2016/08/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 露天通り」にジブリールさんが現れました。
■ジブリール > 露店通りの酒場の前で、少女は一人寂しく酒飲みだった。
ちびちびと傾けるグラスの中身は、濃い酒精を含む琥珀色の液体だ。
ほろ酔い気分の少女は、久しく持て余し気味に周囲を眺めている。
狙いはかわいい女の子や男の子――あるいは綺麗な女性や男性だ。
とは言え、出会いというのは偶然の産物。中々上手くは運ばない。
故に少女は、酔いを深めながら、つまみの肉をかじっていた。
「あぁ、もう、誰か上手い具合に転がり込んでこないかしらね……?」
アンニュイ表情を向ける先、露店通りはいつも通りに賑わっている。
テラスになっている席は、なんとも蒸し暑く、グラスは水が滴っていた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 露天通り」にリンさんが現れました。
■リン > 近づく足音。
テラス席で酒を楽しむ少女の背中に、何かがぶつかる。
その拍子に、運が悪ければグラスの中身を零したりグラスを落としたりしてしまうかもしれない。
「おっと、ごめんなさい」
振り返ると、バイオリンケースを肩から提げた少年が立っている。
伸ばした藍色の髪と纏う衣装が中性的な印象を与える。
どうやら、近くの席に座ろうとしてケースが少女にぶつかってしまったようだ。
詫びて頭を下げる。
■ジブリール > く、と酒を飲み、次の肉に取り掛かろうと手を伸ばした時の事だった。
後ろから何かがぶつかり、少女を前に押しつぶしたのだ。
むぎゅ、と潰れかかった声が出て、空のグラスがごとりと転がる。
割れる前に手を伸ばし、拾い上げる。――割れた所で元に戻せばいいのだが。
かかる声には振り返ると、じっとりとした視線を向ける。
「……危うくグラスを割る所だったじゃない。気をつけなさいな」
そう言うと、ふと顔を見て視線を止める。
中々に可愛らしい造形――男性にしては線が細く、儚げな印象だ。
背丈は自分より大きいが、その程度ならば気にはすまい。
こほん、と咳ばらいをすると、バイオリンのケースを見ながら。
「まぁいいわ。実害はなかったし――もし一人なら、一緒にいかがかしら?」
手を出すにしろ出さないにしろ、好みの容姿ならば誘ってみるのも悪くない。
彼が乗ってくれるというならば、対面の席に促そう。
ついでに注文の一つ二つくらいならば、ぽんとご馳走するつもりだった。
■リン > 幸いにも弁償しなければならない害は与えていないようだ。
注意していないわけではないのだが、
この手の過ちはちょっと気を抜くとすぐにやらかしてしまう。
四六時中持ち運ぶには適していないのだ。
誘いには、少し躊躇してから、首を縦に振って対面の席へ。
迷惑を掛けておいてその上誘いにも乗らないのはバツが悪い。
ケースや荷物を傍らに置いて、適当に飲み物を注文する。
「こう蒸し暑いと、注意力も下がってしまってね。
ちょうどここで英気を養おうとしていたんだ。
……ローブのきみのほうが大変そうだけど」
首筋に浮かんだ汗をハンカチで拭う。
■ジブリール > 目の前、彼が座るならば、その様子を満足そうに微笑んで。
見えるケースの大きさから中身を推測すると、容姿も素早く観察。
長い髪がなんとも繊細で、わずかな風に揺れている。
適当に飲み物を頼む姿を見ると、こちらも追加で酒を頼む。
「あぁ、最近はひどく暑いから疲れるのも仕方ないわね。
ここの料理は肉の串焼きがおすすめよ。レモンを絞って齧り付くのが流儀らしいけど。
――ふふ、皆そういうけれど、汗一つかいてないのよね」
汗を拭う彼の前、少女は黒づくめの暑そうな服にもかかわらず、平然としている。
魔女の手遊び《ウィッチクラフト》で衣服全てに冷気属性を付与して、冷房代わりにしているのは秘密だ。
とは言え、先ほどぶつかった時のように近くに来れば、少女の周囲がわずかに涼しいことに気づくかもしれない。
「それにしても大きな荷物ね。中身はなぁに?
――武器、というわけじゃないと思うけども」
そうだとすれば何かしら?などと楽し気に問うてみる。
■リン > 「へえ、そういえば……」
言葉の通り、よく見れば暑さに苦しんでいる様子はない。
ぶつかった時の些細な違和感を思い出し、
身を乗り出して近づいてみると、冷気をまとっているのがわかる。
「なるほど。そういうまじないか。……あっと、失礼」
はっと気づいて再び身を戻す。
見た目年少とはいえ、女性に近づきすぎたのを不躾に思ったのだろうか。
青塗りのケースについて問われ、それを手でそっと撫でる。
「これは……まぁ、ある意味武器と言えるかもね。
厄介な楽器だから、気易く奏でることはできないよ」
薦めに応じて注文した肉の串焼きと果実酒が届き、グラスに口をつける。
優れた術師ならばケースの中身から不吉な気配が感じられるかもしれないし、
呪われた弦楽器《アクリス》についての風説を思い出せるかもしれない。
■ジブリール > 「ふふ、魔女だもの。わざわざ暑さを感じようとしない限りは快適よ。
花火を見たりするときは、風情を優先して使わないけどね?」
などと微笑む。目の前、近づいてきた彼を気にするそぶりは見せない。
呪いと言われれば頷き、手元の空のグラスを人差し指でつついて見せる。
とぷん、と空のグラスに清らかな水を呼び出し満たすと、くいと一気に飲み干して。
「まぁ、こんなこともできるわね――っと、そう、厄介な楽器、ねぇ。
確かに不穏な気配を感じるし……その大きさだと、あれかしら?」
人の精神に作用する音を出し、快楽や精を求める楽器があると、聞いたことがある。
それならば確かに、気軽に演奏などできないだろう。これだけ人がいれば尚更だ。
そして、注文したものが届くならば、少女は林檎の酒が入ったグラスを右手に掲げ。
「それじゃ、乾杯。――私はジブリール、魔女よ。
せっかくだもの、自己紹介くらいはしておくわ」
相手に無理やり問うことはせずに、応じてくれるなら、ちん、と一つグラスを合わせて。
後はそのまま、酒を含んで味を楽しむことになる。
■リン > 「へえ、それは便利。
魔女、か。名乗られてみるとなかなか恐ろしい響きだ」
気軽に行使される不思議な力に目を丸くする。
余裕のある微笑みといい、見た目よりも経験を重ねているのかもしれないと考える。
少年も楽器を用いて呪力を振るうことはできるが、日々の生活を良くする風には使えない。
「うん、それで合っているよ。
こいつのおかげでぼくの人生はかなり狂わされた。
最近は比較的おとなしくしてくれるから、こうして担いで外にも出れるが」
さして深刻でもなさそうに言って、苦笑する。
この手の呪具はおいそれと手放すことはできないのだ。
「ぼくはリン。張り合えるほどの身分はないが、よろしく」
肩をすくめてそう言うと、相手に応じてグラスを鳴らす。
そうして酒を呷ると、酒気に頬が薄らと紅くなる。
■ジブリール > 「便利も便利、魔法も使いようってやつよね
あら、急に怖くなっちゃったの?――大丈夫よ、取って食べたりはしないわ」
人間より牛のほうがずっとおいしいもの、などと付け足しつつ、串焼きを一本つまむ。
お行儀は悪いが、かぷと横から噛みついて、そのまま串を動かし、一切れを食らうのが非常によろしい。
強めの塩気が甘めの酒にマッチし、脂身のジューシーな肉感が舌の上で踊った。
「――ん、それは随分大変だったわね。悪名高い呪具よ、それ
おとなしくしている、ということは、ふむ、あなたの快楽や精を食ってるのかしら?」
逸話は知っているから、とばかりに問いかけてみる。
彼が望むなら、一時的に影響を緩和する護符ぐらいは作れるはずだ。
その時はその時で、可愛い姿を見せてもらうのが対価になることだろう。
「リン、ね。身分は関係ないわ。魔女は自らの気に入る者を懐に入れるの。
それじゃ、よろしく……♪」
酒精に顔が赤くなる彼を見ていると、これが紅顔の美少年かという思いになる。
今宵は出会ってすぐ故に、手を出す気はないが、少しばかりぐっと来たのは内緒だ。