2017/04/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にマリ・シーさんが現れました。
■マリ・シー > 平民地区の小さな通りにある小さな酒場。
今日はいつにも増して騒がしく、姦しい。
荒くれ者は酒を飲んで大声で笑い、客の目星をつけた遊女はいつもより過激な"営業"をかけている。
厨房では怒号にも似た応答が飛び交い、店内は騒然を通り越して戦場のようであった。
店の奥。静かな一角には身綺麗な少年が座っている。
猥雑な店内の雰囲気にはどうもそぐわないが、誰も少年の事を気にしては居ないようだ。
――いいやそもそも、誰も少年の存在には気づいていないのだ。
店の一角を静かに不法占拠しているのは何を隠そう魔法使いである。
すらりと伸びた脚を静かに組んで、にこにこと楽しそうに酒場を眺めている。
微笑む顔の横。女性的ですらある細くしなやかな指で、この店のどこをひっくり返しても出てきそうにない、色とりどりな金銀宝石細工に彩られたワイングラスを支えている。
■マリ・シー > ワイングラスの底にはほんの少し、一口に満ちるかといった程度の液体があった。
戯れにグラスを回せば、水面は僅かに虹色に煌めく。
人々が動く度呼応するように揺れるグラスの中身。
店の中の熱気が、少しずつワイングラスに雫を満たしていくようだった。
誰も注ぐはずのない中身が少しずつ少しずつ、増えているのである。
「――♪」
細く、しかし薄っすらと筋肉の乗った脚を組んで。
上機嫌に微かな鼻歌を漏らしながら人の動きを眺める。
■マリ・シー > 酒場の喧騒はいよいよもって狂乱の様相を呈する。
店主は叫び女給は走り回る。酔っぱらいは酔っぱらい同士何やら喚き散らし合う。
傭兵は飯を食い散らかし上機嫌すぎるほどに酒を飲んで飲んで飲みまくる。
店の隅ではインモラルな空気を纏って絡み合う男女の姿も見えた。
――しかしそれでも尚未だに暴力沙汰の一つもないのは、
いや、そもそも店内がこんなにも荒れ狂っているのはマリ・シーの魔法による仕業である。
人間の情動を呼び起こし、場に満ちる生命力や活気を掠め取って己の力とする。
随分とセコい行いだが、少年は特に気にもせず上機嫌にワイングラスを揺らしている。
やおら立ち上がり、するりするりと人波を避け他人のテーブルの上に乗った葡萄を一粒拝借する。
皮ごとぺろりと食べれば上機嫌のままに――猫のように忍びより女中の尻を触り逃げる。
マリ・シーの存在に気づけない女中は後ろに居た不幸な酔っぱらいを強かに打ち付け、目を回す酔っぱらいを見て少年は口元に手をやってくすくすと笑った。
■マリ・シー > どれだけ場が荒れようとも決して流血沙汰にはならなかった。
魔法使いには魔法使いのこだわりがあるらしい。
「暴力は暴力の味で分けるのさ。」
誰に聞かれるわけでもない呟きを漏らすが、誰もその声を拾う事はない。
酔っぱらいが肩を組んでデタラメに踊りだす。
少年は肩を組む集団に堂々と混ざってみせるが、魔法の素養の無い人間だらけであるこの空間では勿論誰も気づかない。
もっとも今の客の誰も彼もが、誰かがどこにいるかなんてとても気にできるような状態ではない。
狂乱し、飲み散らかす。平民の数少ない楽しみが燃え盛っていた。
店から出る人間の顔はどれもこれも、全力疾走を終えてきたような疲労感をベッタリとくっつけていた。
店の人間が入れ替わるたびに、ワイングラスには輝く色が注がれていく。
■マリ・シー > 品のない酒場の光を受けて尚きらきらと輝くワイングラスの中身。
人間の生命力、活力、そういったもののおこぼれ。
ワイングラスをランプの灯りに掲げながら、少年はきらきらとした瞳でゆっくりと増える中身を見つめていた。
――そうして店の人間が入れ替わり、それでも尚減る時間になった時、ようやく液体は
ワイングラスの中ほどを超える。
店内は疲労に満ちて、まるでひとつ戦争でもあったような有様だ。
手には輝く命入りのグラス。魔法使いはよしと一人頷いた。
少年は全く意に介する様子もなく人々には目もくれず、飲食代も払わずに酒場を後にする――
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からマリ・シーさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にマオルヴルフさんが現れました。
■マオルヴルフ > ――光の輝きは夜空より降り注ぐ月の光
ヒトの気配の存在しない寂れた公園の一つに今宵は人影がある。
降り注ぐ冷たい月光が浮かばせるのは随分と小柄なシルエット、こんな夜更けに一人で外を歩くようなそんな年齢には決して見えない少年一人。
それも少年は遊具で遊ぶでもなく、公園の中央に立つ時を刻む時計塔の上にしゃがみこんでおり、何かしている様子もなく、ただ座り込んだ姿勢のまま夜空を見上げていた。
その少年は竜族に属する中でも強大な力を持つ祖に近しい血筋の地竜。
彼一族はヒトの姿に擬態しても能力は衰える事無く、一族の者はメデューサともカトブレパス共とばれる事がある気性の大変荒い竜族であり地竜である。
が、何事にも例外は有りなのか、彼はその地竜の中でも新しく生まれた子竜であり、周囲から甘やかされて育った所為か牙が大変丸くなって成長していた。
しかし、竜族は竜族。
時計台から伸びる影はヒトになり、竜になり、どちらにも定まらぬ形になったりと非常に不安定で、少年の事を良く表していた。
「……クあぁ………くふぅ………。」
小さな何処か愛嬌のある欠伸を零し、目元を擦り、目元に浮かんだ生理的に生じた涙を拭う。
なんて事はない、少年は少年、年相応の聊か眠たげな表情を浮かべるくらいの人間であり、誰彼構わずケンカを売るような顔に見えぬ穏やか表情で笑みを浮べ、飽きもせず夜空を眺め続けている。
――もし、王都で上質な刃物を手に入れようとしていたら、よく人気のない公園で夜空を見上げる少年の噂を聞いているかもしれない。
黒髪が毛先に行くにつれて赤いグラデーションに染まる髪などあまりいないだろう、その髪色が特徴的で目印にもなっているから間違える事は少ないだろう。
■マオルヴルフ > ――じぃ、と動かぬその姿、少年の周囲だけ時が凍りついたような……。
勿論現実的に時が止まる等という事は有り得ず、少年は時を操る魔術師でもなく、一頻り気が済むまで夜空を見上げた後、時計台の先端部分でしゃがみからすくっと立ち上がると、今まで眺めていた月に向けて両腕を高く伸ばし、その月を掴むかのよいように両手をパッと広げる……。
「ンッ……くふぁ………欠伸は出るんだけど、眠気がこないねぇ?」
散々欠伸を零した口から紡がれたのは見た目相応の高い声色の緩い声。
銀縁の眼鏡の奥で再び涙が滲んだか、眼鏡のレンズに触れないように眼鏡の内側に指先を滑り込ませ、ごしごしと目元を擦って涙を拭い、それから伸びで解した身体を動かそうかと、時計台よりひょいと飛び降りて、ぶれる事無く器用に公園の地面へと着地して見せた。
どれもこれもが緩い動きの緩慢な動作、決して運動神経が良さそうに見えぬのんびりとした動きであった。
――地竜族とは言え、寝起きはこんなものである。
一度眠りに落ちるとその眠りは深く、起きたばかりでは非常に動作は鈍くなる。
流石に時計台の上で眠っていたわけでもないし、眠気が来ていた訳ではなく、寝起きの状態で公園の時計台の上でしゃがんでいただけだった。
自分でも寝起きのこの動作が緩慢になるのは何とかしたい弱点でもあって。
■マオルヴルフ > ――想像以上に働かない頭と身体
公園の地面に着地してからも数秒ほど着地したままの状態で固まり、やっと今身体に熱が正常に伝わり始め、関節やら何やらが滑らかに動くようになった気がした。
でも相変わらず零れる欠伸、それを噛み締めると一先ずやる事もないので、借りている宿のほうに帰る事にする。
「アー仕事残ってた。ナイフを一振りだったかな?冒険者に見えなかったし、騎士にも見えなかったし、道楽なら適当に見栄えがよい感じで打てばいいか……いいよね?」
基本的に仕事に手抜きはしなくても、例外には十分に手抜きをしてみせる。何故って冒険に出て刃物を刃物として使わなくても観賞用であれば脆く作ったところで問題ないと、そんなのは正直仕事じゃないと。
己が生み出すのは美術品ではなく武具だと、しかしそんなプライドではお腹が膨れないと言う事で承った仕事で正直引き受けたちょっと自分にも嫌になる。
着流しの袖から絹で出来た袋を取り出す。
中より高純度のルビーを指先で摘んで引き抜くと、それを口に放り込み、飴玉のように舌の上で転がして味わいながら、その嫌な仕事を終わらせに宿の方に歩いていくのだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からマオルヴルフさんが去りました。