僕かもしれないし
別の奴隷だったかもしれない。
僕は死にたくなかった。だからやった。
まぁ、それで逃げたのはいいんだけど、結局行き倒れて今の旦那様に拾われたってわけ。
それでこの話はおしまい。聞いてくれてありがと、ティエ」
そういってふっとため息をつくと、いつものリラックスした表情がさっと色づくように戻ってくる。
ぐりぐりとティエンファの胸に頭を寄せてぐずるように言った。
「……昔話って疲れるね。もう眠いから寝ちゃおう……。
ティエ、僕のことぎゅってして。朝まで離さないで」
そう言って相手にすがりつくように体をひっつけあい、ティエンファの背に腕を回す。
相変わらず表情は隠れたまま、何か堪えるように尻尾を揺らす。
■ティエンファ > なんて事は無い話のように語る無味無臭な声、整った顔立ちに表情が無くて、まるで人形の様だった。
話し終えて、自分の名を呼ぶのが自分を取り戻すスイッチであったかのように表情を緩めるチェシャを眺め、
表情を隠すようにすり寄って眠るとするその身体を、ゆっくりと、しっかりと両腕で抱きしめる。
「チェシャ、俺の殺しは、旅に出て二日目の盗賊が相手だった。
でも、そうじゃない、そうじゃあないよな 俺は、覚悟の上だったけど…」
チェシャは『そうしなければならなかった』のだ、と思う。
自分の身を護る為か、どうか、色々な感情が動いた上での行動だったのだろうと分かる。
こんな時にどんな言葉をかけてあげれば良いのか分からない、自分の人生経験に毒づきたくなるけれど。
…でも、思い浮かんだ言葉の全部が、今のチェシャに伝えたい言葉じゃなかったから、
だから、その細い身体を抱きしめたまま、髪に顔を埋めるようにして頬を寄せ、
「今、ここにチェシャが生きてる事が、俺は嬉しいよ
どんな事をしてきたチェシャでも、その上で、今ここにいるチェシャを、俺は今抱き締めてるから
…だから、大丈夫さ 俺が居る限り、チェシャは大丈夫」
ちょっと自信過剰かな、なんて付け加えて、チェシャの髪を撫でる。
■チェシャ=ベルベット > ティエンファの声にちらと胸元から顔を上げる。
その表情はどこか意外そうな、それでいて安堵した子供のような無垢さだった。
「ティエ」
そっと名前を呼んで相手の頬を両手で包む。
まっすぐ向かい合ったまま、相手の瞳を覗き込む。
「僕もティエに会えて良かった。それが嬉しい。
ありがと、ティエ。 こんな僕を好いていてくれて」
そう言ってちゅう、と相手の唇に吸い付いた。
おやすみのキスの代わりというべき軽いものだった。
再びもぞもぞとシーツの中に引っ込み、相手の体を力いっぱい抱きしめる。
受け入れてもらえたことで、もう不安はない、というような力の強さだった。
おやすみ、ティエ。と小さな声で告げるとしばらくすれば穏やかな寝息が聞こえてくるだろう。
それきりチェシャはこの夜、ティエンファと会話をしなかった。
■ティエンファ > しがみ付く様に抱き着く身体に腕を回し、子供をあやすようにその背を叩く。
腕の中の少年が安らかな眠りに落ちた後も、その身体は離さず、自分も眠りに落ちる。
きっと、チェシャが朝に目覚めても、その身体は逞しい腕の中にあるだろう。
陰惨な記憶なんて過去の物と言う様に、当たり前の朝を二人で過ごすのだ。
それが、今の自分が今のチェシャに出来る、一番のプレゼントだと思った。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からティエンファさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からチェシャ=ベルベットさんが去りました。