2016/10/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にマリーさんが現れました。
マリー > 平民地区の酒場。そこで一杯やっていたところ、信じられない情報が入ってきた。

「オーギュストが行方不明ィ!?」

懐疑を顔中に出しながら、それを教えてきた仲間に問い掛ける。

「ちょっと、ボクが酔ってると思ってからかってんじゃないだろうね?」

だったら一発痺れさすよ?とねめつけるも、ネタを持ってきた同業者は真面目な顔で返してくる。

『いや、これがマジなネタなんだよ!王都付近でも、軍属関係の奴はこの話題で持ちきりって話だぜ?』

「うぇ、マジにマジネタ?ふーん、あのオーギュストがねぇ……」

呆れたような、感心したような。
そんなよくわからない表情でほへーと頷く。
オーギュスト。正直嫌いと言うか気に入らない相手ではあったが、その強さは本物だ。
マリー自身の『天雷一鳴』を活用してみせたこともある。土壇場での発想力や芯の強さは本物だろう。
嫌な奴だろうが何だろうが、強い奴は強い。バウンティハンターの中では常識ともいえる事である。
が、そのオーギュストが行方不明。
これにはさすがに驚いた。

マリー > 『なんで消えたかっつーのは流石に表沙汰にはなってねーけどな。噂じゃあ、奴隷として囲ってた魔族に逆襲されたんじゃねぇのかっつう話だぜ?』

「うーわ、ありそう……」

続けられる噂話に思わず頷く。
いやホント、それならお似合いの最後だなあと思わざるを得ない。
なんせ、利がないと見ればついさっきまで共闘していた相手すらあっさり見捨てる男である。恨みの十や二十、買いに買っていてもおかしくない。
戦士として死ぬのではなく、背中を刺されて死ぬ。それなら似合いの最後だ。
……にしては、死体が出てきてないというのが不思議だが。

「ま、どーなってもボクの知ったこっちゃないけどねー」

『お前なあ、なんだかんだ言ってアイツからもらった勲章でタダメシ食ったりしてんだろ?』

呆れたように言われるが、それは事実だ。
オーギュストとの共闘後、文句をつけに行ったら『第二級竜鱗勲章』なる物を貰ったのである。
その効果は絶大で、雷光のマリーの名はそれなりに有名になり、酒場でもタダで奢って貰えることが多くなった。
そういう意味では、オーギュストの恩恵を大きく受けている身である。
だが……

「それはそれ、アイツがボクを見捨てようとした分なんだから。それ以降のことはボクには関係ないよーだ」

『お前、そういう所シビアだよな……』

「いちいち気にしてたら、バウンティハンターなんてやってらんないよ?」

『そーいうもんか……?』

あくまで、不義理に対するケジメとして貰った正当な受領品だ。貰えて当然であり、それ自体に恩義を感じる必要はない。
マリーはそのように割り切って考えていた。
何より、あのオーギュストに借りの意識なんて持とうものなら、何を要求されるかわかったもんじゃない。
貰った時点で貸し借り無し、イーブンだということでマリーの中では話がついているのである。

マリー > 「でもまー……」

『あん?なんだ?』

しかし、少し考えてボヤく。
そう、オーギュストが行方不明になったこと自体は、割とマリーにとってはどうでもいい。
縁は多少あったものの、お互いにお互いを尊重する関係ではなく、利用する程度の関係だったからだ。
マリー個人にとって、オーギュストの失踪は何の価値もない。
が。

「人間サイドとしては、ちょっとマズいよね」

『それ、それなんだよなぁ……』

そう。
オーギュストは有能な将軍であった。そのオーギュストから受勲したと言う事で、マリーの勲章もより輝きを放っているところは間違いなくあるのだ。
魔族と人間、その抗争の中で、単体性能で劣りがちな人間が魔族を押し返すための重要なピース。
オーギュストは、そういう立場でもあった。奴が前線で指揮を執り、魔族を圧し返したりしていたのは事実なのだ。
そのオーギュストが、行方不明。

「ボクが魔族連中なら、混乱が収まる前に攻め込むね」

『同感だ。死体が出てきてねぇっつーのが逆にめんどくせぇな』

魔族側からすれば、好機なのである。
オーギュストと言う将を失い、王国軍も混乱しているだろう。そこを攻め込まれたら、どうなるか分かったものではない。
行方不明と言うのはこういう時厄介だ。なまじ生きている可能性があるから、いないものと割り切り辛い。
魔族サイドからしても、いつ湧いてくるかわからないのが厄介なのではあるが……。

マリー > 「仕事、増えるかもね」

『だろーな』

二人して頷き合う。
急速に戦況が動いた時、傭兵やバウンティハンターは『使い潰せる兵士』として運用されることが多い。
そして、そこでしっかり稼ぐのが彼らの仕事だ。
だが、これは単なる特需ではない。下手をすれば、人類存亡に関わる大戦争が発生するのである。

「よし、じゃあボク帰るね。ちょっと、武装の手入れしとくよ」

『おう、俺もそうすっか』

二人して立ち上がり、酒場を後にする。
備えが必要と思えば、備えておく。
バウンティハンターに関わらず、当然のことであった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からマリーさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に砕華さんが現れました。
砕華 > (マグ・メール全体が、浮き足立っていた。
昼も過ぎたというのに、広場では通行人、井戸端会議、露天商。
それら全てが、先日起こった、タナール砦の一件で話が持ちきりだった。

王国が王国が誇る、最強の対魔族師団。その名を、第七王国騎士団。
その師団が壊滅、師団長たる男もまた、行方がわからず、死んだと口々に、人々が絶望に満ちた表情で言う。
しばらくは、タナール砦も魔族に支配されたまま、王国は何も手をうとうとしない。
そればかりか、貴族たちは早々に、このマグ・メールを離れて、遠く異国の地に拠点を移そう、と言う動きすらある。
正に、王国はいま、大混乱の最中にあった。)

『おい、ソイファ……お前も知ってるよな、あの噂。
第七師団が壊滅して、魔族がこっちに攻めてくるって言う噂だよ。』

「……ええ、聞き及んでいますよ。」

(紅一朝の主、砕華もまた、その噂をしかと耳に入れていた。
だが、いつものように、薬となる薬草を乳鉢の中で磨り潰し、粉になるまで砕いていく。
くるくると、軽く乳鉢を回し、中の粉を纏めると、火にかけた三脚台の上に乗せている、器の上へと移す。
後は、鉄の箸で粉を平らに均しながら、完全に水分を飛ばしていく作業を、繰り返し行う。
例の噂など、気にしている風貌も、まったく見えなかった。
いつものほうに、柔らかい微笑を湛えているような、開いているのかいないのか、分からない瞳で隣の露天商に、顔を向ける。)

「それで…私の商売に、何か差し支えることでも、あるのでしょうか?」

『え、いや……マグ・メールに攻めてくるかも、って思ったら…こう、怖くないのか、って…。』

(隣の露天商は、男性が仕切っているガラス細工の、工房だった。
程よく筋肉の付いた腕で、毎日ガラス細工を売っている。売れ行きはシェンヤンの言葉で、ぼちぼちというところだった。
表情をまったく変えない砕華に、男は一種の、恐れのような感情を抱き、濁すような語尾で尋ねた。)

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にカリギラさんが現れました。
カリギラ > 「どうしたものですかね…」

今日はあまり気分が良くない
掃除屋としての仕事が減った、いやそんな生易しい物じゃない
仕事が殆ど無くなってしまった
それでも約束の期日になったので紅一朝にまで足を運んだ

「心を強くする薬、有りませんか?」

露天商と話をする砕華
この王都の混乱の中でもわれ関せずのスタンスを崩さない彼女が羨ましい
はぁ…と少し大きなため息をつき冗談めかした言葉で話しかける

砕華 > 「ええ、怖いですね…。薬が売れすぎて、それはもう…。」

『い、いや、そういうことじゃなくて……。』

(砕華の言葉には、何の危機感も抱いていないように、男は聞こえた。
むしろ、くすくすと口にキモノの袖を当てて、笑っているように、肩を震わせる。
そのことが余計に、男は砕華が不気味に見えて、それ以上、口を挟んではこなかった。

砕華は内心、とても喜んでいた。
先日のタナール砦の一件、そのおかげで、戦争になって薬が高騰する前にと、いつにも増して客が押し寄せてきた。
一般人から上流階層、男も女も、老人でさえも、砕華の薬をこぞって買っていく。
手作りで、少し高く設定している自作の薬が、正しく飛ぶように売れていく。
増強剤、風邪薬、胃腸薬、傷薬……、それこそ、薬と銘を打つものは、何でも売れた。
薬屋として、商売人として、これ以上の喜びなど無い。
むしろ、毎日こんなことが起こればいいのにと、願わずにはいられない。
くすくす、くすくすとおしとやかに笑う薬屋に、今もまた一人、客が現れた。)

「いらっしゃい。…嗚呼、貴方でしたか、久しく。……心を強くする薬、ですか?」

(現れたのは、先日、睡眠薬を欲しているという客の青年、カリギラだった。
同じような服装で、やはり表情を隠しているような、赤い髪が特徴の青年。
砕華は、軽く一礼をすると、彼が所望している薬、について少し思案する。
思案するといっても、そんな大層な格好などしていない。少し、顎に人差し指を添えて、明後日の方向を見るだけだ。
そして、ものの10秒も発たないうちに、あの読めない、開いているのかいないのか分からない細目を向ける。
口元に微笑を携え、にこやかにこう、宣言した。)

「ないですね。」

(きっぱりと、本当にきっぱりと。
カリギラが所望した、心を強くする薬など存在しないと、半ば即答気味に答えた。
心を強くする薬、そんなものは存在もしない。存在しないという事は、作ることもできない。)

カリギラ > 「そうでしょうね…」

そんな薬が有れば王都から逃げ出そうとする貴族共の口にねじ込んでいた
本当、貴族というくらいなんだから命を懸けて国を守ればいいのに
分かっていた答えだったが落胆せずにはいられない
露天商の男が離れたのを見てまた口を開く

「頼んでいた睡眠薬、どうやら使う事も無さそうですよ
それに…貴女に薬を作ってもらうのも暫くはなさそうです」

はぁ…とまたため息をついた
本当に気が重い
折角砕華と言う最高の薬師を利用できそうになってきたのになんでこのタイミングで…
いくら薬を安く仕入れられても仕事そのものが無ければ意味がない

「あぁそれと、この前なんてシェンヤンで仕事をしろなんて狂った事も言われましたよ」

ハハハ…と乾いた声で笑う
シェンヤン皇帝を掃除しろなんて頭がおかしくなったとしか思えない
そんな依頼流石に受けられる訳がない

砕華 > (半ば諦めたような、カリギラの声にまた、砕華はくすくすと笑った。今日はいやに機嫌がいい。
既に陳列している布袋の数は、片手の指で数えられるほどしか、残っていない。
増強剤も、傷薬も、既に材料から底を付いてしまい、売り切れご免の状態に陥っている。
残っているのは、風邪薬、胃腸薬と書かれた札の後ろにある、数個のみ。

此れでも、作り足して売りさばいた。売れ行きは、先日の比ではない。
それも、一般人も買いに来るといったが、ほとんどが上流階級。つまり、貴族階級の人々だ。
言い値で買うから、大量に譲ってくれと、正に上客全たる振る舞い。商売人として、お得意様は大事にしないといけない。
大量に譲ったことで、今日の売り上げは前日の倍近く。このまま、残っているものが売れれば、今日はもう店仕舞いにしよう、とも考えていた。)

「……あら、それは残念でしたね…。せっかく、後もう少しで完成だったというのに。
原因はやはり、先日の砦襲撃の件でしょうか…?」

(頼まれていた睡眠薬、飛び切り強いものを、カリギラは所望していた。
それを受け、薬草を採取し、それを乾かして、粉にして火で炒り、後は固めるだけだった。
だが、それが必要なくなったという。笑みを浮かべていた口が、初めて驚いたように開いた。
てっきり、今日はそれを採りに来るだろうと思い、準備していたというのに。
しかも、追加で依頼しようとしていた薬も、しばらくは必要がないという。

その原因を予想するのは、砕華でなくても簡単だった。
魔族がタナール砦を占拠、その際に最強の対魔族用部隊と称されていた、第七師団の壊滅。
そんな話が舞い込んだ矢先に、貴族はこぞって、マグメールから逃げ出した。
タイミングが悪い、と言う。カリギラの依頼主は、貴族なんだろうと推測した。)

「……………ふふふっ、そうですね。確 か に、狂っていますね。」

(砕華は、そんな冗談を言う貴族を笑う、カリギラにあわせるように笑った。
袖で口元を隠し、さっきと同じように、肩を震わせ、くすくす、くすくすと。)

カリギラ > 何とこちらが凹んでいる時に限って向こうの期限はとても良さそうだ
禄に表情を動かさない彼女が笑うなんて、珍しい
売れ残っている薬を見ると常備薬ばかり…戦争のおかげなのだろう

「王国最強の第七王国騎士団の壊滅、これのせいで貴族達は天地をひっくり返したみたいになっていますよ
オーギュスト将軍の存在はそれだけ大きかったってことですかね」

それに加え、いまシェンヤンに攻め込まれたら魔族との二正面作戦になってしまう
将軍オーギュスト不在の状態で…
そんな事になれば王都は滅ぶだろう。それはもう確実に

「シェンヤンの皇帝を掃除しろと言われた日には正気を疑いましたね
1人で国を落とせと言っているようなものですよ」

客が居なければ仕事もできない
この混乱が収まるまでは節約生活なのだろうと思うと気が滅入ってしまう

「随分と気分がいいみたいですね?
まぁ今の状況はシェンヤンの得にしかならないですし気持ちも分かりますよ。はぁ…」

クスクスと笑っている彼女
そうして笑っていれば何と可愛らしい事か、いつもの鉄面皮が嘘のようだ

「笑顔を振りまけばもっと薬も売れていきますよ」

商売人としてそう言ってみる
彼女が笑顔で薬を売っていれば少なくとも男の客は増えるだろう
ギルドや店の受付に美人が多いのも同じ理由だ

砕華 > 「脆い平和の上に、圧倒的権力を誇るお方がいなければ、それは砂上の城の如く。
楔を打ち込んでも、下地が脆いと崩れるのはあっという間ですよ…ふふふ。」

(戦争が起これば、必ず薬や武器は売れていく。
ただ、砕華がこの時期に薬屋を開業したのは、まったくの偶然であり、仕組まれたものではない。
そもそも、此度の戦争は、人間と魔族の衝突。この国では、ありふれている事柄。
そこに、シェンヤンの思惑など、あろうはずがなかった。

だが、砕華にも、カリギラと同じ考えが浮かんでいた。
この、魔族との戦いで、決定的な打撃を受けた王国が、仮にシェンヤンに攻め込まれでもしたら、確実に敗戦する。
シェンヤン帝国に、王国が飲み込まれて、その領土は苔のむすまで、帝国のものとなる。
そう考えると、祖国を愛する砕華の笑いは不謹慎にも、留まるところを知らない。)

「…皇帝様を、ですか?…ふふふ、どこの不届き者が、そのようなことを言うのでしょうね?」

(そんなこと、出来るはずがない。
堅牢なるシェンヤン帝国の牙城。そこは、鼠一匹入り込めるような隙間は、ない。
見つかれば即座に首を切られて、確実に晒し首。皇帝に手を出そうものなら、もっと酷い。
冗談でも、シェンヤン人の前で皇帝を殺す、等と言うものではない。
カリギラの目の前で、砕華はうっすらと瞳を開いた。

まるで、その先の言葉を言えば、即座に口を閉じさせるとでも言わんばかりに、その笑みに殺意を込めた。)

「ええ、ええ……とっても。
だって、薬が沢山売れたんですもの。商売人として、これほど嬉しいものはありません。
嗚呼、でも…媚を売るのは、私は如何なものかと…。」

(その殺意も一瞬のこと。砕華は機嫌よく首を縦に振り、そして首を横にも振った。
商売人として、媚を売り諂って、薬が売れても嬉しくなかった。
ちゃんと、品物を見て、此れがいいと買っていってくれる客のほうが、砕華にとっては大事な大事な、お客様だった。
男の客が増えても、それ以上を望めないなら、それは願っている客ではない。
砕華は、看板娘ではなく、紅一朝の主人だから。)

カリギラ > 「私的な表現どうも…その砂上の城に残された私は憂鬱ですよ」

この王都はそれなりに気にいっている
住みやすく仕事にもつけて平和に暮らしていた
だからできる事なら崩れてほしくはないのだが…どうなるかはまだ分からない

「さぁ?ポロっと名前を出してその方に何かあれば私は罪悪感で眠れなくなってしまう」

守秘義務ではないが客である内は一定の誠意を見せる
それが色々と上手くやっていくコツだ
シェンヤンの皇帝の防備はまさに異常の一言
蟻ですら皇帝には近づけないのに自分なんかがそんな事をできる訳がない

「っ…寒いですね今日は
薬は売れるでしょうね。それに武器とポーションに食料、すぐに利益が出るのはここら辺ですかね」

戦うとなれば必需品となるこれらの売れ行きはとてもいい
悲しむ者も居れば笑う者も居るのだ

「その仏頂面だと薬を買う第一歩が踏み出せない方も多いと思いますよ?
特に若い冒険者や主婦の方とか」

実際に薬の効果を知れば砕華の薬は売れるだろう
だがその取っ掛かりが少ない
見るからにシェンヤン人であり美人ではあるが冷たそうな印象を受ける表情
声をかけにくい、この一言に尽きる

「ま、貴女にも薬師としての矜持が有るんでしょうし無理強いなんてしませんよ。
睡眠薬の前金、置いておきますね」

ある程度の金額のゴルドを置く
足りなければまた持ってくるのであくまで前金

「完成は…おそらく3日あれば作れそうですしまたその時に」

砕華のもう少しという言葉を思い出しそう告げる
この後は家に帰ってもう寝てしまうか、と砕華から視線を外した

砕華 > 「なそれなら、貴方もこの街から出ては如何でしょう?
私はもう暫く、この町で様子を見るつもりですが、もしキナ臭くなるようでしたら、離れようかと…。」

(この近くの港町、王国の第二の首都とも言われている、ダイラスという街。
そこも、ここほどではないにしろ、活発な町だと、客の一人から聞き及んだ。
砂上の城に残るくらいなら、拠点を其方に移すのも、考える。
砕華も、砂上で崩れていくしろと心中するのは、真っ平ごめんだった。
せっかく、立ち上げた紅一朝だけど、一度畳んで、別のところへ移住することも、考えなくてはならない。
商売人足るもの、身の安全は常に、保障しておかなければ。)

「ふふふ…なにもありませんでしょう?」

(名前を聞いたとしても、誰が聞いていたとしても、その方に何か、災いが起きるとでも言うのか。
異常の鉄壁を誇るシェンヤン皇帝、まさに象徴であり、絶対的指導者様。
誰も近寄れないし、近寄らせることも無い鉄壁の壁に、一体何が出来るというのだろうか。
くすくすと、袖で口元を隠し、おかしそうに砕華は笑って、開いているかわからない細目をそっと開いた。)

「秋も深まり、肌寒くなってくる時期ですからね、如何でしょう、お鍋など食されますか?
ええ、本当によく売れてくれます。傷薬に解熱剤なんかが、いまの売れ筋です。
如何でしょう、カリギラさんも一つ…。50ゴルドほどになりますが。」

(砕華は、三脚台に乗った薬草の粉末が、完全に炒れたことを確認するために、臭いをかいだ。
つんとした、香ばしい臭いを確かめると、それを傍らにおいていた器の中に移し、少量の水で溶く。
粘りの強い、軟膏へと作り変えると、それを全て皮袋につめて、ぎゅっとしっかり、口を閉じた。
その薬を、『傷薬 50金』と書いている札の後ろに陳列し、いま在る材料で作れる、最後の一つを品に加えた。
ただ、50ゴルドというのは、一般的に出回っているポーションよりも、高い。
高級なそれよりは安いものの、それでも一般的な薬に比べると、10ゴルドほど高かった。)

「仏頂面……でしょうか?」

(砕華は、自分の頬を軽く、右手でぺちぺちと二回叩いた。
何を考えているのかわからない、いつも微笑んでいるように見える。
そういう風にはよく言われる。けども、仏頂面といわれたのは初めてだった。
訝しげに眉をひそめ、隣に板ガラス細工の工房の男に、同じように質問を投げた。)

『いや…そんなことはないと思うぞ。何を考えてるのか、解らないときはあるけどな。』

「…一言余計です。」

(雑談を交しながら、砕華は、差し出されたゴルドを受け取った。
前金、と銘打たれたそのゴルドの数を数えると、納得したように首を縦に振り、袖の中に、大事そうにしまう。)

「ええ、そうですね。三日後、この場所に並べておきます。
お買い上げ、ありがとうございました。」

(三日もあれば、薬は完成ずる。
固めるだけでも、寝かせる等の肯定があるため、カリギラの期限は的を得ていた。
視線が外れると、後ろのほうで、かちゃかちゃと音が鳴り始める。
砕華が、店仕舞いを始めたのだろう。)

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からカリギラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」から砕華さんが去りました。