――辺境の国、アルズワースからやってきた隻眼隻角の女、ウルスラグナは、割と不幸な道を辿っていた。
かつて名を馳せた悪逆そのもののような蛮族の頭目になったのは、自分を今の片眼片角の姿にした一人の剣豪によって父親が切り殺された日。 復讐と蛮族としての矜持を以て勇んだ結果、彼女は片目と片角を文字通り『一刀両断』され、 角という頭目としての証をへし折られたことで、部族から迫害されるようになった。
放浪する中再会したその剣豪へ、せめて再び挑んで殺されようとした心は、敢え無く剣豪の無慈悲な介抱によって、三度踏みにじられる。
剣豪はとても気まぐれに彼女へ剣を手ほどき、やがては彼女自身が国に認められるほどの大剣豪となったころ、 その剣豪が自分の席を彼女へと譲った。
師匠と呼び慕うようになってから、彼女は難しいこの世の理を、失った角の分ちょっとずつ静かになっていく頭で理解し、 それでも分からないことだらけの中、旅をしていた。
――――荒原のなんてことない石ころに躓いて転び、岩に頭をぶつけ、記憶を失うまでは、きっと幸福だったかもしれなかった。
記憶を失う前までは、蛮族の頭目であった名残と、失われた片角と共に抜け落ちた野生が、幾らか女としてはとてもじゃないが淑やかとは掛け離れた野性的な性格をしていた。物事の是非に力という物が常に加わっていたのは、記憶の中の蛮族であったという認識があったからだ。 故に、記憶を失ってからは、ただ冷静に、幾らか同じ位の年の女性より物事を見ることが出来るだけの、知恵の少ない、清廉な振る舞いをしながらも大人しい人格となっている。
身長127cm。紫掛かった赤色の長い長い蓬髪、紅玉のような左目と包帯が包帯がまかれて隠れた右の目。褐色の肌に無数の傷。着崩した金の装飾入りの黒い軍服。頭部には左側にのみ湾曲して枝分かれした角を持ち、左の角のある部分や右目の付近には包帯でも隠れ切らない傷跡がある。
彼女の蛮族たる所以の角は片方だけ。手入れなどしないのが蛮族だからか、伸び放題に枝分かれをし、少しだけ禍々しくなっている。 切れ長の目はきっと服装さえ綺麗に飾れば美しく凛としたものにもなりうるだろう二重の紅色だし、 褐色の肌も、傷跡が多くさえなければ、それは健康的な色艶を発揮している頃だった。 与えられた軍服をまともに着てはいないようで、着崩れたというより正しい着方が分からない部分を外しているだけのようにも見える。 蛮族の頃の名残だろう武骨な鉄剣という大得物は、何時も背中に持っている。 ……ゆえにその豊かなハリのある胸は、剣を振るう度に大きく揺れるようだ。 |
|