2016/10/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に砕華さんが現れました。
■砕華 > (ようやく、タナール砦での王国軍壊滅のニュースの熱も、冷め始めてきた。
人々は、落ち着きを取り戻し始め、元の平穏な毎日を取り戻しつつあった。
一度王都を離れた、上流階級の人々もまた、徐々に王都へと戻りつつある。
その証拠に、冷たい風が吹き荒ぶ平民地区にも、活気が徐々に戻りつつあった。
その、平民地区の少し奥まった箇所。
大通りに面しているが、そこは商業区画の一番端、つまり入り口にも、出口にもなる場所。
その一角の建物に、真新しい、赤い看板が立てかけられていた。
『紅一朝 第一号店』と大きく、筆で書かれた看板を、扉の上部に掲げ、それを見つめるキモノ姿の女がいた。
いつものように、長刀を背負って、開いているのかいないのか、わからないようなほどの細目。
ただ、いつものように露天で薬を売っていた砕華が、此処に炒るのは訳があった。
この、紅一朝の女主人である砕華は、ついに自分の店を持ったのだ。)
「うふふふふ……、とってもいい眺め…。」
(看板を見上げて、一人そう呟く。
腰に手を当てて、いつまでも見ていたいと言わんばかりの仁王立ち。
開いているのかわからない細目も、今日ばかりは嬉しそうに、いつもよりにこやかに見えた。
扉の前には、計画していた通り、花壇を設置した。
しかし、当初の予定では、祖国シェンヤンで咲いている花を、飾ろうと思っていたのだが、マグ・メールでは手に入らなかった。
祖国まで買い付けるか、とも思ったけれど、時間がかかりすぎる作業。
いつまでも、何も飾らない花壇では殺風景なので、マグ・メールで一般的な花で妥協した。
いつか、シェンヤンの花に植え替えるつもりだ。)
「んー…ほんとにいい眺め……。
ああ、でも寒くなってきたし、いつまでもこうしているわけには、行かないね。
店の中には、まだ何も置いてないし、作り貯めた薬を並べておかないと…。」
(冷えてきたのか、砕華はすこし腕を摩りながら、店の中へ入った。
いまだに、何も陳列されていない棚を、左右に首を振りながら眺め、また嬉しそうに笑った。)
■砕華 > (光が差し込むように設計された窓は、太陽が昇っている時間であれば、明かりは必要なかった。
2つの、三段式の棚にはいまだ、何も置かれてはいない。
だが、買い付ける際に注文した、掃除に関してだけ言えば、既に行き届いていた。
何年間か、誰にも使われることの無かった建物は、埃が全て取り除かれ、痛んでいた床も張りかえられた。
ただ、目立たない場所に、布の塊が一つ置かれていた。
露天の際に、使っていた製薬道具一式を拡げる暇がなかったため、仕方なくそこに置いていたものだ。
砕華は、その布の塊を「よいしょっ」と言う掛け声にあわせ、持ち上げると、カウンターの奥へと足を運ぶ。
簡易的なカウンターにも、今は何も置いてはなく、どこか広々とした空間のように、感じられた。
その場所へ、砕華は布の塊を置きなおすと、封をしていた口の紐を解く。
広がっていく布は、ふぁさり、とテーブルの上に、静かに広がり、包んでいた物を曝け出す。
陶器でできた乳鉢、薬を磨り潰すために使っている乳棒、三脚台、金網の受け皿、陶器の白い皿。
灯油を燃料にして火を起こすランプ、そして、乾燥させたいくつかの薬草。
それらを、分別するようにテーブルに並べ、製薬のための準備を先に整えた。
弧の店の売りは、なんと言っても目の前で、薬を作る作業をすること。
露天でも好評だったその行為、早々やめられるものではない。
本当は、誰にも見られない、静かなところでやるほうがいいのだけれど、薬が売れるならば。
砕華は、広がった商売道具を満足そうに見下ろし、カウンターの奥に隠していた、もうひとつの布の塊を取り出す。
此れも、テーブルの上で拡げる。
中身は、今朝方作ったばかりの薬。
風邪薬に始まり、胃腸薬や増強剤など、いつものラインナップだが、店を持つとどこか、特別なものに感じてしまう。
それらを両手に抱え、陳列棚へと分別し、そして並べ始めた。)
■砕華 > (全ての薬を陳列し終わると、その前に、露天のころより使っていた、値札を置く。
小さな木の板に、筆で薬の内容と、そして値段を書いただけの、簡素なものだが、これで十分だった。
中身で勝負、包装など、多少汚くても気にするものは少ない。
ただ、薬の内容が、書かれていたものと違えば、お客は怒って当然。
それを、極力少なくするのも、商売人として当然のこと。
砕華は、老師の教えを頭の中で復唱しながら、最後の。
増強剤の値段を書いた値札を、コトリと並べて。)
「……………うふふふふ。」
(此れで、完全に店を開ける準備は整った。
砕華は、声を抑えることを忘れて、含み笑いのような笑い声をもらす。
カウンターの奥へを足を進め、その場所から店内を見渡し、そしてまた笑った。
ここは、紛れも無く砕華の店である。
不敬ではあるが、王都最強の師団が、壊滅的な打撃を受け、飛ぶように薬が売れた。
傷薬、気付け薬、常備薬もそうだが、何より増強剤が、多少高く設定しても、売れた。
節約を重ね、マグ・メールに着て短時間で、自分の店が持てるなど、思ってもいなかった。
小さい店だが、裏手には薬草を栽培できる、庭も完備されている。
大通りにも面している、正に理想の立地条件。
それが、格安といってもいい値段で、手に入った。
魔族の侵攻を恐れた先代の持ち主が、出来るだけ早く手放して、金を手に入れようと安く設定していた。
其処に、砕華は眼をつけ、多少無理をしてでも、この建物を即金で購入した。
払ったお金など、薬を売れば、いくらでも元が取れる。
大事なのは、一刻も早く拠点となる、店を構えることだった。
此れでやっと、故郷で連絡を待っている、両親や老師に手紙を送ることが出来る。)