2017/08/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にサヨ・カシマさんが現れました。
■サヨ・カシマ > 貴族に囲われたからと言って毎日仕事があるわけでもない。
そもそも出来る仕事が限られている娘は時間を持て余しているとも言えた。
というわけで、ぼーっとしているのも何なので、いつものように広場で一芸を見せてお駄賃を得ている。
「……。」
それなりの人だかりの中心で、ぼーっと立っているひとりの異国の娘。
その傍らには『攻撃を当てたら金貨100枚。武器、魔法何でも有。参加料、5発/金貨1枚。』と書かれた看板が立てられている。
足元に置いた缶にはまだ金貨は一枚も入っていない。
それはつまり、すでに失敗しているのか、それとも始まった所なのかのどちらかだろう。
ざわめく観衆の中から一人の男が缶へと金貨を投げ込んだ。
新たな挑戦者の登場に観衆から歓声が上がる。
使い込まれた装備や垣間見える鍛え上げられた肉体から手練の冒険者であろうことは容易に伺えた。
獲物は槍――。
男は静かに構えると真正面から一突き。
目にも留まらぬそれはぼーっとした娘の顔の横を抜ける。
その美技に観客から大きな声援が上がる。
小手調べの一撃、対して一歩も動けなかった娘。
今度こそチャレンジ成功者が現れる、そう沸き立つ観客とは裏腹に男は尋常ではない汗を掻いていた。
続けて二撃、三撃……一撃にしか見えない二連突きは娘の顔を左右に抜けていく。
一体何が起こっているのか……それは一部の手練と当事者にしかわからないのだろう。
観客は大いに沸く。
そして………何も代わり映えもしないまま、5撃が終わった……。
湧いていた観客がぴたりと動きを止める。
手加減した?わざと外した?
否、男の苦渋に満ちた表情が本気の一撃であったことを告げる。
それがわかった瞬間――観客の中から地鳴りのような歓声が上がった。
何かわからない……が、何か凄いものを見た、と。
そんな歓声の中、変わらずぼーっとした娘は視線を周囲に巡らせた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にウィルバーさんが現れました。
■ウィルバー > 湧いた歓声の中から、黒いスーツの男が歩み寄ってくる。
誰であろう、彼女を囲っている男である。
「普段はこういうことしてるんだ。
強いね、小夜。」
雇用契約を結んだあの日から何度か接してはいても彼女の強さの片鱗を見る機会はなかった。
僕は改めて彼女の尋常ならざる動きを見せられたと同時に彼女を首尾よく雇えた幸運を改めて噛み締めることになった。
「ところで、もうしばらくこっちの仕事続ける?
小夜が良かったら僕の方の用事をやって欲しいのだけど。
勿論、手当はちゃんと付けるよ?」
悔しげな表情を浮かべている挑戦者の脇をすり抜け、彼女の耳元で話しかけようと。
そして、彼女が気を許せばふっと息を吹きかけることだろう。
要はそういう用事だと言うことを伝えていた。
「それとも、僕も挑戦した方がいいのかな? 魔法使っても良いんだよね?」
■サヨ・カシマ > ぼーっと次の挑戦者を待っていると人混みの中から現れたのは雇い主。
ぺこりと頭を下げると長い睫毛の奥から何を考えているのかよくわからないぼーっとした瞳で見つめる。
「………。」
仕事らしい。
「…………。」
耳に息がかかった。
「……………。」
何の仕事だろう?
「………………。」
選択肢はあるらしい。
「…………………。」
じゃあ、どうしよう…。
「……………………。」
…………。
「………………………。」
………あ、股を開くお仕事。
「…………………………。」
あ、お客さん待たせてる?
「…………………………。」
どうせ離れに帰るし。
「…………………………あとで。」
ぼーっとした娘は、たった3文字にたっぷりと時間を掛けて首を左右に振った。
股は後で開く、と。
■ウィルバー > 「随分とあっさり断るなあ。」
反応に時間がかかるのは良くも悪くも彼女の持ち味なのでそれ自体はなんとも思っていない。
ただ、さらりとおあずけを食らってしまったことに肩を落とす。
「なら、僕も客になろうじゃないの。 魔法でも何でも使って君に一撃加えたら
いいんだろ? 勝てたら今日の分は店じまいしてもらうよ?」
先程の挑戦者の彼の後とあって気軽に兆銭しようと言う物は直ぐには現れそうになかった。
それはそうだ、あの場で眺めていたほとんどの人は彼が金貨100枚を稼ぐだろうと思っていたのだから。
つまるところ、彼が無理ならば自分では…と普通は思ってしまうところである。
が、おあずけを食らって少々意地になっている僕は財布を取り出すと金貨を早速1枚投げ入れた。
一度腕前を見てみたかったのも事実である。
「本当に何を使ってもいいのかい?」
■サヨ・カシマ > 何やら残念そうな顔をする雇い主に不思議そうな表情を向ける。
あとでちゃんと股を開くと言っているのに何が残念なのだろう。
からんと缶が音を立てると先ほどと同じように頭を下げる。
そして、変わらずぼーっとしたまま構える様子もなく、ただ、じっとその場に佇み、問いかけには小さく頷く。
燃えるような赤い髪が風に揺れた。